BOOK INFOMATION
小さい頃あたしは、頻繁に親戚の家に預けられていた。 1週間だったこともあるし1ヶ月だったことも、半年だったこともあるらしく、初めて立ったのも初めて歩いたのもおむつがとれたのも、初めて言葉らしきものを発したのも、親戚の家でだったらしい。 最も頻繁に預けられたのは母方の叔母夫婦のところで、その叔母は未だにあたしを見ると、当時の思い出を延々語り、最後には必ず泣く。 「いじらしかった」「不憫だった」と言って、泣く。 叔母だけならまだいいのだが、母方の親戚は揃いも揃って皆この話が好きなようで、気がつくと、その場にいるあたし以外の人がみんな泣いていたりするから少し困る。 三十路になった自分を当時の叔母に置き換えて考えるとつくづく、「叔母ちゃん、すげーな」とは思うし感謝してもしきれないくらいなのだが、でも、同じ話を20年以上聞かされ続けているあたしは、その話が始まると別な意味で泣きたくなる。 ところで、その話の途中、決まってあたしは親戚に訊かれる。 |
「あのぬいぐるみはどうした?」 |
そのぬいぐるみは、3歳になったあたしに母親が買ってくれたものだ。 ぬいぐるみを背中に紐で結わえつけて貰うことがいたく気に入っていたようで、叔母の家に行く時にもあたしの背中にはそれがくっついていた。 当時叔母の家では犬を飼っていた。 あたしは、おっとりして優しいその犬が大好きで、しょっちゅう犬小屋に入り込んでは犬と一緒に昼寝をしていたのだが、そのぬいぐるみと一緒にいるようになってからは、犬小屋にぬいぐるみを持ち込むようになった。 叔母や親戚がそーっと犬小屋を覗き込むと、いつもあたしと犬は顔を寄せ合って、ぬいぐるみを枕にして寝ていたらしい。 ということは。 つまりそのぬいぐるみには。 |
30年前のあたしと犬のヨダレが染み込んでいるわけだ。![]() (左のがそれ。右のは5歳の誕生日に母親がくれたもの。どちらもキタナイ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 洗 っ て み る か ・ ・ ・ ・ 。 |
早速ぬいぐるみの洗い方をネットで調べてみると、方法は、大きく分けて4通りあるようだ。 1.ぬいぐるみ専用クリーナーで汚れを拭き取る。 2.ウール用洗剤で優しく押し洗い。 3.洗濯用ネットに入れ、洗濯機の手洗いモードで洗う。 4.解体し、中身を取り出して部品別に洗い、乾いてから元に戻す。 ![]() ![]() さーて、ここでクエスチョン。 ここに、亡き母がくれた、30年モノのぬいぐるみがある。 縫い目はほつれているし、繊維疲労を起こしている可能性は大。 汚いけれど、でも、親戚一同が覚えているくらい、幼少期のあたしは大切にしていて、実際これに纏わる思い出は書ききれないほどたくさんある。 そんなぬいぐるみを洗う方法としてあたしは、1~4のどれを選択するでしょーかっ? ・・・・・・って。 クイズ形式にするほどじゃねーな。 だってあたし、モノグサだもん。 どんなに大切な物でも寿命というものはあるし、このぬいぐるみにまつわる思い出は、あたしは勿論、叔母を始めとする親戚たちの胸にも深く深く刻まれている。 それでいいじゃないか。充分じゃないか。 それにそもそも、このぬいぐるみは10年以上もの間、4畳半の部屋で土埃にまみれ、タバコの煙で燻され続けていた。 つまり、10年以上もの間、あたしはこのぬいぐるみの存在を忘れていた。 いや、忘れてたわけじゃないや。 10年以上もの間あたしは、劣悪環境に置かれたこのぬいぐるみのことを忘れたフリをし続けていたのだ。 今更感傷的になって慌てて愛でようとも10年の歳月は戻らないし、どんなに綺麗ごとを並べたところで、「取り返しのつかない事」というのはある。 つまりあたしはなんとなく、このぬいぐるみ達は10年以上に渡って放置されたせいで、「朽ちる一歩手前」のところまできてしまったと思っている。 手で洗おうが洗濯機で洗おうがダメなもんはダメだろう、と。 |
![]() (この、長ーい洗濯用ネット、本来はどんな物を洗うのに使うんだろ) |
がんばれよ、ぬいぐるみ。 |
![]() (もっとアレコレ入れたくなったけど我慢した) |
耐えろよ、ぬいぐるみ。 |
![]() (あんまり使ったことなかったなぁ) |
気ぃ抜くな! 20年モノの洗濯機だから、「手洗いモード」にしたつもりが「手荒いモード」になる可能性もあるからな!(ナイス、オヤジギャグ) ウール用洗剤ではなく、いつも使っているフツーの洗剤を入れ、柔軟剤を入れて蓋を閉め、明日の朝7時に仕上がるようタイマーをセットして準備完了。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 |
や、やっぱ7時半にしようかな・・・・。 (おーい。どっちでもいいぞー) |
明日の朝起きて、洗濯機の蓋を開けた時。 もしもぬいぐるみがダメになっていたならば。 あたしは叔母さんに、「もちろんずっと大切に持ってるよ」と、これから先もずっと嘘を吐き続けよう。 そして。 もしもぬいぐるみが無事だったなら。 今度会う時、叔母さんに見せてあげよう。 正直に、「長いこと放っておいたんだけど、でもコイツら無事だったよ」って、笑いながら話そう。 |
ぬ い ぐ る み 達 の 運 命 や い か に ! |
![]() ![]() ![]() 本日、『 お部屋をキレイにするブログ 』 のバナーを勝手に作りました。 |
長いこと汚部屋に住んでいると、「使いたい物が使いたい時にさっと出せない」のは日常茶飯事で、たとえば出勤前、「アレを持つの忘れた」と気づいた傍から「途中で買えばいっか」と思ってしまい、必要な物すら探さない悪癖が身についてしまっている。
『週刊SPA!』の座談会であたしとみかこさんが話した、「片付けられない女はお金を大事にしない。モノを大事にしない」っていうのはこのあたりからきていて、「欲しいから買う」でも「探してみたけど見つからないから買う」でもなく、「探すのがメンドウだから買う」なんつーことを、実に頻繁にやってしまう。
あげくあたしは、新たに買い足したモノの整理もしないので、自分が何をどのくらい持っているのか全く判らない。
というわけで。
日曜日はまず、マニキュアの時と同じ要領で、アレを一ヶ所に集めてみることから始めた。
『週刊SPA!』の座談会であたしとみかこさんが話した、「片付けられない女はお金を大事にしない。モノを大事にしない」っていうのはこのあたりからきていて、「欲しいから買う」でも「探してみたけど見つからないから買う」でもなく、「探すのがメンドウだから買う」なんつーことを、実に頻繁にやってしまう。
あげくあたしは、新たに買い足したモノの整理もしないので、自分が何をどのくらい持っているのか全く判らない。
というわけで。
日曜日はまず、マニキュアの時と同じ要領で、アレを一ヶ所に集めてみることから始めた。

(三十路女のパンツではありません。ご安心を)
で、広げて並べてみた。

(布団の端から部屋の入り口まで並べても並べきらなかった)
4畳半の部屋を片付けている最中に見つけたハンカチ、88枚。
「やったー!ゾロ目!ゾロ目ー!しかも末広がり!こんな日は競馬か?パチンコか?スロットか?それともチンチロかっ!?」と、博打欲が昂ぶったのもつかの間、ここ最近使ってるものが8畳の部屋にあることを思い出し、それらを全部合わせて数え直し、呆れた。
だって119枚もあったんだもん。
「買ったものだけじゃないからね!貰ったものもあるからだよねっ!」と自分自身を誤魔化してみたものの、どう考えてもこの枚数は必要ない。
というわけで。
ホツレの有無・柄の好き嫌い・サイズなどを考えながら枚数を減らす・・・・つもりが、鼻歌のリズムに合わせて作業したのが悪かったのか、状態も柄もサイズも見ず、重ねたハンカチを1枚おきに捨てていくという、わけのわからない捨て方をしてしまった。
ちなみに。
この時歌っていたのは。
♪ し て ん ! り き て ん ! さ よ ー てぇー ん ♪
(この歌の「耳について離れない」っぷりは尋常じゃないと思う)
(この歌の「耳について離れない」っぷりは尋常じゃないと思う)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
念のために書いておきますが、この時あたしはシラフでした。
そんな妙ちくりんな方法ではあったけれど、119枚あったハンカチが60枚に減ったので、その中で、4畳半の部屋にあったものを全部を洗濯した。

(室内物干し場=夏目父の仕事部屋)
お!いいねいいねー。(何が)
乾いて取り込んだ後が問題だけど、でもいいねー。(だから何が)
部屋のアチコチに散らばっていたものを一纏めにしただけで俄然テンションが上がったあたしは、先週に引き続き4畳半の片付けに着手した。

(着手時の状態)
手前にあるキティのミニ冷蔵庫を脇に退けて、その横にあったアライグマくんのぬいぐるみや何やらも退け、その下にあったクロームメッキのダンベルは退けないで、ベッド中央にあるダンボールを覗いてみると。
むかーしむかし大昔に、カラオケパブをやっていた男から預かった、カラオケのカセットテープがたんまり出てきた。

な つ か す ぃ ー ! ! !
そうそう。
昔はさー、カラオケボックスなんかなくてさー、飲み屋に行かないとカラオケが歌えなくてさー、通信カラオケなんつーのもなくてさー、レーザーディスクカラオケに切り替わる前はカセットテープだったんだよなー。

うおーーーーー!
百恵ちゃん、美すぃーーーー!

キャンディーズ、若かったろうに紗、かかりまくってんなあ。

キミ達はもっと紗かけて貰ったほ・・・・・(以下自主規制)。
もしくはもっと引きで撮って貰・・・・(同)。

わっ、わっ!
工藤静香も満里奈ちゃんもいない頃だ!
ひぃーふぅーみぃーよぉー........って、まだ17人しかいねー。
・・・・と、パッケージを見ながら盛り上がっていると日が暮れるので、ダンボール2箱分のカセットテープを無理やり1箱にし、ダンボールごと捨ててしまうことにしたのだが。

このダンボールをゴミ袋に入れようと、手前に引き寄せた時に事件は起きた。
怪我したワケじゃないしすげー痛いって程でもなかったけれど、何故だかこれで一気にやる気が萎えたので、ダンボールをゴミ箱に入れただけで4畳半の片付けをやめた。

(さして変化ナシ)
「こんなことでやる気が失せるくらいなら、ちゃんとダンベルを退けてからやれば良かったんだよなあ」などとぼんやり考えながら自分の部屋に戻って布団に寝そべった。
・・・・と、ここまでは今までのあたしとなんら変わりないのだが、その先がちょっとだけ違っていた。
というのも。
寝そべった目線の先にあったモノを見て、一度萎んだやる気がまたムクムクと膨れてきたのだ。
それは。
ハンカチよりもずっとずっと、あたしのやる気を刺激する光景だった。

(床から矢印のところまで積まれた、約50本のビデオテープ)
震度1弱の地震でも崩れそうな危うさで積み重なっていたビデオテープは全て、部屋を片付ける気力がない日に早送りしながら見たものだ。
「片付けないとなあ。でもやる気出ねえなあ」っていう気分の時、あたしは古いビデオテープを見るのが習慣になりつつあったのだけど、でも、そんな時に見るビデオは見事なまでにどれもこれもつまらなく、「なんでこんなモンを録画したんだろ・・・・?」と思うようなモノばかりで、だからそのほとんどを早送りしながら見た。
そんなビデオテープを何とはなしに積み重ねていたのだけれど、この日それを改めて見て思ったのだった。
や る 気 が 出 な か っ た 日 、 多 す ぎ ね ?
つ ー か マ ジ で 崩 れ そ う じ ゃ ね ?
つ ー か マ ジ で 崩 れ そ う じ ゃ ね ?
というわけで。
まずは50本のビデオテープを全てゴミ袋に詰め込んだ。
そして。
やる気が復活したところで今度は、この冬に着ていた服の中から捨てる服を選んで捨て、いつの間にか溜まったDMや紙袋や書類を捨てまくった。

(一時ゴミ置き場の4畳半には、新たに7袋分のゴミが出現)
ふぅー。
またいっぱいゴミが出たなー。
8畳はまだまだモノが溢れているけれど、でもこのゴミ袋を捨てるのだって大仕事だもの、今日はこのくらいにしておこう。
翌月曜日の朝にこれをマンションのゴミ置き場まで運ぶ余力を残してリビングへ行くと、夏目父はソファーに座って猫を抱きしめながら、もう何度も観たであろう映画を観ながらまた泣いていた。
あたしも大好きな映画だけど、夏目父はサンドラ・ブロックが笑えば笑い、泣けば泣く、ただのサンドラ好きなオッサンなので、これが「すげー泣ける映画」というわけではない。念のため。
泣いてる夏目父はほっといてあたしがキッチンへ行き冷蔵庫を開けると、黙って泣いてりゃいいものを、夏目父が鼻声で話し掛けてきた。
「冷蔵庫に入ってた小さい瓶の日本酒、呑んじゃったよ」
「いいよ。あたし、デカイ瓶のほう呑んだから」
夏目父は続ける。
「この映画観てると色々考えちゃって、なんか胸が苦しくなるんだよねえ・・・・」
夏目父が観ていたのは、アルコール依存症の主人公(サンドラ)が、治療センターで過ごした28日間を描いた映画だ。
それを観て「胸が苦しくなる」ということは、夏目父ってば、自分が依存症だと思ってるのかな・・・・?
「とーちゃんはただの酒好きだから安心しろ」
あたしがそう言おうとするのを制するように夏目父の話は続く。
「お前が治療施設に行くことになったら、俺、家政婦さん雇わなくちゃいけないよね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?
「あーあ。知らない人が家でウロウロするなんて俺、耐えられないだろうなー。『家政婦は見た!』の人にパンツ洗われるくらいなら、パンツ穿かないで我慢するよー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「紙パンツでもいいけど買いに行くのメンドウだし。つうか、俺くらいの歳のヤツが大人用の紙パンツ買うのって微妙だよねえ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
オ、オッサン、まさか。
パ ン ツ の 心 配 し 過 ぎ て 泣 い て た ん じ ゃ ね ー よ な ?
(夏目父ならあり得る)
(夏目父ならあり得る)
さっきまでのやる気はどこへやら、夏目父の話を聞いて全身の力が抜けたあたしは缶ビールを持って部屋に戻ろうとしたのだが、それを夏目父が引きとめた。
「部屋で何してたの?」
「捨てるもん、纏めてた」
「また?」
「うん」
「最近すごい勢いで捨ててるねー」
「うん」
この一見フツーの会話の後、夏目父は頬擦りするほど顔を近づけた猫に向かって、とんでもない勘違い発言をしやがった。
「お前も捨てられないように気をつけるんだよぉー」
(猫撫で声で)
(猫撫で声で)
いやいやいやいや。
猫は捨てねーから、とーちゃん。
でも。
猫を捨てることは絶対ないけどさ。
間違えて、とーちゃん捨てちゃったらごめんごめーん。
(野太い声で。棒読みで)
(野太い声で。棒読みで)
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