BOOK INFOMATION
昨日の夕方、出張から戻った夏目父を迎えに車で空港へ行った。 夏目父の顔を見た途端、例の件と同時に、あの時嗅いだ、気を失いそうになるほどの臭いまでもを思い出してしまった。 でも、5日も前のことを今更責める気にもなれず、その件には触れないでいた。 なのに。 市街地へ戻る道すがら、夏目父のほうから例の件について話し出した。 父 「あのゴミ、ちゃんと捨てた?」 娘 「ん」 父 「お風呂ってすごくいいアイディアだと思わない?」 娘 「・・・・・・・・・・・・・・」 父 「袋から何かが漏れてジワーっときてもだいじょうぶだしね」 娘 「そーですね」 (いいとも風に) 父 「これからさ、ゴミを捨て忘れたらお風呂場に置くといいよ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 |
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お前が捨てればいいだけなんだがな。 | |||
心の中で悪態を吐いてみるも、その件について話そうとすると、鼻の奥のほうで臭いが蘇る気がして、どーにもこーにもいただけない。 とりあえずそのことは考えないようにした。 で、2人で呑みに出かけた。(またかよ) |
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![]() (この冬、初アン肝!) |
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呑んでいる途中、夏目父が席を離れた時のこと。 夏目父の旧友である、お店の店長(夏目父好きのオカマ)が小声で語り始めた。 店長 「ねえねえ。最近何やら片付け魔になってるんだって?」 夏目 「・・・・ぶっ!」 ←マジで吹き出した 店長 「お父さんが言ってたよ」 夏目 「片付け魔って程じゃないよ。あまりにも酷いからやってるだけ」 店長 「それだ・・・・け?」 夏目 「何が?」 店長 「片付け始めた理由って、それだけ?」 夏目 「うん。それだけ」 店長 「そうなんだあー。いや、アタシもそんなことだろうって言ったんだけどね」 夏目 「ん?何なの?」 店長 「あのね。それ。「あまりにも酷いからやってるだけ」ってこと」 夏目 「うん」 店長 「お父さんに話してあげたほうがいいよ」 夏目 「どーして?」 店長 「お父さん、「嫁に行く気なんじゃないか?」って気にしてたから」 夏目 「・・・・へ?」 店長 「「急に部屋を片付け始めるなんて、それくらいしか考えられない」って」 夏目 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 店長 「「俺、独りになるかも」って寂しそうに言ってたよ・・・・」(しんみり) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 なんというか、想像力が豊か過ぎるにも程がある。 でも、訊かれてもいないのに、敢えて「片付け始めた理由」を夏目父に語る気にはなれない。 あたしがそう言うと店長は、「わかった。アタシに任せて☆」と言ってウィンクをした。 ヒゲ剃り痕が青々とした、見た目は100%オッサンのオカマなのに、ウィンクをしやがった。 夏目父が席に戻り、今度はあたしが席を立つ。 モヤモヤした気分のまま用を足して戻ってきてみると、オカマとオッサンは高らかに腕を上げ、テキーラで乾杯をしていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 お前ら、何に乾杯してんだよ。 もしかしてあれか? 「行き遅れた末娘が嫁に行くのかと思ってハラハラしてたけど、やっぱ嫁には行かないんだってさ!よかったね!つーか、よくよく考えたら、アイツが嫁に行けるワケないんだよね!そうだよね!うははは!かんぱーい!うははははー!」か? そうか? そうなのか? つうかお前ら仲良さそうじゃねえか。 結婚すればいんじゃね? いーじゃんいーじゃんお似合いじゃーん。(棒読みで) そんなことがありつつも悪酔いはせず、楽しく呑んで、上機嫌で帰宅した。 で、今朝のことだ。 夢の中で掃除機の音が聞こえる。 いや、夢じゃないかも。 あ・・・、隣の家の音か。 いや違う。 この音は家の中だ。 家の中で誰かが掃除機をかけて・・・・る? おかーさん・・・・・・・・はとっくに死んでるから、おとーさん? そこまで考えが至った途端、一気に目が覚め、ガバ!っと布団を剥がして起き上がった。 時計を見ると朝8時。 夕べは、呑んだ割に帰りが早かったからそろそろ起きてもいい時間ではある。 でもまさか! いや!でも! 確かに家の中で誰かが掃除機をかけている・・・・! |
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誰 だ ! ! ! ? ? ? | |||
普通ならば、「二人暮しなんだもん。自分じゃなかったらもうひとりがかけてるに決まってるじゃん」と思えるのだが、あたしは生まれてからこのかた、夏目父が掃除機をかけているところを見たことがない。 掃除機の置き場所は知ってるだろうけど、使い方は知らないんじゃ?と思うくらい、掃除機と夏目父は縁がない。 なのに、家の中で掃除機の音がするのだ。 寝起きだというのにあたしはリビングへ走った。 そして、掃除機の音と、何やらバタバタと音がするリビングの扉の前で立ち止まり、深呼吸をした。 もしかすると。 あたしが片付け始めたことが影響して、とーちゃんに変化が起きたのかもしれない。 今までは「あたしが片付けること」=「嫁に行く準備」と思っていたから、面白くなくて協力できなかったのかもしれない。 それが夕べ、嫁に行くわけではないことを判り、「じゃあいっちょ俺も掃除っちゅーもんをやってみるかー」っていう気になったのかもしれない。 そんなことを考えながらリビングのドアを開けた。 そしてあたしが見たものは。 |
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掃除機を持ち、楽しそうに部屋を駆け回る父親の姿と、 追いかけられて逃げ惑う猫の姿。 ![]() (今朝は怖かったっス・・・・) |
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そういえば、昨日あたし、掃除機を出しっぱなしにしてたんだった・・・・。 そして夕べ飲み屋で、「掃除機をかけると決まって猫が逃げ惑う」っていう話をしたんだった・・・・。 そうか。 とーちゃんってば、その姿が見てみたかったんだね・・・・。 っていうかね、とーちゃん。 とーちゃんは知らないかもしれないけど、掃除機っていうのは掃除するものなの。 床に落ちてるゴミをね、シューっと吸ってくれる便利な機械なの。 猫の遊び道具じゃないの。 猫を追いかけるためのものじゃないの。 ほらほら。 どーせ掃除機かけるなら、その、今通ったところの10センチ横に埃が落ちてるでしょ? そこに掃除機をあてるといいんだよ。 いやいや、同じとこばかりじゃなくてさ、もうちょっと右!右! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 って。 |
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朝からバタバタとうるせーんだよ。 | |||
我が父親のアホな行いに呆れて、声も出せずに唖然と立ちつくしていると、あたしの存在にようやく気づいた夏目父が、それでも猫を追うことをやめずに言った。 「おっはよー!」 脳天気な夏目父の声で更に脱力したが、やっとのことで「おはよう・・・・」と挨拶を返した。 ・・・・と、その直後。 夏目父が掃除機で、ベンジャミンの鉢をひっかけた。 |
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猫は鉢が倒れた音に驚いて、テレビの裏側に逃げ込んだ。 鉢からびゃーっと土がこぼれ出て、床を汚した。 すると。 夏目父はようやく走るのをやめ、掃除機を止めると楽しげに言った。 |
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「はい!トラ(仮名・猫の名前)の負けー!」 | |||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 あたしは黙ってリビングを後にした。 それ以降リビングには行っていないから、汚れた床を夏目父がどーしたのかは判らない。 その後、掃除機の音は止んだから、多分片付けていないのだろう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 そのままでいんじゃね? リビングの上に直植えすればいいじゃん。 そしたらもう、掃除機で遊んでも鉢を倒すことないしね。 いや、掃除機は遊び道具じゃないけどね。 でもいんじゃね? 遊びたきゃ遊べば。 いい歳してアホみたいだったけど、よその人に見せなきゃいいもんね。 せっかくあたしが片付けてるのにとーちゃんがどんどん散らかしやがるけど、でもいいよね。 片付けなんてやめたやめたー。 どうせなら、家中、土まいちゃう? 土の上で寝ちゃう? それもいいかもね。 あはは。 あはは。 あははははー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 っていうか、とーちゃん。 あたしは誰とも結婚できないんで、今のままだと一生二人暮しなワケですよ。 どっちかが死ぬまで二人っきりで暮らしていかないといけないんですよね。 で。 今のままだと家、荒れ放題なワケですよ。 だからね。 ここはひとつとーちゃんが。 |
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オカマの店長と結婚すればいいと思うの。 | |||
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