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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)

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土曜日は小雨がパラついて寒かったせいか、片付けの神が降臨することもなく、しかし片付けをせずに1日過ごしたところで焦りや罪悪感のようなものもなかったのだが、翌日曜日は晴れていて、しかもとても暖かかった。
暑いくらいだった。
こんな日は!




















野 球 観 戦 だ ぜ 、 と ー ち ゃ ん !



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
相変わらず片付けの優先順位は上がっていないけれど、部屋でゴロゴロしている時より外にいる時の方が少ぉーしだけ頭が回るようになるらしく、夏目父とビールを呑みながら野球を見ていたあたしは急に、「家に帰ったら服を捨てよう」と思い立った。
まあ。
外に居る時にそう思っても、家に帰った途端やる気が失せるのが常なんだけど。



片付け始めてすぐの頃は、「整理や収納が上手に出来ないんだから、全部捨てりゃあいいだろ」と思っていた。
愛着のある物なんてないに等しいし、服がどれだけ大量にあろうとも着るものは限られている。
ところがブログを続けていくうちに、正確に言えば、不要品を有効活用している人達のブログを読んでいるうちにあたしは、とある妄想を抱くようになった。



要らない物は売ればいいんだな。



売ることだって片付けるのと同じくらいメンドウで億劫だとわかってるくせに、何故だかそう思うようになっていた。
片付け中に発掘したものを見て、「要らないけどまだ1回も着てないや」と思い横によける。
次にまた同じような状態のものを見つけて、先に見つけた物の上に積む。
で、それをいつ売るのか?というと、売るまでの手順がメンドウでいつまで経っても売りやしない。
一応、「いつか時間ができたらまとめて」と考えてはいるのだけれど、時間ができたところでやりゃあしない。
そもそも、「売ろう」と思えるものが多すぎて手に負えないのだ。

でも・・・・その程度ならまだいい。
「売ろう」と思った服はここ数年の間に買ったもので、高価なものでは全然ないから、売ることを諦めればすぐに捨てられる。
ところが、あたしの妄想はもっと膨らんでいて、「売る」よりもっと非現実的なことを考えるようになってしまっていた。



高い服はリフォームすればいんじゃね?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
えーっと。
あたしと同じよーに考えたことのある人はいませんか。そうですか。



具体的にどの服をどう、というわけではなく、ただぼんやりと思っていただけだけど、「要る」「要らない」ではなく、「リフォームできそう」「できなさそう」という基準で選別する気になっていた。
というのも。
あたしがしょっちゅう行っているクリーニング屋さんが洋服直しもやっていて、クリーニングを出しに行った時にたまたま、昔懐かしいブランドの服をリフォームに出していた人を見かけたことがあったからだった。



・・・・・・・・・・・って。
どぉーーーー考えても現実的じゃねーよなあ。
っていうか。
確かに昔は高い服ばっかり買ってたし、服やバッグを買うためにアルバイトをしてたと言ってもいいくらいだったけど、でも、安くもないリフォーム代をかけてまで着たいくらいの思い入れはねーだろ。
家に帰ったら昔の服、ぜーんぶ捨てよーっと。



外でそう思っていても家に帰るとやる気が消滅することがほとんどだから、野球観戦を終えて家に帰ると、自分の部屋には入らずすぐに、4畳半の部屋に入った。


さて。
やるか・・・・。





(パイプベッドの上に乗っているダンボールの山の9割は、15年以上前の服)





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。











や 、 や っ ぱ 、 や め る か ・ ・ ・ ・ 。





いやいやいや。
せっかく思い切れたのに、ここで挫けちゃダメだ。
要らないんだもの。
リフォームしないんだもの。
捨てるしかないんだもの。
・・・・と、着手するまではかなり時間がかかったのだが、いざ始めてみたらこれが案外楽しい作業になった。
と同時に、自分のアホさ加減をつくづく思い知る結果となった。



まずは、ドアの陰にぶら下がっていた、薄汚れたヌバックのコートから。








5年くらい前の物だったろうか。
気に入って一時期ものすっごく着ていたのに、に、に、二の腕がキツくなって着られなくなったもの。
それを数年吊るしっぱなしにしていたから。






色褪せちゃってた・・・・。
「もったいないことしてるなー。安くなかっただろうになー」と思いながらゴミ袋へ。
1つ捨ててしまうと勢いがついた。


そして次からは、バブルへGO!
バブル期にせっせと買っていた、DCブランドの服がわっさわっさ出てきた。






まずは、HIROMICHI NAKANO・VIVA YOU・VertDanceの服。





(スカートもあるハズなのに見当たらず)




(麻のスーツ。10代の学生がこんなスーツを着る機会はまずない)




(カシミヤ80%のロングタイトスカート。どーでもいいがこれ、太って見える)



国内DCブランドの中ではお手頃価格だったせいか学生時代にはVIVA YOU の服をせっせと買っていた。
でも、今考えてみても決して「安い」とは言えない額だった気がする。
特にオレンジ色の麻のスーツは、欲しくて欲しくて、悩みに悩んで買ったもの。
すごく高かった記憶があるのに、2、3回しか着ていない。
うーん。
物を大切にしないのは、昔からだったんだなあ・・・・。

ちなみに、VIVA YOU の服は、全部で22着(スーツは上下で1着計算。なんてことはどうでもいい)あったのだが、どんなに安く見積っても40万円分にはなりそうだ。
若かったなあー。
服を買うためにアルバイトしてたようなもんだったもんなあ。



他にも、コムサ・デ・モード、Y's、メルローズ、インゲボルグ、キャサリン・ハムネット等々、バブル期に爆発的に売れたブランドの服が統一感もなくわんさか出てきたのだが、中でも一番多かったのが、このブランド。





(これを着てデートに行って3人にフラれた)



これはもう100%夏目父の影響で、『 COMME des GARCONS 』にハマってからというものあたしは、学業そっちのけで、昼も夜もアルバイトに明け暮れるハメになった。
ちなみに。
今は一切興味がないのだが、当時すごく気に入っていたのは、濃紺のロングスカート。






そう!そうそう!
これをクリーニングに出した時に!
クリーニング屋さんに、タグに文字を書き込まれちゃって、腹たったんだったー!




(こら!高橋! ←クリーニング屋の新人パートのおばちゃんの苗字です)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?




















今 じ ゃ 全 然 入 ん ね 。



こんな調子で4畳半にある服を捨てながら、服を買うために毎日がんばっていた若かりし頃を思い出し、思わず苦笑した。
当時の物欲の凄さは今の比じゃなく、欲しいと思ったら買わずにはいられなくて、服やバッグを買うために、その服を着て遊びに行くために、毎日バイトに明け暮れていた。
で。



留 年 し た ん だ っ た 。



くぅ・・・・。
お母さんにもとーちゃんにも随分迷惑をかけたんだろうなあ・・・・。
と、なーんかしんみりしてしまった。
若気の至りとは言え、学業はそっちのけで、遊びや買い物にハマっている娘を見て、親はさぞかし辛かったんじゃないかと思う。
歯痒かったんじゃないかなあと思う。



『 COMME des GARCONS 』 の服の40着目をゴミ袋に入れた後に見つけた、やたらデカくてヨレヨレのシャツの、ある1点をじーっと見つめ、それを持って夏目父のいるリビングへ行った。








夏目父はいつものように、リビングのソファーに横になり、お腹の上に猫を乗せてテレビを見ていた。



今でこそ何事に大しても意欲のなさそうな人だけど、あたしが学生の頃は夏目父だってこんなに風じゃなかったように思う。
親に整えて貰った環境を放り投げて遊び呆ける末娘に、さぞかし胸を痛め、さぞかし腹を立てたことだろう。



ほんの数秒、あたしが声をかけるのを躊躇っていると、夏目父が声を出した。



「何やってたの?」
「4畳半のゴミ集め」
「ふうん。また片付けてんだ」
「うん」
「楽しい?」
「まあね」


大して興味もなさそうに話す夏目父にあたしは、なんとなく当時の想いを訊いてみたくなり、話を切り出した。


「あたし、ダブったでしょう」
「え?」
「大学、ダブったでしょう」
そうだっけ?
「大学1年ダブると、親って大変だよねえ」
そうなの?


・・・・どうも話が噛み合わない。
忘れてるのかしらばっくれているのか、多分前者だと思われたが、あたしは続けた。


「当時買い漁った服を捨ててたんだけど。いろいろ思い出しちゃって」
「ふうん」
「学費出して貰って、仕送りもして貰ってたのに」
「あーーー!思い出した!そうだそうだ!そういえばダブったねー」



マジで忘れてたんスか。



しかしこの、すっ呆けたリアクションの後。
あたしは夏目父から衝撃的な話を聞くことになった。



「そうそう。ダブった、ダブったよねー」
「う、うん」
「あの頃は楽しかったなぁ・・・・」
「え?」
「だってほら。おねえちゃんも向こうで就職してたし、お前も大学あっちだったでしょう」
「うん」
「家には、キョーちゃん(あたしの母親)と俺、2人きりだったじゃない?」
「う、うん」
だから毎日楽しくて楽しくてー
「・・・・へ?」
「お前がダブった時もキョーちゃんとさ、「1年長く2人きりでいられるねー」って」
「え゛!」
「「お金も1年余分にかかるけど、俺、がんばって稼ぐからねー」ってキョーちゃんに言ってさ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「卒業したらそのままあっちで就職して結婚でもしてくれりゃあいいのにって話してたんだけど、戻ってきちゃったでしょう、お前。でもそれも仕方ないかなーって、キョーちゃんと話したんだよね。諦めようって。でもさー」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
自分の言葉が娘の胸にグサグサと突き刺さっていることも知らず、デレデレと延々惚気まくる夏目父をリビングに残し、あたしは黙って4畳半に戻った。



部屋には、洋服だけが詰め込まれたゴミ袋が4つ。




(久しぶりに一気にこれだけのゴミが出た)



そのひとつに、手に持っていた水玉のシャツを投げ入れて、ゴミ袋の口を縛った。



もういいや。
あたしがダブったことすら忘れてたくらいだもの、夏目父はこのシャツのことなんか覚えてないだろう。



とーちゃん。
とーちゃんから随分前に借りたシャツが4畳半から見つかりました。
長いこと借りててごめんね。
これね。
ずーっと長いこと、絨毯の上に落ちたままになってたの。
だからね。










ヒメカツオブシムシのエサになってました☆








(レーヨンも食うんスね、姫)




ごめんなさーいごめんなさーいごめんなさーい。(棒読みで)




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 4畳半の洋服はまだまだありますっ。
 さーて!今から続きをやるぞー。