BOOK INFOMATION
夏目父は、あたしの部屋がゴミ屋敷のようだった時も、あたしが自分の部屋をせっせと片付けている時も、口も出さなければ手も出さず片付けには無関心だ。
自分の部屋をせっせと片付けることもしない。
あたしとて、リビングのついでに、隣にある夏目父の部屋にざっくりと掃除機をかけることはあるが、あとは概ねほっといている。
ところがある日、夏目父の部屋にある会社の書類を探していたところ、仕事部屋に置いてあるキャビネットの中身がすっからかんになっていることに気付いた。
で、一瞬「ヤバイ」とは思ったが、知らぬフリを決め込んでいた。
それから暫く日が経って、夏目父が呟いた。
「俺の部屋にあるあのキャビネット、もう使ってないんだよね」
「・・・・ふ、ふぅーん」
夏目父の部屋に不要なキャビネットがあろうともあたしには何ら関係ない。
いずれは関係してくることは判っていたが、黙っていた。
また暫く経ったある日、夏目父が呟いた。
「あのキャビネット、使わない?」
「・・・・ど、どうかね」
まだ大丈夫。
2回くらいなら我慢できる。
そしてまた暫く経ったある日、夏目父がとうとう言った。
「あのキャビネットって、どうやって捨てるんだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(そぉーっと4畳半へ移動)
「捨てて頂戴」と言われたわけでもないのに、自主的に、このアホみたいに重いキャビネットを動かした理由を説明するのはちょっと難しい。
まあ、簡単に言えば、夏目父が自分で捨てやしないのを判っているからだ。
で。
自分で捨てやしないくせに、放っておくといつまでも、「あのキャビネット・・・・」と呟き続けるのが判っているからだ。
そして何より。
夏目父のその手の呟きを、繰り返し聞かされるのに、あたしが耐えられないからだ。
「自分で捨てれば?」と突き放すのは簡単だが、ウチの親に限っては、突き放したところでやりはしない。
「じゃあ二人で協力して捨てようか?」と言ったところで、邪魔になりはすれども、役には立たないに決まっている。
万が一、夏目父が頑張ったところで、このキャビネットは物凄く重いのだ。
腰でも痛められちゃ堪らない。
また、「あたしがそのうち捨てるから、それまでは黙ってろ!」とキレたところで、こっちの心にもモヤモヤが残るし、夏目父だって何がしか、心に引っかかりがあるだろう。
つまり。
こういう時は、あたしがひとりでそぉーっと捨てるのが一番いい。
そして、あたしが捨てるまでの間、夏目父に呟かせないためには、夏目父の目の届かないところへ移動するのがイイ。
親との関係は人それぞれで、何が正解というのは無いと思う。
ただ、我が家では、夏目父を動かしたり黙らせたりすることよりは、あたしが動くことの方が断然ラクなのだ。
しかし、あたしはモノグサ。
いくら腕力に自信があっても、その気になるまでがひじょーに長い。
しかも、夏目父の目の届かない場所に移動しさえすれば、これを何日でも放置できる鈍さもある。
実際、ケータイで撮っていた写真のタイムスタンプによると、ぜぃぜぃ言いながらこの、バカみたいに重いキャビネットを4畳半に移動させたのは、去年の11月3日のことらしいから、2ヶ月半以上、4畳半に放置していたことになる。
ちなみに。
2ヶ月半の間にあたしの住む街では粗大ゴミの収集が6回あったらしいが、何回捨てそびれようとも大して気にならなかったし、だから、先週の水曜日に収集依頼の電話をかける時は物凄く気合いが要った。

何せ、とにかくこのキャビネットはアホみたいに重いのだ。
家の玄関からこれを持って出て、階段を下りてゴミ置き場まで運ぶことを考えると、気持ちまで重くなった。

奥行きは62センチ、高さは74センチ。幅は40センチ前後。

(1988年製か。つうか、何キロだ、コレ)
これまで家から運び出した中で一番重かった、あの忌まわしいプリンタよりも、確実に重い。
30キロくらいはあるんだろうか。いや、もっとありそう。
まんまを運ぶのは無理なので、まずは真っ当に、引き出しを抜いてみた。

引き出し3つを1回に運んで、本体は、

ここを持って運べばなんとかなるか・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
引き出し抜いても、すげー重いんだけど。
引き出し抜いても、すげー重いんだけど。
このシミュレーションを、収集日の前日遅くにやったのがマズかった。
何故なら、自分でも嫌になるくらい鈍いあたしがこの夜は、「寝坊するかも」「持てないかも」「張替えたばかりのマンションの階段を傷つけたらどうしよう」などと考えてしまい、全くちっとも眠れなかったのだから。(アホ)
一睡もせずに迎えた朝7時。
夏目父が起きる前に行動しないとメンドウなことになりそうだ。
無駄に徹夜した日の朝というのは、それじゃなくても気が重いし、一睡もしていないから力にも自信がない。
着替える前にまず結露を取ろうと(全然飽きねー)ブラインドを開けると、外は小雪がチラついていた。
ますます出来る気がしねえ。
でも、収集依頼しちゃったから、頑張らないと・・・・。
寒いし重いし眠いけど、でも頑張らないと・・・・。
完全防備をして部屋を出て、玄関で靴を履いたその時。
夏目父が起きてきやがった。
そして、玄関にあるキャビネットとあたしを見比べて事情を把握し、言った。
「手伝おうか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
寝癖だらけの髪で、青白く生気のない表情で、やる気のない格好で、具体的には、上は半袖のTシャツ1枚、下はパンツ一丁の我が親が発する、「手伝おうか?」という言葉を聞いた途端、あたしのヤル気が目覚めた。
お、お、おっ!
お 前 の 手 ぇ 借 り な く た っ て 出 来 る ん じ ゃ ー !
(註:この女、一睡もしていません)
お り ゃ ー ー ー ー ー ー ー ー っ !
(註:この女、ほんの数分前まで、自信がありませんでした)
う り ゃ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ー ー ー ー ー ー ー ー っ !
(註:威勢はいいですが、全身の筋肉が笑っています)

(4往復して、プリンタラックも捨てた)
お 前 の 手 ぇ 借 り な く た っ て 出 来 る ん じ ゃ ー !
(註:この女、一睡もしていません)
お り ゃ ー ー ー ー ー ー ー ー っ !
(註:この女、ほんの数分前まで、自信がありませんでした)
う り ゃ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ー ー ー ー ー ー ー ー っ !
(註:威勢はいいですが、全身の筋肉が笑っています)

(4往復して、プリンタラックも捨てた)
我が家ではいつも、親と娘のヤル気が反比例する。
つうか。
粗大ゴミの運搬を手伝うよりもまず、お前にはやらねばならないことがあるんだよ、夏目父。
いいか?
これまで何回も言ってることだけど、今回は耳の穴かっぽじってよぉーく聞けよ。
この真冬に、その格好で寝るのはどう考えてもオカシイだろ。
つうかさ。
エ ア コ ン つ け っ 放 し で 寝 る な 、 こ の ド 阿 呆 。
(註:我が家の電気代は娘払い)
(註:我が家の電気代は娘払い)
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