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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)

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やたら頻繁に催される新年会に出まくって呑んだくれているうちに仕事が忙しくなり、気がつけばもう2月か。
そういえば。
先週あたりからちらほら、体調不良で休む同僚も数人出始め、周りでも、「コホコホ」やら「グスッグスッ」やら、風邪の音を聞くようになった。



「社員がひとりいなくなったところで会社は機能する」というのはよく聞く話。
でも、機能させるためには、いなくなったひとり分の仕事をこなす誰かが必要なわけで、休む人が増えれば当然、他の人の作業量は増える。
自分の作業量が増えたことでテンパる人もいるし、休んだ人に対して「自己管理がどーの」だの文句を言う人もいるだろう。
実際、今あたしの周りにはテンパってる人も、文句を言っている人もいる。
でも。
あたしはどっちもしない。



社会人になってから風邪をひいた記憶がない。
「自己管理がどーの」とか「病は気から」とかいう話ではなく、単純に身体が丈夫な上に熱にも痛みにも鈍いため、たとえば、『 ハケンの品格 』の大前春子のように、39度の熱でフラフラになりながらもしっかり自分の責務を果たす、みたいなカッコイイエピソードはない。
でも。
熱に関わる、しょーもない、でも、あたしの人生に多大なる影響をもたらしたエピソードがある。



9年ほど前の話。
真夏だった。
そうだ。8月だった。
その年の春に、ずっと希望していた部署に異動になったあたしは、毎日張り切って、毎日緊張しながら仕事をしていた。
夏になり、同じ部署にいた女の子が急に会社を辞めてしまったことで仕事量が増え、気持ちが張り詰めていた。

変化に気づいたのはわりと早い時期だったと思う。
毎日寒かった。
真夏なのに身体が震えるほど寒い。
クールビズなんてものがなかった頃だから、「このフロアにすげー暑がりがいて、空調20度くらいに設定してんじゃねーの?」と思いながらも、忙しさにかまけて温度設定を確認するでもなく過ごしていた。
寒いのが空調のせいじゃないと気づいたのは、寒いと感じ始めてから1週間以上経った頃。
会社での寒さ対策に、部屋の服の山からフリースを引っ張り出した時だった。
「いくら何でも、真夏にフリースはねえだろ。そんなに寒いわけねーだろ」と、ようやく気づいた。
ところが。
自分の身体がオカシイことには気づいたのに、あたしは仕事がしたい一心で、病院へは行かずに済まそうとしたのだった。



会社では、真夏なのに厚手の上着を羽織って仕事をした。
熱があることは判っていたけど、仕事がしたかった。



真夏なのに日に日に厚着になっていくあたしは、その奇異な格好だけで充分、周りの人に心配をかけていた。
でも、厚着であること以外は至って普通で、具合が悪そうには見えない。
鼻水が垂れてるわけでもないし、咳をするわけでもないし、食欲が落ちている様子もない。
そして。
その時あたしが抱えていた仕事は、異動になってから初めて通った自分の企画だった。
そんな事情を判っている上司や同僚は、あたしが「大丈夫」と言えば「そうか」と引き下がるしかないような状態だったと思う。
若気の至りとはいえ、全くもって傍迷惑なヤツだった。


そんな日がなんと、2週間以上も続いた。
薬も飲まず、熱は上がったまま。
しかも、恐ろしいことに熱は連日、40度を超えていた。


目先の仕事しか見えなくなっていたあたしは結局、週末の夜、職場の同僚に、強制的に病院に連れて行かれることになる。
熱の原因は、急性腎盂炎。
抗生物質を処方され、あっけないくらいあっつう間に熱は下がった。



週が明け、半月以上ぶりに半袖で出社すると、あたしの机の上には1本の栄養ドリンクと、サプリメントが置かれていた。
病院に連れて行ってくれた同僚・吉田が置いてくれたものだということは、誰に訊かなくとも判った。






言葉で確認し合わなくとも、お互いがその時に一番して欲しいことが判る関係が築けていたように思う。
後から考えると、病院に連れて行ってくれたタイミングも絶妙で、その時でなければあたしは、彼の言葉に従えなかったに違いない。

「1時間早退すればいいだけだから。今病院に行って土日は家でゆっくり休めば、月曜日からは寒くなく元気に仕事できるから」

2週間以上の間、「病院に行きゃあいいのに」とイラついて見ていただろうに、自分と同じ「仕事バカ」であるあたしが、仕事を諦めて病院へ行くであろうギリギリのタイミングを見計らって声をかけてくれたのだった。



入社した時、彼はあたしの先輩だった。
一緒に仕事をするようになるとその関係は「同志」のような「戦友」のようなものになり、やがてあたし達の間には、「男女の友情」が生まれた。

・・・・あ。
「男女の友情」と言えば。
かつて一世を風靡したドラマ『ロングバケーション』で、稲森いずみ演じる「桃ちゃん」が言っていたではないか。





「男女の友情っていうのは、『すれ違い続けるタイミング』
もしくは、
『永遠の片想い』のことを言うんです」







え゛。
じゃあ吉田とあたしはすれ違い続けてるだけ?
あたしが吉田に片想い・・・・?
ま、まさか・・・・。
あ。え。
だからあたしも吉田も、いい歳こいて独り身なの・・・・?
ま、ま、まさか・・・・。
だって、吉田と出会って10余年。
高熱を出したあの時からだって9年近く経ってるじゃないか。
このあたしが、吉田に9年も片想い・・・・?
ま、ま、ま、まさか・・・・。
でも・・・・。
いや・・・・。



なんて展開にはなりません。



色っぽい展開にはならないけれど、でも、この時吉田があたしにしてくれたことは、10年近く経った今でも頻繁に思い出す。
がむしゃらになり過ぎて方向を見誤りそうになったあたしに、ブレーキを踏むことを思い出させてくれ、へこたれそうになったあたしにはアクセルを踏む勇気を与えてくれる出来事だからだ。


ここ数年、どんなに忙しくなろうとも、あたしがテンパらずに働いていられるのは、この出来事によるところが大きい。
吉田のおかげだと思う。
そして。
吉田にしてもらったコトを忘れないようにあたしは、会社のデスクにこんな物を置いている。












(自宅に持ち帰って撮影)



熱が下がって出社した日、吉田があたしの机に置いておいてくれたサプリメントのケースを捨てずに持っていて、心が波立ちそうな時はこれを見て気持ちを沈めている。




(ふ、古いっスね)



「要る」「要らない」。
「捨てる」「捨てない」。
その基準は人それぞれで、他人に判断できる類の物ではないとあたしは思っている。
これは、誰から見ても要らないものだけれど、あたしにとっては要るものだ。
あたしがこれから先、人に迷惑をかけず、周囲への気配りを忘れずに、冷静に、落ち着いて仕事をしていくために必要なモノだ。
そして。
人の嘆きや呟きにはそっと耳を傾け、でも、やみくもに助言はせず、ここぞと言う時に絶妙なタイミングで手を差し伸べることのできる大人でありたいと思わせ続けてくれるモノだ。



・・・・・と、文章にするとやけに大げさだけれども。
周りのテンパってる人を見て、自分が今よりもずっと青かった頃のことを思い出していた矢先、その後の異動で部署が変わり社内では会うことがなくなった吉田と一緒に仕事をすることになり、金曜の夜、「顔合わせ」という名の呑みの席で、あたしは吉田と3年ぶりに会った。



一緒に仕事が出来るのは嬉しいけれど、久しぶりに会ったところで、お互い別段話したいこともなく、大して会話もなく呑み会は終わったのだが、家路に着く途中、吉田からケータイにメールが届いた。

タイトルは「お前」。
2文字。
そして本文は。












「 老 け た な 」












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。












ポイっ!








(宝物がゴミに変わった決定的瞬間)




あ。間違った。











プラゴミだ。





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 片付ける時間や意欲がない時はこんなカンジのゆるーい記事をアップしようかなあと、思っちょりますです。