BOOK INFOMATION
「お金がない」と書いた火曜日、深夜0時に帰宅して、録画していた先週分のドラマを見ようとしたら不意に、「片付けの期限は6/7の午前0時13分じゃなく、6/6の21時58分だ」ってことに気づいたので、早々に片付けを諦めた。
そうだったそうだった。
水曜の夜は、『 ミラクルタイプ 』 も 『 バンビ~ノ!』 もあるんだった。
せめて番組が始まる2分前には、片付けを終わらせてたいもんなあ。
やっぱ、テレビ周りを片付けるのは見たいテレビ番組がない日じゃないとダメだ。
つーか。
そもそもあたし、短期決戦は無理だろ。
今まで短期間で片付けられたためしがないじゃないか。
これが出来ていたらとっくの昔に部屋は片付いてるっつーの。
平日の夜の貴重な時間をテレビに割いてしまうのはいつものことだけど、水曜にはとうとう、財布の中身が59円になってしまった。
限界だってことは十二分に理解していたけど、でもやっぱり片付けるのは億劫でメンドウで、片付けようという気が起きない。
片付けたくない日は片付けなくてもいいの。
今までもずっとそうしてきたし、これからもそうしていくつもりだからいいの。
お金の問題さえクリアできれば、ね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
えーっとぉ、えーっとぉ。
夏目父金融から1万円借りたとして利息がトイチってことは、10日後に返せば11,000円か。
もし10日後に返せなかったらどうだろ?
夏目父金融は複利だから、20日後には12,100円、もし2万円借りてたら24,200円。
それが30日後には26,620円になって、40日後には29,282円?
ううーん。
やっぱ10日が、腹立たしさの限界だな・・・・。
よし。
夏目父金融から2万借りて、それで10日間凌ぎつつ、件の場所を片付けて、キャッシュカードを救出し、10日後に22,000円を返す、と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
10日でも、充分腹立たしいじゃねえか。

(片付け中に見つけた米ドル札)

(片付け中に見つけた米ドル札)
45ドルじゃ2次会に行けねぇなあ・・・・。(呑み代は日本円で払いましょう)

(片付け中に見つけた香港ドル札)
これじゃタバコ代にしかならねーか。(タバコ代も日本円で払いましょう)
くぅぅぅぅぅ・・・・。
前は部屋中いたるところに小銭がポロポロあったのになあ。
それをかき集めれば呑み代くらいにはなっただろうに。
つーか、こんなことなら、いろんな銀行口座にお金が散らばってるままにしておけばよかった・・・・。
片付けた勢いで、給料が振り込まれる口座と郵貯と地元の銀行、この3つ以外の口座を全部解約したあげく、使ってない地元銀行の口座にあったお金を全部引き出して、給料が振り込まれる口座に入れちゃったよ。
「余計な通帳やカードを管理しなくてもいいしぃー」なんて得意な気分になってたけど、そのせいで今、すげー困ってるじゃないか、あたし!
汚部屋のほうが便利だったじゃないか!
貧窮は、人の思考回路を狂わす。
というのも。
この時点であたしは何故か、部屋を片付けたことを激しく後悔し始めていたし、この直後、「すっげーいいことを思いついたー!」とテンションが上がりまくるのだが、でもそれは、今思い返してもだいぶイカレタ方法だったから。
ちなみに書いておくと、この時あたしはシラフだった。

釣りに行きてぇなあ。

このオモチャみたいな竿とリールでも、カワイイハゼとか釣れるんだよねえ。

あーあーあーあー。
ケースの中、ぐっちゃぐちゃだ。
整理したいけど、やり始めると仕掛けとか錘とか買っちゃうからなあ。
後で後で。
我慢我慢。

お!あった!
これこれー。
ヒラヒラ沈んでくから、「ひらりー」。
・・・・って、ダジャレかよ!

これを道糸につけてー、針じゃ無理だから、ガムテだ、ガムテ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
貧窮に狂わされ、片付けることも親にお金を借りることも放棄した釣り好きの三十路女は、家具の後ろに落ちたキャッシュカードを、この仕掛けで釣り上げることにしたらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今、「こいつアホか?」と思った方へ。
本人とっくに気付いてるんで、そっとしといて下さい。

(ものすごく真剣。息止めてたもの)

(瞬きもしてなかったもの)

(ものすごく真剣。息止めてたもの)

(瞬きもしてなかったもの)
本人はいたって真剣で、しかも脳の奥がツーンとなるくらいの集中力で挑んでいたのだが、ガムテが家具の背や壁にくっついちゃって、なかなかすんなり下まで落ちていってくれない。
でも、仕掛けを作り直す気は一切ない。
意地になってたというか、夢中になってたというか。
気分はすっかり弘樹だった。

弘樹なあたしは、何度も何度も糸を巻いては下ろしまた巻いて・・・・を繰り返した。
二の腕がダルくなるくらい、やり直し続けた。
だって弘樹は我慢強いのだ。
世界を釣るまで粘るのだ。
辰夫はすぐに飽きてホテルに戻って寝てたりするけど、弘樹は粘るのだ。
だけど、いつだって世界は釣れないのだ。
・・・・・と!

(この時点で声を出すのは素人よ)

(落ちたのがこのデザインのカードじゃなかったらとっくに再発行依頼してた)
と・・・・、
と・・・・、
獲 っ た ど ぉ ー ー ー ー ー ー ー ー ー っ !
(この時だけは、やっぱ濱口)
激闘だった。
いや、死闘と言っても過言ではない。
だって。
釣 り 上 げ る ま で 5 時 間 も か か った ん だ も の 。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あれ。
また「こいつ、マジでアホじゃね?」と思った人がいるのかな?
そ ろ そ ろ 慣 れ て く だ さ い ね 。
夜はすっかり明けて二の腕はダルかったが、お金の心配が消えたことに安堵したあたしは、2時間だけぐっすり眠って会社に行った。
休憩時間にお金を下ろして、感無量。
嬉しさのあまり、いつもは入らないとんかつ屋さんで昼食をとることにし、

嬉しさのあまり、ごはんを4膳おかわりした。(常に食い過ぎ)
お金があるって素晴らしい。
財布の中にお札が入ってるって素晴らしい。
これでやっとタバコが買える。
これでやっと町内会費を払いに行ける。
これでお米が買える。
そして!
これでやっと!
今晩の呑み会に行けるどーーーーーーー!(まだ濱口)
ウコンの力を2本買って会社に戻り、17時半、上司と2人、腰に手をあててそれを飲み干した。
「これ呑んでも、ダメな時はダメだよね」 ←上司にタメ口をきく三十路女
「そうだなあ。しかも今晩は日本酒だしな」 ←それに慣れてる四十路男
この日あたしは上司と、日本酒を呑みに行く約束をしていたのだった。
「寝不足の時って、日本酒は危険だよね」
「そうだな。ああ、俺も寝不足だわ。で、お前はなんで寝不足?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←「弘樹になってたから」とは言えない
「なんか楽しいことでもあったんじゃねえのぉ~?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←ますます言えない
「何だよ。教えろよ。俺が寝不足な理由も教えっからさー」
「 い い 。 興 味 ね ー か ら 」
(註:三十路女が上司に言った言葉です)
(註:三十路女が上司に言った言葉です)
あたしの寝不足の理由が聞きたいというよりは、自分の寝不足の理由を言いたげな上司を放置して、帰り支度を始めた。
定時で帰るのは久しぶり。
財布の中身は万全。
逸る気持ちを抑えて帰り支度を済ませ、席を立とうとしたまさにその時!
具体的には、17時42分。
ト ラ ブ ル 発 生 。
残 業 決 定 。
呑 み 会 延 期 決 定 。
残 業 決 定 。
呑 み 会 延 期 決 定 。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
たまに気合いを入れるとコレだもんな。
やっぱ、いちいちがっかりしないように、ゆるーく暮らそう。
そうだそうだ。それがいい。
睡眠不足の翌日だから本当はキツイはずなのに、睡魔に襲われることもなく、午前4時に無事仕事を終えた。
帰り道、上司と2人でタクシーがつかまる場所まで歩いているとさすがに疲労感に襲われた。
というか。
弘樹になったせいで、カバンを持っている二の腕がすげーダルい。
「明日あたりには筋肉痛になるのかな?」とぼんやり考えていたら、上司が口を開いた。
「で。お前は何で寝不足だったの?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「 教 え ね 」
(註:三十路女が上司に言った言葉です)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「 教 え ね 」
(註:三十路女が上司に言った言葉です)
社会人をやってれば、こんな日もあるさ。
こんなことで浮いたり沈んだりしていられる程、大人はヒマじゃないのだ。
家に着いて部屋に入り電気をつけた。
で。
なんかスゲー癒された。

(ぷっくり)
花 の 色 は 白 だ 。
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