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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)




映画 『 東京タワー 』 がいよいよ公開された。



  映画 『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』公式サイト
  扶桑社:東京タワー通信


ともすれば、「週末は片付けなければならない」という義務感に囚われてしまいそうになるけれど、あたしに限って言えばこの、「~しなければならない」という「決め」はいつでも自分のやる気を台無しにしてしまう。
息抜きも必要だ!と自分に言い訳をしながら、公開初日に観にいった。
うちのオトンと。



ところが、出掛けに一悶着。
・・・・というか。
大親子喧嘩勃発。(夏目家基準)

二人で暮らすようになってから初めてにして最大の親子喧嘩(夏目家基準)だったので、記念に書いておこう。



原因はこのバッジだった。




(前売券を買うと貰えるらしい。オカン・ボク・オトンの全三種)








オトンのくせに「ボク」のバッジを欲しがる夏目父

VS

どっちもあげねー」と頑張る、強欲な娘



普段は何があろうとも、「まあいいか。言ってもしょーがねーし」と、言葉にする前にいろんなことを諦めて、揉めずに暮らせているというのに、何で今、これから 『 東京タワー 』 を観に行くぞ!っていうこのタイミングで揉めるかなあ・・・・と思いながらも、バッジを巡って言い争う親子。



「「ボク」は男で「オカン」は女で、俺は男でお前は女じゃん」
「いやいやいや。あたしオカンじゃねーもの」
「そうだけど、お前、男じゃねーじゃん」
「性別の問題?」
「性別以外に何で分けんだよっ!」
「「ボク」は子どもで「オカン」は母親で、あたしは子どもでお前は父親だろーが」
違ーーーーう!」 ←ウルサイ



言うに事欠いて、自分があたしの父親であることを否定する夏目父。



じ ゃ あ あ た し の 父 親 は 誰 だ ?



「ち、違う?」
「お前は子どもだけど、俺だって子どもだ!」
「あ゛?」
俺だってばーちゃんの息子だもん!



四捨五入すると60だっつーのに、バッジ欲しさに「息子だもん!」と力説するオッサンが一人。



「つーか、どっちもあげねーから」
「何で!」
「だって2つともあたしが貰ったんだもん」
「はぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ー?」
「2つともあたしの物。2個あるからって何でも1個ずつだと思うなよ」
あっ!ばーかばーか、ばーか!
「バカって言うヤツがバカなんだよ」
じゃあ、でーぶでーぶ、でーぶ!
「デブって言うヤツはハゲるんだって」
「いいよもうハゲたって。つーかさ」
「何」
「俺の物は俺の物。お前の物も俺の物。2個あったら2個とも寄越せ」



お前はいつからジャイアンになったんだ?



ケンカを続けながらもお互い密かに、予定していた回の上映時間がどんどん近づいていることが気になっていたため、とりあえず続きは車の中で、ということにして家を出た。
が。
車の中では終始無言。
たまに夏目父が、「タバコある?」などと口を開くも、あたしが「あるよ、剛田くん」と言えば、それを受けて夏目父が、「メンソールしかねえのかよ。使えねーな、のび太」と悪態をつくので、会話が刺々しいったらありゃしない。



しかも、普段は人とケンカすることはもちろん言い争うことすら全くない者同士は、お互いに引き際が判らない。
だからそんな空気のまま映画館に到着し、大して言葉も交わさずに、仲直りもしないまま、映画 『 東京タワー 』 を観始めた。



夏目父が小さい声で「・・・・ティッシュ」と言ってきたのは、映画が始まって10分も経っていなかったように思う。
明らかにフライング泣きだけど、夏目父の涙腺のユルさは十二分に知っている。
ちなみに。
「はんかぢ、がじで(ハンカチ貸して)」と言ってきたのは約20分後で、「はんかぢ、もういぢばいだい?(ハンカチもう一枚ない?)」と言ってきたのは約40分後。
つまり。
全体的にフライングだった。





『 東京タワー 』 を読んだ後や観た後には、俄かに、猛烈に人に優しくしたくなる。
この気持ちがずっと続けばいいのだろうけど、毎日親と一緒にいるとそういう感覚はすぐに薄れてしまうし、生活していれば、内心イラっとすることが日にふたつやみっつやよっつやいつつは普通にあって(多い)、いつでも誰にでも優しく、というわけにはいかない。
夏目父にしたって、『 東京タワー 』 を観て心を揺さぶられた娘に気まぐれに優しくされても迷惑だろう。
でも、今日くらいは娘の我儘に付き合って貰いたい。
そういえばケンカしてたんだったし。






映画館を出るともうだいぶ日が暮れていて、そろそろ酒の時間だった。
車に乗り込みながら、まだ鼻をすすっている夏目父に声をかける。



二代目でも誘って呑みに行こうか。奢るよ」



夏目父は返事もせず、車の中にあったボックスティッシュからティッシュペーパーを引き抜き、チーン!とやっていた。
鼻水を出し終えるのを待って夏目父を見ると、まるで殴られたみたいに瞼が赤くなっていた。



「とーちゃん、目ぇ擦りすぎ」
「やっぱすごいことになってる?」
「うん。瞼がガッツ」



「パッチリおめめが台無し?」
「元々パッチリおめめじゃないから大丈夫☆」
と暫し話し合った結果、呑む相手が二代目なのでどんな顔でも問題ナシということになり、一旦家に車を置きに戻り、二代目を誘って呑みに出かけた。






しゃぶしゃぶを食べた後に行ったのは、夏目父好きのオカマが店長をしている店。
夏目父・二代目オカマ店長。
あたしにとってはだいぶキッツイ面子だけれど、最初のうちはまだなんとか普通に話が出来ていた。
でも、酒が進んでくるにつれ、オッサン3人(内1人はオカマ)がタッグを組んであたしを攻撃し始めた。



二代目 「この間、コイツのこと麻雀に誘ってやったのに断りやがったんスよ」
夏目父 「どんな理由で断りやがったわけ?」
二代目 「理由も何も。ただ「行かね」だけ」
夏目父 「それいつの話?」
二代目 「いつだったかなあ・・・・?」


おいおい、二代目。
発信履歴を確認するほどのことじゃねーぞ。


二代目 「あっ。先週の日曜日だ」
オカマ  「日曜日ー?どぉーせ暇なくせに男の誘いを断るなんて何様よ!」
夏目父 「先週の日曜日?ねえ、お前、何やってたんだっけ?」
あたし  「部屋片付けてた


正直に、他意はなく言ったこの言葉が、何故だかオッサン3人(内1人はオカマ)の逆鱗に触れたようで、攻撃は激しくなった。



二代目 「片付けより麻雀だろー!誘われてるうちが華なんだぞ」



32半荘連続ノー和了のくせにデカイ口叩くな、このヘタクソ。



オカマ  「あたしが片付けてあげるから!」



そのままウチに居座りそうだから謹んでお断りいたします。



夏目父 「そんなことより犬飼おうよ」



我が家は、猫とお前で手ぇいっぱいなんじゃ、ボケ!



・・・・と、あたしがブチ切れる隙もないほど次々と、オッサン3人(内1人はオカマ)の攻撃は続く。



二代目 「部屋が片付いたってお前が片付くわけじゃねえんだからな」
オカマ  「部屋を片付けるより料理習った方がいいわよ」
夏目父 「俺、雑種がいいんだけど」

二代目 「ウチの2軒先の建具屋の爺さん、紹介するか?69歳だけど」
オカマ  「男は料理で捕まえるのよ!」
夏目父 「黒柴とか」

二代目 「つーか雀荘のオヤジでいいじゃん。すげー借金あるけど」
オカマ  「裸エプロンよ、裸エプロン☆」
夏目父 「やっぱり雑種」

二代目 「酒屋のオヤジは?あ。奥さんいたっけ?」
オカマ  「裸エプロンでダメなら、裸エプロンでアクロバティッククッキングね☆」
夏目父 「でね、ポチって名前にするの」

二代目 「向いの床屋の爺さんって手もあるからな。84だけど」
オカマ  「それでもダメなら女体盛りよ!盛り付けはアタシに任せて」
夏目父 「それか、ジョン」








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。








おうこら、そこのオッサン。



三 人 と も 、歯 ぁ 食 い し ば れ 。







・・・・と、かなり言われっぱなしの呑み会だったけれど、夏目父は楽しそうだったしあたしもリフレッシュできたし、なんとなくホンワカした気分で帰宅して、翌日曜日は朝から、未開の地である学習机の整理に着手した。
そして。
今までより軽やかな気持ちで片付けられている自分に少し驚いた。





(着手前。面白い物が続々出てきたが、その時の模様はまた後日)




煮詰まるほど真剣に片付けているわけじゃないけれど、片付け中はいつでも集中力が持続しない。
仕事で煮詰まった時の気分転換は歳を重ねる毎に上手くなってきてるというのに、プライベートでのリフレッシュ方法が今までさっぱり判らなかった。




好きな人と一緒に好きなことをして過ごす。




煮詰まったのが仕事だろうが片付けだろうが、リフレッシュの仕方は同じなんだと、ようやく気づいた。
三十路もだいぶいってから、ようやく気づいた。
そして。
今あたしが一番リラックスできるのは、自分の父親と一緒にいる時だということにも、気づいた。
少し虚しくて、やけに悔しいけれど。




ただし。




「 犬 飼 っ て い い ? あ と バ ッ ジ 頂 戴 」




こういうメールを日に4回も送ってきやがるから、夏目父との生活は時々気が抜けない。
つーか、とーちゃん。




デ コ メ ー ル 送 っ て き た っ て ダ メ な も ん は ダ メ 。





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