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BOOK INFOMATION

単行本 『 片付けられない女魂 』 は、Amazonマーケットプレイスで購入できます。
片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)

深夜1時。
学校の脇に停めた車のフロントガラス越しに見える満天の星に圧倒されていると、ふと、自分が猛烈に〝誰か〟を欲していることに気がついた。
誰か。
この真っ暗な街じゃなく、明るいところにいる誰かと話がしたい。
突如湧きあがってきた欲求を抑えることができず、真っ先に思い浮んだ親友にかけた電話は、難なく繋がった。

「あれ?なんで繋がったんだろ?」

間の抜けたあたしの第一声に、彼女は泣きながら、「たぶん奇跡」と即答した。
言われてみれば、電話もメールも繋がらなかったこの日、なぜだかあたしの電話はよく繋がった。
夏目父の「今晩なに食べるの?」という呑気な声も、義兄の、「車が流されちゃったから明るくなったら迎えにきて」という震える声も、左手に握った黄色い携帯電話が聞かせてくれた。

「街じゅう停電してるから星がすごいんだよ」

それが伝えたくて電話をかけた気がしていた。
生きているということ。そして、星がとても綺麗だということを。

泣きながら相槌をうっていた彼女が言った。

「自衛隊が向かってるからね」
「え?来れるの?」
「行けるよ」

柔らかい彼女の声がキュっと引き締まる。
彼女が言うのなら本当なのだろう。
だけどあたしは、それを素直に受け容れられないほどの、大きな疑念を抱いていた。



「ちょっと確認したいんだけど」
「うん」
「本州、ちゃんとくっついてるの?」
「え?」
「福島あたりで切れちゃって、本州が二つの島になってたりしない?」



あんなに長くて激しい揺れと轟音だもの、細長い島が割れていてもおかしくない。
わりと本気でそう思っていた。



彼女は少し黙った後、一層引き締まった声で力強く答えた。



「今のところ、『本州が割れた』っていうニュースはやってないから大丈夫。行けるよ」



いまとなっては笑い話で、実際、彼女とこの時の話をするたび、涙を流して笑っている。
だけどそのときのあたしは本気で、だから、馬鹿なことだと笑い飛ばしたり茶化したり誤魔化したりしない、気休めでもない、真正面からの答えが欲しかった。
ここが日本から離れたわけじゃない。
ちゃんと道は続いていて、時間がかかるかもしれないけれど、助けはくる。
生きていれば、待っていれば、助けにきてくれる人がいる。
そう言いきってくれる誰かが、答えが、希望が必要だった。



あれから10年が経った。
「どうすれば助けられたのか」
自問自答はいまだに続いている。
「いつになったらふるさとに帰れるのか」
その問いに、真正面から答えてくれる〝誰か〟を求めている人は、まだまだたくさんいる。

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■ 夏目父はすこぶる元気です。スマホとノートパソコンとNintendo SwitchとスカパーとWOWOWとNetflixとAbemaTVとともに、不要不急の外出は控え、なんなら必要な外出もせず、急な用事は即座に諦め、「効率」や「努力」や「創造」や「生産性」という概念のない世界を易々とこしらえて、健全にひきこもっています。これから二度寝するそうです。

@natsume3am
あたしには、ふるさとと言える場所がない。
生まれたのは、父親がたまたま転勤で行った町だったし、その後も親の仕事の都合で全国各地を転々とした。
今の町に越してきたのは高校入試の願書締め切り直前で、それ以来、数年を除いてはほぼずっとこの町で家族と一緒に暮らしているけれど、なぜかいつまで経っても、「転々とする中でたまたま一番長く住むことになった町」としか思えなかった。
この町に墓まで建てたというのに、それでもここも、「ふるさと」とは違う気がしていた。

小さい頃、たびたび親戚の家に預けられた。
数日だったこともあるし、一年だったこともある。
世話をしてくれたのは、祖父母だったり伯母や伯父だったり年の離れた従姉だったりしたが、行き先は、母が生まれた町であることが多かった。
夏は、祖母が作った浴衣を着て、祖父のとっておきの場所で花火を見た。
船から打ち上げられる花火は、海に映って何倍にも輝いた。
祖父が漕ぐ自転車の後ろに乗って釣りにも行った。
針にかかった魚に引っ張られて海に落ち、立ち泳ぎを覚えた。
叔父に連れられきのこや山菜を採りにも行った。
あるだけ採ろうとするあたしに叔父は、「見つけた人のものじゃなく、みんなのものなんだよ」と言った。

小学6年で移り住んだ海辺の小さな町では、夏の朝早く、ラッパを吹きながらゆっくり自転車をこいで、おじさんがとれたてのイカを売りにきた。
家から学校までの道沿いにある魚屋さんで、その町では「あいなめ」を「ねう」と呼ぶのだと教えてもらった。
海水浴場へは船に乗って行き、桟橋に着く手前で船から海に飛び込んではしょっちゅう叱られた。
秋の終わり、学校の裏手にある山で松ぼっくりを拾った。
先生は教室の後ろに用意した大きなダンボールにそれを入れて、教室の石炭ストーブの火種にした。
石炭ストーブを見たのは初めてだった。
近所のお年寄りが飼っている大きな犬の散歩係になった日、突然走り出した犬に引きずられて体の半分をすりむいた。
次の日もその次の日もまたその次の日も引きずられてとうとう泣いたら、翌日から犬はゆっくり歩いてくれるようになった。
引っ越すことが決まった日、お父さんが持っている一番小さな船をこっそり持ち出したマサくん達と、無人島に探検に行った。
無人島だと思っていたのに、そこにはマサくんのおじさんが住んでいて、みんな頭をゴツンとやられた。

そして、家族4人でこの町にきた。
ほどなくして家族は3人になり、やがて2人になった。
あたしはこの町でたくさん笑い、すこし泣きながら大人になった。



震災に遭い、いまの町を歩いたり、馴染み深い町や久しぶりの町に行くようになってから、あたしにはふるさとがないのではなく、ふるさとが人より多くあるのかもしれないと思うようになった。
でも。
大勢できのこ鍋を囲んだ叔父の家は、まだ海の底にある。
夏の朝、ラッパの音で飛び起きた家は燃えてしまった。
夏目父は、この町で自分が始めた会社を「捨てて逃げるしかなかったしね」と言って笑った。



あたしのふるさとでは、今この瞬間も、多くの人が悲しみ苦しみ傷つき、絶望の淵で爪先立ちしている。


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 ■ 夏目父はすこぶる元気です。無駄に元気です。
@natsume3am


ネットやケータイに加えてkindleiPadが普及しつつある今、新聞や書籍などの紙媒体不要論を目や耳にする機会が増えてきた。
紙媒体が完全になくなることは暫くないとは思うが、これを単なる流行だとも捉えてないし、実際紙はどんどん少なくなるのだろうし、もしも好きな作家の新作が電子書籍としてしか読めないのならあたしは迷わずそれを買うけれど、そうなっていないから、今のところあたしはまだ、新聞も小説も紙で読んでいる。
場所をとらないとか読みたい時にすぐ買えるとか、電子書籍の良さはたくさんあるだろうが、紙ならではの良さもたくさんあると思っている。
でも、これだけは声を大にして言いたい。



うちの郵便受けにチラシを入れても、10ヶ月は見ないですよぉー、と。






かつては、DMやポスティングを企画する側だったこともあるし、大昔にはポスティングのアルバイトをしたこともあるのだが、でも、その頃からすでに、常に、「ポスティングにどれだけの効果があるんですの?」と疑問を抱いていた。
だから尚更、広告媒体が多様化し、企業だけでなく家庭でのペーパーレス化が進んでる今、なんで「チラシをポスティング」なわけ?と思うのだ。
近所のクリーニング屋とか飲食店とかなら解る。
あと、ピザ屋も許そう。
あたしが「なんだかなあ」と思うのはそういうのじゃなくて、ターゲットを絞らずにポスティングしている感が見てとれる一流企業のチラシやダイレクトメール、フリーペーパーの類である。

仕事を終えて家に帰ってきて郵便受けを開けた時、まるで紙ゴミを突っ込んだかのようにグシャっとなったそれらが入っていたら疲労感が増す。
仕方なくそれらを持って、思いつく限りの暴言を頭の中で吐きつつ、大事な郵便物だけを抜きながら階段を上り家に入る。
で。



靴 箱 の 上 に ド サ っ と 置 い て 放 置 、 と 。






……って長々と書いてみて解った。
最後まで不満を溜めつつやった仕事はクオリティが低い、ってのと同じように、文句ばっか言ってから整理しないんだな、俺。

まあとにかく。
いよいよ、いつ何時ズサーっとなってもおかしくない高さになってきたので、これ以上の汚玄関化を阻止すべく整理に着手した。

基本的にこの山の中にあるのはチラシやダイレクトメールやフリーペーパーばかりで、たとえば自動車税の納付書みたいな期限のあるものや、待ちに待っていたものは開封済みなので、数冊ある、Amazonや楽天ブックスで買ったのに開封してない本を除けば、あとは山ごとドサっと捨てても全く困らないハズである。




(山のてっぺんは、「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作)
ふがいない僕は空を見た
(泣けるんだ、これが)



それらを抜いて山ごと裏返してみた。






本当ならこれをこのままゴミ袋にツッコんでしまいたいのだが、如何せんわが街には「分別」という素敵なルールがあるため、これを、資源ゴミ・包装用プラスチックゴミ・その他のゴミの3つに分ける必要がある。



…………………………。





分 別 メ ン ド ク セ 。



……なんて、4年前から全く進歩していないことを思いつつ、渋々、分別を始めた。




(秋かー。秋刀魚たくさん食べたなー)




(冬かー。カキ。あん肝。たらの白子。年中食べたいんですけど)


(忘年麻雀大会で例年通り大敗)


(新春麻雀大会で例年通り大敗)


(すっごく欲しかったのに、TVで「40代の男性に大人気」と言ってて即萎えた)


(決算時期が憎い)



……と、結局、チラシやダイレクトの中身までガッツリ見ながら分別していたところ、ようやく、探し求めていたイイモノを見つけた。




(うひょひょひょ!)



が。
これを開封すると、全てを放り投げ、財布だけを持って家を飛び出したくなるのがわかっているから、はやる気持ちをぐっと抑えて、最もメンドくさい分別に取り掛かった。






電話会社からの請求書である。
よその街のことは知らないが、我が街でこの封筒をざっくり分別しようとすると、こういうことになる。




(上=封筒の裏は資源ゴミ、下=封筒の表は燃やせるゴミ)



正確には、宛名窓のフィルムを綺麗に剥がせばそれだけが燃やせるゴミで、他は資源ゴミになるのだが、超メンドクセと思いながらやっているせいでいつもかなり手こずるので、ここまでやれば良しとすることにした。(元来、雑)
っていうか。
固定電話で通話をしなくなって久しいから、送ってこなくていいんだけどなー。







…………………………。



@ビリングを申し込めば問題解決、と。
(NTT西日本のサービス 『 Myビリング 』 はコチラだそうです)



クレジットカードの請求明細書や宛先の入った封筒は、セキュリティスタンプをコロコロした後、資源ゴミへ。








始めてみれば30分程度で終わったので、大した手間ではないってことは百も承知なのだが、3分だろうと3秒だろうと、メンドくさいモンはメンドくさいのだ。




(100点じゃないざっくりとした分別でもメンドウに変わりはない)



で、いよいよ、最後にとっておいたお楽しみを開封する時がきた。




(うひょひょひょひょひょ!)



「無料券在中」とスタンプが押された茶封筒の中には、我が家にポスティングされた広告の中で、唯一あたしが有効活用できるものが入っているハズである。
高価なものでは全然ない。
でも、たとえ10ヶ月に1度でもいいから、確実にニーズがあるこれが入っていてくれるのなら、他のチラシやDMやフリーペーパーの分別だって苦にならないと断言できる。
あたしにとっては、そのくらい嬉しいものなのだ。
さあ行くぞ。




い ざ 開 封 !











………………あれ?





無 料 券 、 入 っ て ね ー し 。





…………………………。






(さようなら)




(……はっ!)




(もしや、チラシのどこかに無料券がくっついてる……?!)




(やっぱねえし)



10ヶ月も積み続け放置していたものを処分したのだから気分がスッキリしてもいいようなものだが、唯一の心のよりどころであった雀荘のゲーム無料券が入っていないと判り、心身ともにどっと疲れた。
が。
我が家の玄関に置いてあったゴミがこれで片付いたわけではなかった。
放置していた期間はチラシより短いものの、チラシとは比べ物にならないくらい邪魔で厄介なブツがまだあったのである。



(まだ続く)





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 カテゴリを変えても浮いてる感が否めない、俺&蟲の人。


マンション管理組合の会計担当になったので、先日、町内会費を集めに全戸を訪問して回った。
いつ行っても何度行っても不在の家や、うっかりなのか故意なのかインターフォンの電源が入ってない家、「○月×日なら払えるかもしれない。いや、払えないかもしれない」という家などがあって難儀もしたのだが、これまで何年も挨拶を交わすことしか関わりのなかった人とのコミュニケーションは思ったよりもずっと楽しかった。
が、それ以上に興味深かったのは。
同じマンションなのだから、どこの家も、特に玄関先は似たような作りだというのに、照明の色や玄関マットや三和土の横にある靴箱の上の飾り方なんかで随分印象が違っていたこと。
和風だったり北欧風だったり無印っぽかったり、でかいリボン猫のぬいぐるみを置いていたり(萌えた)、なんというか、玄関は、住んでいる人の好みやセンスや暮らしぶりを表している場所なのだなあと、21歳にして初めて気づいたのだった。(年齢をサバ読んでいる痛いおばちゃんはスルーするが吉です)



風水では、みたいな話をしたいわけではもちろんない。
もっと単純な、というか、もっと低ぅーいレベルの話。



玄関に郵便物を10ヶ月も積み続けたあたしは、
やっぱ汚部屋住人気質なのね。



という話である。




(いつズサーっとなってもおかしくない量だが俺基準では、全然大した事はない)




(それどころか、びゃーっと広げず、一ヶ所に積み上げ続けたことが奇跡)



というわけで、汚部屋マニアのみなさん、こんにちは。
4畳半の壁の続きを始めネタはたくさんあるのに、如何せん8ヶ月半、140文字以内の、文章とも呼べないようなものをTwitterに書くだけだったので、全く調子がつかめませんが、とりあえず、文章を書くリハビリも兼ねて、玄関に積み重ねていた郵便物を整理した話から書こうと思っております。
っていうか。



あたしの記憶が正しければ、この中に、すんごいイイモノが入ってるハズなんだ。











(短め。明日に続きます)





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 本を出す人とか、こっち界唯一の良心とか、蟲の人に倣い、カテゴリを変えてみました。



(この記事は、サイバーバズの試用レポートを含んでいます)




ブログを書き始めた当初から、汚部屋画像はケータイのカメラで撮っている。
なぜなら、確かに持っていたハズのデジカメが汚部屋のどこかに埋もれて行方不明だったからである。
しかし、汚部屋にあった大量の不要品を捨てたというのに、今日に至っても尚、なぜかデジカメは見つかっていない。
そんなあたしにとって、ケータイのカメラはブログを書く上での必需品なのだが、随分前にレンズカバーを傷つけてしまい、よほど条件を整えないとまともな画像が撮れなくなったにも関わらず、機種選定がメンドウクサイという理由から、買い替えないまま今日にいたっていた。

そもそも。
通話とメールとカメラとおサイフケータイ(FeliCa)が使えればいいってぇのに、多機能過ぎるイマドキのケータイは、あたしにとって無駄に重い。
更に、スライド式のケータイが好きなので、パカっと開いて縦にびょーんと長くなる二つ折りケータイが煩わしくて仕方ない。
iPhoneくらいシンプルな作りのがいいのだけれど、カードスリット付きのiPhoneケースにするとかひと手間かけない限りiPhoneでFeliCaは使えないようだし、それ以前にあたしは(大人の事情により)長年docomoユーザーだ。
つまるところ、時代の波に乗り遅れているがゆえ欲しいケータイがないので、今使っているケータイが完全に壊れたら、何世代も前のケータイをどこかで入手しようかと考えていた矢先、CyberBuzzから、ドコモの最新ケータイを試用させて貰えることになった。






これを使ってみたい!と思った一番の理由は、本来は縦にびょーんと長くなる二つ折りケータイなのにタッチパネルなので、ディスプレイを回転させれば、あたしが必要としている「通話」「メール」「カメラ」「FeliCa」が、畳んだままで出来ることにある。




(閉じたままで新規メールを作成しようとすると……)



(画面下部に、テンキーが表示される)




(片手でも余裕で打てまーす)



これまで使っていたスライドケータイのテンキーよりもひとつのキーの表示が大きいので、想像していた以上に入力がしやすい。
もちろん、あたしが全く使わないであろう機能もてんこ盛りなので、これまで使っていたケータイ(120g弱)よりは重いし、同僚の一部に「お前はらくらくホンで十分じゃね?」とまで言われているあたしがこの多機能ケータイをフル活用できる日が来るとは思えないのだけれど、でも、もっと単純に、"基本操作スタイルがツボ"というのが、あたしにとって最重要なのだ。






ちなみに。
標準で付属されているタッチペンを使って撮った画像をデコれるらしいので、常に最新機種のケータイを持ちたがり、このケータイにも興味津々な夏目父に、リボン猫グッズを撮影しタッチペンを使ってデコって貰った。









デ コ り 過 ぎ て 原 型 留 め て な く ね ?





次に。
同じくタッチペンで絵が手描きできるらしいので、トライして貰った。











幸 薄 そ う じ ゃ ね ?





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 初の予約投稿にチャレンジ中。片付け記事の復帰一発目は8月10日の夕方更新されるハズです。


家にいる時間が少なくなると、それまで全く気にしていなかったことや急ぎでもなんでもないようなことが、気になって気になって仕方なくなったりする。
大昔、付き合っていた男と休みのたびに会うのが暗黙のルールになってしまったことがあったのだが、その頃あたしは土曜の朝になると決まって、なんでだか布団を干したい欲に駆られていて、「布団が干せないのなら布団乾燥機を買うべきか!?」と本気で考えたりした。
天気の良い週末に布団を干したくなるのは至極当たり前の感情だとは思うのだが、当時のあたしは既に、陽の当たらないコテコテの汚部屋の万年床で寝起きするような人になってしまっていたから、天気のいい週末に何も用事がなかったとしても布団を干したことはなかったし、その男と別れて早速布団を干したかというと、それもない。
実際のところ、その男と別れて最初の週末にやったのは惰眠で、翌週は、土日続けて朝から晩まで雀荘にいた。
つまり、どうもあたしは、ひとりの時間が減ることにより、わけのわからない焦燥感を生み出してみるタチらしい。
さて。
ここ数ヶ月、平日週末問わず、家にいる時間が極端に短くなったあたしの気掛りは専ら「お箸」だった。
確かに、長年使っていた箸の先の塗りが剥げてはいた。
でも、たとえばそれで唇を傷つけたとかいうわけではないし、そもそも、暫く自宅で食事が出来ていなかったのだから、仕事が落ち着いたらゆっくり新しい箸を買いに行けばいいだけのことだ。
そう頭では判っているのだが、でもなんでだか家のことを考えるたび、「新しいお箸を買わなくちゃ!」と軽く焦っていた。
そんなある日のこと、風呂と着替えのために家に帰ると、トイレの便座カバーがピンクのに変わっていた。




(マナーとしてぼかしてますが、我が家の便器はなぜか綺麗。小人の仕業か?)



まあ、長期間あたしが替えてなかったから夏目父がやる気になるのは理解できるけど、それにしても、家にピンクの便座カバーなんてあったっけ?
ねえよ。
もしかして夏目父が買ってきた?
いやいや、ヤツにこの手の買い物が出来るハズはないから、きっと、使わないまま家のどこかにあったのを見つけたんだろうなあ。
洗ったやつがちゃんとあるのに、それは見つけないでこっちを見つけちゃったんだろうなあ・・・・。
くらいに思っていた。



そしてまた別のある日。
深夜に帰宅し、コーヒーを淹れるため真っ暗なリビングの灯りをつけると、テーブルの上になんとも微妙な物が乗っていた。




(どう薄目で見ても菊)



墓参りに行くたびに夏目父は、墓地のあちこちに雑草よろしく生えている菊の葉っぱを引っこ抜いて持ち帰りベランダで育てているのだが、これまでは、それが咲くと仏壇に供えるのが常だったから、ガラスの瓶に挿してリビングに置いているのは見たことがなかった。
というか、菊=供花のイメージがあるせいか、飾るための花としては最も相応しくない気がするんだが。
ああ、もしかして、綺麗に咲いた自慢か?
源平蔓のときみたいに大騒ぎしたいのに、なかなか娘と顔を合わせないから、見せるために飾ったとか?

・・・・と、家にいることが少なくなっていた数ヶ月の間、こういう、夏目父らしからぬ行いをたびたび目にして、そのたび頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。
が、あたしがそれらを目にするのはたいてい深夜で、風呂に入ることや1分でも多く眠ることが先に立ち、だから翌朝には忘れてしまっていた。



そんな状態からようやく抜け出した先週、まともな時間に帰宅できたので、ものすごく久しぶりに家で晩ご飯を食べることにした。
既に食事を済ませていた夏目父は、あたしが今にもスキップしそうなくらいのテンションで茶碗にごはんをよそうのをリビングの定位置から見ながら、「外食のほうがいいじゃない」とか何とか、ぼそぼそとツッコミを入れていた。

「外食ばっかだと、卵かけごはんとか明太子とか納豆とか食べたくなるんだよ」
「納豆はないよ」
「・・・・昨日の夜中に4パック買って帰ってきたんですが」
「今朝2パック食べて、さっき2パック食べた」
「相変わらずの納豆セレブっぷりですなあ」
「明日の朝食べる納豆がない」
「残念だね」
「とても残念です」
「明日の朝の分、とっておけばよかったのに」
「そういうことは出来ないの」
「娘の分をとっておくことも・・・・」
「出来ないの」(即答)

納豆ははなから残ってると思っちゃいなかったから、卵かけごはんを食べることにした。
ごはんを窪ませて、卵を割る。
・・・・と、夏目父が突然立ち上がり、「あ、新しいお箸!」と言った。

「へ?」
「このあいだ、ブラックオリーブの缶のプルタブ開けるのに使ったら折れちゃって」
「・・・・「折っちゃった」の間違いだろ」
「思いっきりやったわけじゃないのにポキンと折れちゃって」
「・・・・なんでそういうことを人の箸でやる」
「だって俺の箸が折れたら困るもん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「で!」
「あ?」
「探したら、キミにぴったりの箸がありましたー」
「探したら?」
「食器棚の中見たら、結構使ってない箸があったんだよ」
「ほう」
「その中でもキミにぴったりの箸を用意しといたので、これからはそれを使ってください」
「・・・・侘びのつもりでしょうか?」
「侘び?なんで俺が」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だってずっと前から、塗りが剥げてるから買い替えるとか言ってたじゃない」



あたしが箸の塗りが剥がれたと口にしたのは繁忙期に入る前のことだったから、夏目父がそれを覚えていたのは意外だった。
そして。
関係ないような、興味の無いような素振りをしつつも、実は意外と、いろんなことを気にかけている人なのではないかと思った。
その気になれば何でも自分で出来る人なんじゃないか、とも。
そもそも、便座カバーを取り替えることすらしない人だったし、菊にしたって、切って仏壇に供えるのはあたしの役目だった。
仏壇に供えるまではやらずとも、やって貰える当てがなければ、切って水に挿すくらいは自分でやるんだ、うちの親って。
そんなことをグルグル考えながら突っ立っていると、夏目父は食器棚の引き出しを開ける手を止めて、「ああそういえば」と話し始めた。



「仏壇の花の水ってどこに捨てるの?」
「へ?」
「なんか、暖房つけっぱなしでいたらでろでろになってた」
「・・・・水替えてくれって言ったのに」
「だから、替えようとしたら、花も水もでろでろになってて」
「どこにって、普通に台所に流してるよ」
「でろでろは?」
「三角コーナーにじゃーっとやってる」
「でろでろが三角コーナーにあったらイヤじゃない?」
「それがイヤだから、そうならないようにマメに水替えるの。三角コーナーに入ったでろでろは新聞に包んで冷凍室」 (我が家ルール)
「ああ、そういうこと」
「で?花はどうなってるの?」
「水がでろでろだったからトイレに流そうとしたんだけど、便座カバーにびゃーっとなっちゃって」
「・・・・だからカバー替えたのか」
「そう。あのカバー探すのに4時間かかった」
「・・・・探し下手だな」
「で、結局見つからなかったから、○○(徒歩3分のスーパー)で買ってきた」
「は?」
「で、疲れたから、花瓶はそのまま、仏壇のところに戻した」
「・・・・えーっと、なんでそうなりましょう?」
「それから、花を買い忘れたので菊の花を切りました」
「なのに、仏壇には供えてねえ、と」
「惜しい惜しい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



惜 し い 惜 し い ! っ て 、 ど ん だ け 自 分 に 甘 い ん だ 。



ここまでで既に、持っていた茶碗を落としそうなくらい脱力したのだが、本当に脱力したのはこの後である。



「仕事呆けてる娘に・・・・」
「遊び呆けてるみたいに言うなよ」
「仕事にかまけて」
「言い直しても悪意を感じるなあ」
「仕事にかまけて仏壇の花の水替えを怠けた娘に」
「・・・・おうこら。いい度胸してんじゃねえか」
「今以上の災いが降りかからないような」
「災いの100%は親がせっせと降りかけてるんですが」
「素敵な箸を見つけましたー!じゃーん!」






センスはどうであれ、一瞬、「ああ、こんな人でも箸を準備してくれたのは本当なんだ」と感謝しそうになった。
が、金で書かれた文字を見て、今度は膝の力が抜けそうになった。




(萎えるネーミング)




(へ?)




(あ゛?)



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ずっと前に初売りの景品で貰ったやつだけど、幸福になれる箸だよね!下の字は気にしないで。まあ、オヤジっぽいから「お父さん」ってのもアリっちゃアリだし。うひゃひゃひゃひゃ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あー、あとさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「それ食べたらでいいから納豆買ってきてね」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







て め え が 行 け 。





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 1ヶ月半も更新してないのに・・・・!