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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



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うちのマンションには、あたしが密かに「スーパー専業主婦」と名付けている4人の最強主婦がいる。
彼女達は本当にスゴイ。
まあ、あたしが見知っている専業主婦といえば、母親と姉と親戚の叔母ちゃん達くらいなものだから、一般的に見てスゴイのかどうかは判らないけど、でもスゴイ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
こうも「スゴイ」「スゴイ」ばかり書くと、かなり頭の弱そうな文章になるって判っちゃったけど、でも、彼女達はほんとーにスゴイのだ。



あたしが住んでいるマンションは戸数が少ないため、専任の管理人がいない。
でも、管理会社はマメに巡回してくれるし、委託している清掃業者の仕事も丁寧だから、困ることはない。
ただ、今のマンションで暮らし始めた当初、「困るってほどじゃないけど、でもなあ・・・・」と思うことがあった。
たとえば、階段の蛍光灯が切れかかった時。
すっかり切れてしまえば諦めもつくのだが、チカチカ点滅する蛍光灯ほど煩わしくて侘しいものはない。
うちのマンションの場合、共有部分にある蛍光灯の交換は管理会社がやってくれるのだが、チカチカ点滅し始めてから管理会社の定期巡回日までが3日もあったりするわけで。
気づいた住民が電話をすれば、管理会社はすっ飛んで来てくれるのだが、「そこまでするほどのことでもない」と思い、3日後まで待つのが常だった。
帰宅するたびチカチカする蛍光灯の下を歩くと、どーも、寂れた気持ちになってイタダケないが、それでも、定期巡回日まで待っていた。
が。
そんな微妙な状況の打開策をいち早く思いついたのが、スーパー専業主婦だった。

スーパー専業主婦は、管理組合の定期総会で、管理会社にこんな要望を出した。


1.予備の蛍光管を、マンション敷地内にある備品倉庫に置いておいて欲しい。
2.ラクに持ち運び出来るような脚立を用意して欲しい。
3.備品倉庫のスペアキーを、スーパー専業主婦に預けて欲しい。


つまり。
スーパー専業主婦は、いちいち管理会社を呼ばない代わりに、住人が自主的に交換できる環境を整えて欲しいと、管理会社に要望したのだった。
しかし、その要望を管理会社が受け入れてくれたからと言って、スーパー専業主婦は、「さあ、環境も整ったわけだし、これからは気がついた人達が自主的に替えましょうよ!」とは言わない。
彼女達がスゴイのは、「真っ先に気づくのは私たちだろうから、私たちが替えますよ?」と、アッサリ言って、しっかり実行しちゃうところにあるのだ。
・・・・と、これだけを書くと、「管理会社にとっちゃ、ちょろい客じゃん」と思うかもしれないけれど、スーパー専業主婦はスーパーなので、管理会社に交換条件を提示することも忘れない。
しかも、管理費の値引交渉なんていう、後々まで尾を引きそうなことはしない。
スーパー専業主婦が出した交換条件は、



「総会の時、ケーキでも買ってきてくれればいいわよ」



である。
それ以来、ウチのマンションの総会では、管理会社からケーキが振舞われるようになり、よって住人の出席率も高くなっている。

蛍光灯だけじゃない。
スーパー専業主婦は、雪が降れば雪かきをするし、夏になるとマンション敷地内の草むしりをする。
これも当初は、管理会社がやることになっていたのだが、蛍光灯の時と同様、スーパー専業主婦が管理会社に、雪かき用のスコップやむしった雑草を入れるためのゴミ袋を用意して貰い、自分達でやることにしたのだ。
ちなみに、これらの作業に対する交換条件は。



「総会の時、コーヒーと紅茶を出してくれればいいわよ」



である。
こういうことが積み重なって、今やウチのマンションの総会では、「軽いパーティーか?」くらいの食べ物が振舞われ、住人の出席率は毎回9割を超えている。

ボランティア精神がないあたしは、「自分がせっせと働いて得た報酬を、働いてない人も含めた全員で山分けする」という感覚が理解できなかったのだが、その疑問を投げかけるとスーパー専業主婦は明るく言う。



「だってー、みんなが仕事してる間、暇なんだものー」



・・・・いや、どう考えてもヒマじゃなさそうなんですけど。
つうか。



あたしなら、どんだけヒマでもやらね。
(小声で)



スーパー専業主婦には、「やって あ・げ・て・る の!」とか、「どうして私たちだけが!」なんていうヒステリックなところが全くなく、まるでそれが元々自分の仕事であったかのようにあっさりとしているのだ。
そして、スーパー専業主婦はスーパーなので、他の住人にそれらの作業を「やれ」と強いることはない。
というかむしろ、たとえばあたしが草むしりを手伝おうとしようものならば、「日焼けはお肌の大敵よ!ほら、「色の白いは七難隠す」っていうでしょう?美白よ、美白」などと言われ、やんわり追い返されるのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
一生嫁にも行けなさそうで、三十路もだいぶいってて、七難どころか七十七難くらいある地黒のあたしはこの言葉を聞いて、「え?嫌味?」と一瞬思うのだが、あたし以外の住人も、「私たちが言い出したことだもの、気にしないで」とか「仕事で疲れてるんだもの、ゆっくり休んで」とかいう理由でやんわり追い返されているらしいから、あたしへの言葉も嫌味ではないのだろう。
・・・・ないと思うことにしよう。そうしよう。

とにかく、万事が万事こんな具合。
うちのマンションの住人は誰もが、スーパー専業主婦たちのおかげで、快適な暮らしが出来ていると言っても過言ではない。



そんな、スーパー専業主婦がいるうちのマンションは、この秋から大規模修繕工事を予定している。
「パーティーか?」くらいのご馳走が振舞われることもあり、春から何度も行われている話し合いの場は毎回賑って和やかで、だからこそ、言いたいことが何でも言える雰囲気が出来上がっている。
工期は約3ヶ月。
その間は生活に様々な制約があるし、ましてや、マンション一戸が買えるくらいのお金がかかるわけだから、住人の意見を思いっきり反映した工事にしたいという思いをみんな持っていたと思う。
スーパー専業主婦はその場でも、沢山のナイスアイディアを出したし、費用を値切ることも忘れなかった。
そして、先日行われた説明会ではとうとう、参加者一同から大絶賛される案を提示した。



工事は、マンションの外側全てに足場を組み、そのまた外側をシートで覆う作業から始まる。
埃や塗料が飛散する可能性があるため、マンション敷地内にある駐車場と駐輪場は工事用資材置き場にして、住人の車や自転車は、敷地外に借りた場所に移動することになったのだが、どうしても他所に移せないものもある。
それがゴミ収集用のコンテナだった。
施工会社によると、ゴミ置き場がなければ工事がだいぶやり易いのだが、別な場所にゴミを捨てるとなると、町内会やご近所との話し合いを持つ必要があり、「まあ多分、同意は得られないでしょう」とのこと。
だったら無駄に波風立てることはせず、多少工事に影響があろうともゴミ置き場は現状のままにし、万が一工事によってコンテナが激しく汚れるようなことがあったなら、その時は施工会社で新しいものに替えてくれると言う。
施工会社のこの提案にはもちろん参加者一同が納得した・・・・かに思えたのだが、実は、話の途中で施工会社が言った「ゴミ置き場に面したマンションの外壁にも足場を組みますから、ゴミ置き場自体は若干狭くなりますけど」という言葉に引っ掛かっている人物がいた。
そう。
スーパー専業主婦だ。



「ゴミ置き場が狭くなると、収集を依頼した粗大ゴミを置く場所がなくなるわ」



・・・・確かに。
でもまあ、3ヶ月くらいならいいんじゃないかなあと、あたしは思った。
しかしスーパー専業主婦は続ける。



「やるかやらないかは別にして、人の心情として、長年使い続けたベランダにある物を全て撤去するのは大仕事でしょう?でも、それを頑張ってやり終えたとするわよね?で、ベランダの工事が済んで綺麗になる、と。そこに鉢を戻すわけだけど、せっかくベランダが綺麗になったんだもの、今まで使ってたオンボロの棚じゃなくて、新たに綺麗な棚を置きたくなるものでしょう?」

「はい」

「となると、古い棚は必要なくなるわよね。でもそれを捨てようにも、粗大ゴミ置き場がないんじゃ捨てられない。でも、何年も外に置きっぱなしにしていて汚れた物を、捨てもせず家の中にずっと置いておかなくちゃいけないなんて困るのよ」

「困りますよねえ・・・・」


・・・・なるほど。
あたしは部屋の中に汚いものがあったところでひとっつも困らないけど、普通の人は困るのか。そうか。そうなのか。

スーパー専業主婦は続ける。


「でしょう?それに、外観が新しくなるとどうしても、あたしたちみたいな主婦は特に、「家の中もなんとかしたいなあ」って思い始めるわけ」

「わかります、わかります」


わかります、わかります。
独身のあたしでもわかります。
なんとなく、ですがわかります。


「でも、粗大ゴミが捨てられないと、それなりのことしか出来ないわけよ。絨毯ひとつ替えられないでしょう?」

「そうですねえ」

「そうじゃなくても、工事期間は不便に暮らすことになるんだから、工事が終わるまではゴタゴタしても、工事が終わったらゆったりとすごしたいのよ。そのためにもね、工事している間に家の中のこともやってしまいたいって思うの」


なーるーほーどーねー!
さぁーて、施工会社はどう出る?
粗大ゴミ置き場をどこにする?
ここが腕の見せ所だぞ?
・・・・と、あたしはそのやり取りをワクワクしながら見ていたのだが、次に口を開いたのは施工会社ではなく、またもやスーパー専業主婦だった。



「そこで、お願いなんですけど」
「はい」
工事でもゴミはたくさん出ますよね?
「はい」



家から出る粗大ゴミを、工事のゴミと一緒に捨てて貰えないかしら?



このお願いが無茶かどうか、あたしにはよく判らない。
でも、現場監督の顔が一瞬曇ったから、戸惑ったのは確かだろう。
しかしその後、スーパー専業主婦は、一度に大量の粗大ゴミが出て工事に支障が出ないよう戸別にヒアリングして調整する役を、自らかって出た。
すると施工会社はこの提案を、快く受け入れてくれたのだった。
処分料はもちろん無料。
出席者一同からは拍手が起こり、施工会社も管理会社も満足げな表情を浮かべていた。


さて。
説明会の最後、施工会社の人が、「ところで、どれだけの粗大ゴミが出るんでしょうかね」と呟いた時のことだった。
出席者が口々に、自分の家にある要らない物を告白し始めた。

「小さい下駄箱もいいかしら」
「子供部屋にあるチェスト、ずっと捨てたかったのよねえ」
「ウチはプラスチックの衣装ケース3つ」
「娘の自転車、この機会に捨てようかしら」

まあ、出るわ出るわ。
長く住んでいればどこの家でも、捨てそびれている物のひとつやふたつあるものなんだなあ・・・・。
でもあたしは、自分で全部捨てちゃった。
普通に処分料を払って捨てちゃった。
こんなことになるのなら、捨てずにいたほうが良かった・・・・なんてことは微塵も思わなかったけど、でも、この機会にあたしも何か捨てたい!

えーっと、えーっと。
要らない物、要らない物。
ゴミ袋に入らないくらいデカくて捨てそびれてる物は・・・・?
あ・・・・。








と ー ち ゃ ん ?
(ナマモノは不可)








いやいや、違うな。
でも何かあるだろー、捨てる物。

このタイミングで言わなければ捨てられないわけじゃないけれど、でもあたしは、どーしてもみんなの波に乗りたくて、必死で考えた。
で。
思いついたと同時に、なぜだか挙手して言った。



「 は い ! バ カ デ カ い ぬ い ぐ る みを 捨 て た い で す !」
(必要以上の大声で)








こうして、トトロの処分が決まった。



これは、自分が仕事をしている時だけじゃなく、お店で食事している時や買い物をしてる時にもよく思うことだけれど。
たとえ自分がお金を払う側であっても、仰け反っているだけではいいサービスが受けられない。
サービスを提供する側だって生身の人間なわけで、客に腹を立てながら仕事をすれば、多かれ少なかれその気持ちが仕事に表れるものだと思う。
自分では、そうならないように割り切っているつもりでも、嫌々ながらにやった仕事はそれなりでしかない。
だからあたしは。
自分の意見はハッキリ言うけど誰のことも不快にはせず、心地よくサービスを受けるためなら手間を惜しまない、というスタイルを貫くスーパー専業主婦たちを、心の底から「スゴイ!」と思うのだ。





説明会から帰宅し、夏目父にその内容を伝え、トトロのぬいぐるみを捨てることも話した。
すると夏目父はなぜか嬉しそうに、「やっと捨てる決心がついたかー!」と言う。



「決心って・・・・。いや、捨てるのが惜しかったわけじゃなくてね」
「へぇーーー」(ニヤニヤしながら)
「ゴミ袋に入らないから、捨て方が難しいなと思ってさ」
「へぇーーー」(同)
「粗大ゴミに出すっつったって、収集場所にアレをドーンと置くのはなんかね」
「へぇーーーーー」(同)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なんか、カンジワルイ。
つーか。
何か誤解されてる気がする。



「なあに?」
「ううん。なーんでもない」
「じゃあ何でニヤニヤしてんの?」
「別にぃー。でもさー、あのぬいぐるみって確か、小林くんがくれたんだよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうですがそれが何か」
「ふふふふ」
「だから何だよ」
「お前、小林くんのことは捨てたくせに、ぬいぐるみは捨てないからさあ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「別れたこと後悔してんじゃないのぉ?実はまだ好きなんじゃないのぉ?って思ってたんだよねー」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



やっぱり捨てよう。
トトロは可愛いし、トトロには罪もないけれど、やっぱり捨てよう。
だってあたし、小林になんて全然未練ないし。(本当)
でも確かに、トトロを見るたびぼんやりと、小林のこと思い出しちゃうし。(本当)
思い出したくないことまで思い出しちゃうし。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



つーか、とーちゃん。
どうしてとーちゃんがそんな風に思ってるのか判んないし、今となってはどっちでもいいんだけどさ、でも、言っておくよ。








捨てられたの、小林じゃなくて、お前の娘のほうだから。
(本当)








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