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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)

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4畳半から発見された、出所の判らないカエルについて頂いたたくさんのコメント欄には、「キモチワルイ」という意見の他に、「いかしてる」とか「欲しい」とかいう発言があったりする。
「売ってみては?」系のコメントもちらほらあり、それを読んでいるうちに、なんというか、その、あの、よ、よ、欲が出てきた。

欲は、人にいい夢を見させてくれる。

もしかすると。
あのカエルは、大金に化けるかもしれない・・・・。
そしたらお正月の夏目家の食卓には・・・・。









ぐふぐふふふ。



そんな夢・・・・というか妄想を抱きつつ、夕べ、家から徒歩で行ける場所にあるリサイクルショップ・・・・というよりは「骨董品店」ちっくなお店を訪ねてみた。


骨董品店の二代目店主は、あたしの麻雀友達であり呑み友達でもある。
それが縁で、夏目父とも呑むようになり、今では骨董品店を営む傍ら、夏目父の仕事のアシスタントもしている。
そして。
夏目父を「先生!」と慕っている。
掃除機で猫を追い回し喜んでいるようなオッサンがどーすれば「先生」になれるのかはわからないけれど、そんなオッサンを慕っている二代目は、あと10年もしたら夏目父みたいになりそうな、なんというか、人生の全てにおいてヤル気がなさそうで、生き生きするのは麻雀の時だけという、絶対結婚したくないタイプの男だ。
ちなみに麻雀は、一緒に打っているこっちが生きる気力を無くすくらい、弱い。


そんなヤツではあるけれど、あたしが、カエルが出現した経緯を掻い摘んで伝えた後で質問すると、本業に関することだからか、かったるそうではあったものの一応答えてくれた。

あたしが訊きたかったのは、

・ああいう類いのモノをリサイクルショップに持ち込む人がいるのか?
・持ち込む人がいたところでそれは捌けるものなのか?

だったのだが、結論から言えば どちらも YES らしい。

ただし。
「お前が盗んだモノじゃなかったらね」というのが前提だった。


普通なら「キミ!失敬だぞ!」とキレてもいいような発言だが、何せあたしは叩けば土埃(と綿埃とヒメカツオブシムシが脱いだ皮)が出る身なので、

「盗んでたとしても時効だよね」
「つーか盗んだのは確実に10年以上前?」
「いや、わかんない」
「窃盗の公訴時効は7年だぞ」
「わ、判った。気をつける」

と、ブラックジョークのよーな生々しいよーな話をした後、麻雀の話や、ほんの少しだけ虫の話をすると、近々カエルを引き取ってもらう約束をして店を出た。



さっき別れたハズのその男が我が家にやってきたのは、あたしが帰宅してから10分も経っていない時だった。
早速件のカエルを引き取りにきたのか?と思いきや、「それもあるけどメインは別件」と言う。

その男は両手にそれぞれ袋を下げていた。




(不味そうに撮れちゃった☆)







「かあちゃんがキャベツ持って行けって」




この男のお母さんは、外食ばかりしている我が家の食生活をいつも気にかけてくれ、月に何度かは元・料理人の息子に食材を持たせ我が家に派遣してくれるのだった。



2人が3人になったところで、キャベツ4個は一晩で捌けやしない。
元・料理人のこの男は、キャベツ1個を使い手際よく夕食を作ると、他の3個は千切りにしたり浅漬けにしたりロールキャベツにしたりしてくれた。
そしてそれが終わると、リビングのソファーにどっかと腰を下ろした。


で。
酒盛りが始まった。


なぜかいつもよりハイペースで呑み続ける夏目父と二代目。
酒盛り開始から1時間後にはだいぶ酔いが回っていた。

「このままではカエルが・・・・」

あたしも酔ってはいたが、なんとかカエルを忘れずにいられる程度だったため、二代目に話をふってみた。



「ねえ。今日カエル、持ってカエル?」



駄洒落ったつもりはないのに、二代目には「山田くん!座布団全部持ってっちゃって!」と馬鹿にされ、夏目父には「そんな娘に育てた覚えはない!出て行け!」と叱られた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
酔っ払ってるくせにツッコミを入れるタイミングだけは早い二人をリビングに残して4畳半に行き、重ーいカエルを持ってリビングに戻った。






すると、だ。
あたしが抱きかかえていたカエルを見て二代目が大笑いし、そして、少し怒ったフリをして、驚愕の言葉を口にしたのだった。













「俺が売ったモンに文句つけんなよっ」












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
今なんと?
なんとおっしゃったの?

そう訊き返そうとしたのだが、あたしは瞬時に全てを把握した。


そうだ。絶対そうだ。
4畳半にコレを置いた犯人は夏目父だ。
理由は判らないけど、二代目の店でカエルを買い、4畳半の部屋のベッドの上に置いたのは夏目父だ。
なぜなら。
あたしは見てしまったのだ。
二代目の驚愕発言の直後、


少し慌てて二代目に目配せする夏目父の姿を。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ここで夏目娘、インスタントヤ○ザに変身。 ←○=「ク」



以下、良い子は真似しちゃダメよ☆



「ちょっと」



あたしが野太い声で言った。
すると、夏目父と二代目は声を合わせて言った。



「 ち ょ っ と ! ち ょ っ と ち ょ っ と ! 」
(もちろんアクション付き。しかもとっても楽しそうに)





・・・・しょ、初っ端からキレそうになるがそれをぐっと堪えて話を続ける。

娘 「どういうことなの?」
父 「なんのことー?」


しらばっくれる気満々なようだが、あたしには白状させる自信があった。
何故ならあたしには切り札があるのだ。
だから続けた。


娘 「どーしてカエルをあたしの部屋に置いたの?」
父 「しらなーい。俺が置いたんじゃないもーん」
二代目 「もーん」
娘 「お前ら、グルだろ?」
父 「何のことー?」
二代目 「グルってなあにー?」
父 「グルってなあにー?」
父&二代目 (声を揃えて)「グルってなあにぃーーーーーー?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
泥酔者とマトモに話そうとした経験がある方にはこの状況が判って貰えるであろう。
あたしも、自分自身が酔ってこんな風になった経験があるからよく判る。

なんかね。
酔ってこーゆーテンションになっちゃうと、いろんなことが楽しく思えちゃうの。
ふざけてる自分がやたら面白いっていうかー、とにかく、冷静になるきっかけがないと止まらないの。
延々続けちゃうの。
相手がキレるまで続けちゃうの。
で。
キレられて自己嫌悪に陥るの。



だからあたしは、すぐに切り札を出した。
深呼吸をして落ち着いて、怒りが声に表れないように気をつけながら、切り札の言葉を口にした。
ちなみに。
あたしがこの言葉を口にして、夏目父の態度が改まらなかったことは一度もない。




「とーちゃん」
「はいはーい」 ←まだ気づいてない
「あのさ」
「はいはいはーい」 ←全然気づいてない
「今晩からさ」
「・・・・・・・え?」 ←ちょっと気づいた?












「トラ(仮名・猫の名前)と寝るの禁止ね」


え?これが切り札ですよ?












夏目父はシュンとなり、それにつられて二代目もシュンとなり、そして二人は何故かソファーの上に正座して、真実を語り始めた。(つづく)


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 ゴールは遠いですが、どうか長ぁーい目で見守ってやってください!