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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



ここのところずーっと片付けや掃除の記事ばかり書いているけれども、部屋に篭っているとどうしても、夏目父との関係が薄くなる。
「薄くなる」とは言っても、同じ家に住んでいるわけだから顔は合わせるし、話もするし一緒に食事もすれば呑みにも行く。
でも、片付け始める前に比べたら断然、一緒に居る時間が減ったわけで、

「何やってたの?」
「片付け」
「ふうん」

という、つまらない会話が増えてきた。

そのことを夏目父がどう思っているのかは判らない。
そもそも、夏目父もあたしも家では、日々ダラけてゆるく暮らしていて、お互い、返事をすることすらメンドくさいと思っている。
そういう家庭には似たような人種が出入りするわけで、家の中にやたら元気のいい人がいることに慣れていない。
だから、酒の席以外でやたら元気のいい人が来たりすると、ペースが乱れてすごく疲れる。
ダラダラと会話するならいいけれど、やたら相槌が多かったり大げさにリアクションされたりするだけでもう、全ての意欲を削がれる。
げんなりする。
そんな我が家にこの週末。
無駄に元気で無駄にやる気満々な男が現われた。



事の発端は、素手で解体して「板の束」と化した学習机。





これを家庭ゴミとして捨てるにはゴミ袋に入るサイズにしなければならず、音の問題からあたしは、この板の束を車に積んで夏目父の会社の倉庫へ持ち込み、そこにある電動ノコギリを借りて裁断し、ゴミ袋に詰めて車に積み、家に持ち帰ってマンションの家庭ゴミ収集用コンテナに突っ込もうと考えていた。

会社まで夏目父に一緒に行って貰う必要はなかった。
会社の鍵はあたしも持ってるし、土曜でも何人かは出勤しているハズだ。
だから、「あたしがそういうことをしますよ」という事を夏目父に話しているつもりだったのに、何故か夏目父の目が見る見るうちに輝き始めた。
そしてあたしは、夏目父の口から発せられた言葉に、腰を抜かさんばかりに驚くことになった。







「 俺 が や っ て あ げ よ う か ?」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほぇ?
長年破れたままになっている網戸の張り替えは「手が汚れるからイヤ」と言い、娘が張り替えても手伝わず、生ゴミを捨てるよう頼んでも「雨が降ってるから」という理由で拒否する夏目父が「やってあげようか?」ですと・・・・?







あ  り  得  ん  。







ボケたのかなあ?と思った。
が、すぐに思い直した。
夏目父のことだから、何かお願いごとがあるに違いない。
そうだ。きっとまた時計を買ったんだ。
で、それを会社の経費で落とせって言い出すんだ。
そうだそうだ。きっとそうだ。そうに違いない。
ヤツの術中に嵌ってなるものか!と、あたしもがんばった。



「自分でやるからいいよ」
「使ったことあるの?危ないから俺がやってやるよ」


これだけで既にあたしは、夏目父を疎ましく感じ始めていた。
が。
「いいっつってんだろーが!」と言ってしまいそうになるのを我慢して続けた。


「自分でやりたいの」
「倉庫でやるの?」
「うん」
「家に持ってきてやればいいじゃん」
「うるさいでしょ」
そうでもないと思うけどなあ
「え?電動ノコギリって、すげーでかい音するんじゃないの?」
「まあ、静かってわけじゃないけど、すげーウルサイって程でもないよ」



静かなのかうるせーのか、はっきりしろや。



「でもどうせノコギリ取りに会社に行かないといけないわけだし」
「ああ。それなら大丈夫。あと1時間くらいしたら二代目が来るから。アイツに持ってきて貰えばいいよ」

家の近所にある骨董品店の二代目は、本業の傍ら夏目父の仕事を手伝っていて、その日も会社にいたらしかった。
電動ノコギリを持ってきて貰うには好都合だけれど、でもやっぱり、それを家で使うことへの不安が拭いきれない。

「うるさそうだけどなあ・・・・」

しかし。
あたしがそう呟いているにも関わらず、夏目父は携帯電話を手にとるとすぐに二代目に電話をかけてしまった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



ますます怪しい。



それに、フットワークの軽い夏目父にも、夏目父に何かして貰うことにも慣れていないあたしにとって、この状況はなんだかとってもメンドくさい。
何がどうというわけでなく、何もかも、全体的にメンドくさい。

ほっといてくれねぇかなあ・・・・と思った矢先、夏目父は電話を切り、胡散臭い笑みを浮かべて言った。



「二代目、30分で来るって」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
こうして、あたしの完璧だと思われた計画は崩壊した。





二代目は電動ノコギリを持って20分と経たないうちにやってきた。
・・・・はぇーよ。



   (まさにコレ↑)



丸ノコってヤツなのか。
何年か前、領収書の品名にあった「電動ノコギリ」っていう文字を見ただけだったから、現物見るのは初めてだなあ。
とりあえず箱を開けてみた。






・・・・静かなわけねえな・・・・。






軽いけど、静かなわけはない。






だってこの刃がグルグル回って木ぃ切るんでしょ?










ウルサイに決まってるっつーの。



巷の集合住宅に住むDIY好きはこんなものは使わないんだろうか?
もし使うとしたら家のどこで使うんだろう。
やっぱりベランダ?
それとも部屋?
お風呂?
トイレ?
こんなものを使った経験がないもんだから、どこで使えばいいのか?全くちっともさっぱり見当がつかない。
なので。
8畳の部屋にあった机の板を4畳半の部屋に持ち込んで作業を開始することにしたのだが。
狭い部屋だっつーのに何故だか、夏目父がついてきた。






このくらいしか作業スペースがないのに、だ。



何を企んでやがる?



絶対何か企みがあるハズなのに夏目父は、狭い4畳半の部屋に無理やり入って来ると、少しすっきりしたベッドに上がってしゃがみこみ、元気よく、「スタートぉー!」と号令をかけた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



出て行ってくれねえかなあ、このオッサン。



っていうか。
「スタートぉー!」って言われても、絨毯の上で電動ノコギリを使うわけにはいかないだろー。
いくら汚いって言ったって、ここにうわーっと大鋸屑が散らばったら後が大変。
しかし、号令を無視してビニールシートを敷こうとするあたしを夏目父が制す。



「だいじょうぶだいじょうぶー。そんなに散らばらないって」



夏目父のこの言葉を聞いてモノグサなあたしは、「そんなもんなのかな?」と思ってしまった。
どう考えても散らばらないハズはないのに。






翌日曜日は母の日。
夏目父と二人でお墓参りに行った。



お墓を掃除しながら、声に出してお母さんにボヤきまくる娘。





お母さんの旦那がさあ、「家でやれ」って言ったのよ。「すげーウルサイってわけじゃないから」ってね。あと、「ビニールシート敷かなくても大丈夫」とも言ったんだよ。「そんなに散らばらないから」ってね。
電動ノコギリ使って良かったよ。
あっという間に終わったしね。
長い板を半分に切るのだって数秒だったしね。




(大鋸屑が舞う汚部屋)



でもね、お母さん。
電動ノコギリの音はやっぱ凄まじかったよ。
お母さんの旦那は耳を塞いでたからいいけど、あたしは素耳だもん。すみみ。
あとね。
お母さんの旦那は、大鋸屑が溜まるホルダーみたいなのがくっついてると思ってたんだってさ。
何処に目ぇつけてんだろうね、お母さんの旦那さん。
どこ見たってそんなモン、くっついてないんだけどね。
だから部屋中がこんなになったよ。






お母さんの旦那さんは、「あれぇー?すげー汚れちゃったー」ってすっ呆けてたけどさ、絨毯の上に大鋸屑が敷き詰めてあるなんてさ、きっと、



虫 、 大 喜 び ぃ ー ☆



だよね。
だから、ホウキと掃除機使って掃除したよ。
掃除に2時間かかったけどね。
あとね、8畳の部屋も掃除したんだ。
机を解体した時に出た木屑を掃除機で吸って、刺さると危ないからコロコロも使って、それでも不安だったからガムテも使って掃除したよ。




(学習机跡地)



そしたらね、部屋もますますスッキリしたよ。(夏目基準)






でもさ。
もう、お母さんの旦那の言うことはきかないから。
だって今回だって、人が大変な思いして掃除してるのに二代目と呑みに行っちゃったんだよ。
あたしも行きたかったっつーの。
それに。
本人まだ言わないけど絶対何か企んでるし。
だからね。
もう、お母さんの旦那の言うことはきかないんだ。
片付けはやっぱり一人でやるに限る。
誰かの手ぇ借りるの、性に合わないみたいだ、あたし。



・・・・と、あたしは、夏目父に聞こえるようにお墓の前でボヤき続けた。



綺麗になったお墓の前に、お母さんの好きなお線香を持って夏目父が座った。



お線香を供えて静かに手を合わす。
・・・・とここで。
ようやく夏目父の企みが明らかになった。







「 危 険 な 作 業 を 手 伝 っ て 貰 っ た お 礼 に 、 っ て

ウチの心優しい娘は 雑 種 の 犬 を飼ってくれると思うんだよね 」







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



そ、そ、それが目的だったのか。
全然手伝って貰ってねーんだけど。
それと、とーちゃん。
心優しい娘って誰のことだ?
っていうかね、前にも言ったけど。





あたしはとーちゃんと猫と虫とでいっぱいいっぱいなんじゃ!
(鬼娘より)





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 『 お部屋をキレイにするブログ 』 カナさんの復帰をじっと静かに待ち続けています。それとは違う意味で、汚散部屋から脱出しただけでは満足せず、あろうことか万年ダイエッターからも脱出しやがっ青ポットさんの汚散部屋の復活を、手ぐすねひいて待ってます。