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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



ゴミ屋敷のような汚部屋で長年暮らしていることや、自分が片付けられない女であることを、会社の人にはもちろん、親しい友人にさえも話したことがない。
心の奥底には「知られたくない」という意識があったのだろうけど、かといって必死で隠してきたわけでもない。
ただ、歳を重ねるたびにフットワークが重くなっていて、そうじゃなくてもお互いの仕事や家庭の都合で友達に会う機会は確実に減っているから、たまに友達と会った時は、互いの近況を話すだけであっという間に時間が過ぎてしまう。
だから、部屋が汚いことが悩みでも何でもなかったあたしは、友達と過ごす限られた時間に、敢えて汚部屋話をしようと思ったことがなかった。



彼女と会うのは3年ぶりくらいだったと思う。
単行本を送ろうと、それに添える手紙を書いていた矢先に彼女からメールが届き、そのタイミングの良さに、「やられた」と思った。
と、同時に。
この1週間、どうしても一人で行くことが出来なかった場所に付き合って貰おうと決めた。
あたしが汚部屋住人であることを知った、初めての友達に。



彼女と約束した時間が近づき、あたしは彼女にメールを送った。



「本屋に寄りたいの」



3年ぶりに会った彼女は「久しぶりー」という挨拶もそこそこに、「ねっ、どこの本屋にする?○○?△△?それとも、××まで行っちゃうー?」と、なんだかとても楽しそうだった。
しかしあたしは、援軍を得てもまだ尚、覚悟が決まらない。
結局、まるで「本屋の店員に告る気か!?」っつうくらいモジモジオドオドしながら書店へ行き、自分の本が置いてある場所まで彼女に連れて行って貰った。






(↑本の並び。サブカル棚にありました)



「ほ、本屋にあるんだねえ・・・・」とあたしが呟くと彼女は、何を今更といった風に「あるよ!○○の紀伊國屋では、新刊コーナーに平積みで、しかも重松清の隣だよ」と言う。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか。



緊張と照れと、他にも何かたくさんの感情が入り混じって、大好きなハズの本屋に長く居られず、他の書店を巡るのは止めて、とっとと呑みに行った。




(揚げ物縛り)



前回彼女と会ったのは焼肉屋だった。
当時あたしは、自分の心の深いところから浅いところまでにギッシリ詰まったひとつの感情を持て余していて、焼肉を食べながら、誰にも話せなかったヘヴィーな想いを吐き出し、彼女を随分泣かせてしまった。
そしてやっぱり今回も、あたしは彼女を泣かせてしまった。

ただ、3年前と違うのは。
いろんな感情を抱えながらも、お互い、概ね楽しく毎日を過ごせているということ。

あたしは、単行本用に文章を書きながら何度となく、3年前の焼肉屋の光景を思い出した。
だから、あの時のあたしに付き合ってくれた彼女にだけは、「結構楽しく過ごせるようになったんだよ」ということを伝えたいと思っていた。



一通り近況を語り合った後、やはり話題は汚部屋のことになった。



「・・・・・・・・・・あの部屋に住んでたんだよね?」
「うん。えへへ」
「毎日着てるスーツはどこに?」 (註:あたしは平日スーツを着ている)
「ああ・・・・」
「どこに吊るしてるの?・・・・っていうか、吊るしてるんだよね?」



「 そ う い え ば 吊 る し て な い な あ ・ ・ ・ ・ 」



「え゛?」
「えへへへへ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



彼女は明らかに言葉を失っていたが、あたしがそれに怯むことなく自分の汚部屋っぷりを語り続けると、彼女は笑ったり、ツッコミを入れたりしながら話を聞いてくれた。
少し泣いたけど、たくさん笑った。



そんな風に、自分が汚部屋に住んでいることを初めて友人に語ってみて判ったことがある。
それは。



友達って、あたしが思ってる以上にあたしの性格を知ってるんだな



ってこと。
付き合いが長いから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど、彼女の口からは、主にあたしのダメなところを中心に、「そこまで判ってて、何で友達でいてくれるの!」と驚く発言が相次いだのだ。
中でも一番笑ったのは、出版祝いにと、彼女がシャンパンをくれた時だった。






彼女はこれを差し出しながら、息もつかずに言った。



(一度も息継ぎせずに、声を出して読んでみてください)



ホントは残るものをあげようと思ったんだけど

「せっかく物減らしたのに」

って怒られそうだからそれはやめて消費するものにしようと思ったの。
で、これのフルボトルを買おうと思ったんだけど、

「こんな重いモン、家まで持って帰れってか?」

って言われそうだから小さいのにしてみたの!
だからだからっ、ひとりで呑んでっ。ねっ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





そんな失礼なことを言いそうな女とは、縁切ったほうがいんじゃね?





まあ、実際のあたしは、彼女が残る物をくれたとしても「せっかく物を減らしたのに!」とは怒らないし、彼女がくれたものならばどれだけ重くても喜んで持って帰るけど、でも、そんなことを言いそうなくらい口が悪くてダメなところがたくさんあるあたしに、ただの一度も文句を言わず長年付き合ってくれている彼女とは、これから先もずっと友達でいたいなあと思った夜だった。
そして。
3年前の焼肉屋で彼女がしてくれたことへの恩返しが出来るくらいの人になりたいなあと、強く思った夜だった。



連休中のお彼岸は、例年通り夏目父と共にお墓参りへ。




(片付けられない女は、花を生けるセンスもない)



夏目父は墓前で手を合わせながら、「我が家の末娘ときたら、俺が好きなシャンパンを一人で呑みやがったんだよ・・・・」と呟いていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





いちいちチクってんじゃねーよ。





つーか、とーちゃん。





あたしが買ってきた納豆4パック全部を平らげたのは、その仕返しかぃ?





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