BOOK INFOMATION
部屋を片付け始める前、あたしは自分が「片付けられない女」ではなく「片付けない女」なんじゃないか?と思っていた。
「片付けられないんじゃなくて片付けてないだけ」と。
なんともイタイ話だ。
まあ、あれだけ酷い汚部屋と真正面から向き合う勇気が出ず、現実逃避の意味で自分自身に言い訳していたんだろうが、いざ片付けを始めてみたら、ありえないくらい要領が悪いわ頭が働かないわで、「やっぱりあたしは片付けられない女なんだ」と思い知らされた。
片付けたことがないから、自分が「片付けられない」のか「片付けない」のかすら判らなかった。
しかし、だ。
料理に関しては、「しない」のではなく「出来ない」のだと判っている。
何がどうダメかというと、単純にセンスがない。
気まぐれに何かを作っても、百発百中、不味い。
せめて10回に1回くらい「まあ、こういう料理があってもいいかな」と思えるものが出来上がってくれればいいけれど、レシピを見ながら作っても100%確実に完璧に不味いのだから、これはもう、材料を切っている手か包丁かまな板か、鍋かフライパンから、「料理が不味くなる汁が出てるんじゃ・・・・?」と思いたくなる。
そういえば、あたしがこれまで100回は読み返している本、ナンシー関とリリー・フランキーの対談集 『 小さなスナック 』 でリリー・フランキーが、



「自分が作るカレーは何故だか魚の匂いがする」と話していた。
シーフードカレーを作っているわけでもなく、それ系の物を入れたわけでもないのに、だ。
それを読むたび思い出すのは、あたしが昔、ビーフシチューを作っている最中、鍋からなんでだかカニの匂いが漂ってきたことだ。
何度嗅いでもカニだった。多分毛ガニ。
市販のルーを使って突飛な具材を入れたわけでもないのに何でそんなことになるのかはもちろん判らないし、カニの匂いがするビーフシチューは当然不味かった。
そんな、自他共に認める「料理の出来ない女」の元に、圧力鍋が届いた。
が、もちろん、何の前触れもなく送られてきたわけじゃない。
ペコさんが以前書いていたHRの美容液レポを読んで、「なぬー?ブログをやってるとそんなステキな体験が出来るのか!」と思って登録したサイバーバズで募集していた「 『 ラゴスティーナ 』 圧力なべモニターキャンペーン」 に応募したら、おそうじペコさんと共に当ったのだ。
そ、そう、応募したの。
料理も出来ないのにあたしが自分で応募したの。
で。
「 当選しましたメール 」 を見た途端、途方に暮れたの。
モニターというからには使用感レポを書かないといけなくて、使用感レポを書かないといけないってことは、料理をしなければならないということ。
圧力鍋どころか、ミルクパンさえも使わず日々生活しているあたしに、そんなことが出来るのか!?と思い、なんだか結構、いや、あたしにしてはかなり真剣に悩んだのだった。
圧力鍋が我が家に届くことになった経緯を説明した後、夏目父に「何を作ればいいんだろ」と訊いてみた。
すると、「近所の惣菜屋で煮物でも買ってきて「作りました☆美味しかったです♪」って書けばいいじゃん」と言う。
夏目父に相談したあたしがバカだったと猛省し、次は、焼肉を一緒に食べた、料理上手だけど聡明ではなく片付けられない女友達(長い)に相談してみた。
すると彼女は迷いもせず、「豚の角煮」と言った。
「角煮?」
「そう」
「ふうん」
「だって(註:ここから一気にまくし立てます)、肉じゃがでも煮物でもカレーでもいいけど作ったからには食べなくちゃいけないわけよ。でもあんた、食べるの?っていうか食べたい?別に、でしょ。でも角煮を2切れ3切れなら食べるでしょ。自分らが食べるもの作りなよ」
「・・・・な、なるほど」 ←押され気味
「あと、比較的、手間かからなくてラクだから」
「そうなの?」
「そうなの」
「ふうん」
というわけで、生まれて初めて使う圧力鍋というもので、生まれて初めて豚の角煮というものを作ってみることにした。
圧力鍋についてきた冊子にあったレシピ通りに。
400グラムの豚バラブロックというのを買ったのも人生初。

(推定30年モノのまな板だが、ここ11年はほとんど使っていないに等しい)
これと、長ネギを1/2本・・・・と。
あ、え?長ネギ?

(しかも枯れてる)
緑のとこしか残ってないけどまあいいか。(根拠ナシ)
で、次は生姜を3枚、と。

あれれ。
3枚でいいのになんかいっぱい切っちゃった。
まあいいか。(根拠ナシ)
で、水を1リットル入れて、と。

(後から数えたら、生姜は9枚。レシピの3倍)
これだけ入れてフタをして中火にかけて、シューってなったら弱火にして、そこから23分加圧、とな。 ←レシピを見て確認しまくった。一生忘れなさそうだ。

圧力鍋を使ったことがある人ならば普通に知っているんだろうが、あたしは火にかけるまで知らなかったことがある。
圧力鍋って、蒸気が出る、シューって音、すごくね?
いや、これをすごいと思うのは単純に我が家では聞いたことのない音だからなんだろうが、なんかこう、とても大層なものを作っているような音がするのだ。
「・・・・ねえ」
「ん?」
「圧力鍋ってうるさくね?」 ←暴言
「そう?料理してるんだもん、こんなもんでしょ」
「そうか。料理ってうるさいものなのか」
「・・・・うるさくないってば」
「え、うるさいよ」 ←シツコイ
「いや、俺にとっては圧力鍋の音よりも」
「うん」
「鍋に向かって何か言ってるアイツの声のがうるさい」

(23分間、鍋から2メートルの距離で鍋に向かって鳴きまくり)
余談だが、我が家に居る、茶色くてシマシマで毛深いこの自堕落番長は、たとえばあたしがやかんを火にかけてお湯が沸くまでのあいだ自分の部屋に戻っていると、やかんから勢いよく湯気が出始めた頃に、物凄くデカい声で鳴く。
これがたとえば、ごはんが炊き上がったのを報せるために炊飯器から流れるメロディーを聞いても鳴くとか、リビングにある電話が鳴っても鳴くのならなんとなく判るのだが、ガスコンロを使っている場合に限って鳴く。
しかも、ニャーというよりは、ウォーーン!と、遠吠えするように鳴く。
で、台所やリビングにあたしか夏目父が居れば鳴かないから、これまでは、「報せてるつもりなんだろうか」と思っていた。
でも今回の件で、報せてるわけじゃないことが判った。
サイレンに合わせて遠吠えする犬が居るように、番長を刺激する何かがあるだけなんだな、この「シュー」には。
シューから23分後、鍋の中の蒸気を抜いてフタを開ける。

・・・・こ、これがホントに美味しくなるのか?
一瞬不安になったがとりあえずレシピブック通りに任務続行・・・・しようと思った矢先、とんだ邪魔が入った。
夏目父だ。
あたしが圧力鍋のフタを開けると、やおらリビングからキッチンにやってきて、「トング!」と言う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はい!トング!」(手を出しながら)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?もしかして「トング」知らないとか?」
「・・・・知ってるよ」
「じゃあ、はい!トング!」(手を出しながら)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんかこの、医龍が手術室で「メス」って言うような仕草と喋りが気に入らない。
つうか、なんでノリノリなんだよ。
「トング、ありませんけど」
「え?なんで?」
「知りません」
「昨日、マロニーなんか買ってきてないでトング買えば良かったのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ど け 、 じ じ い 。

(退かないじじい、フライ返しとフォークで取り出した肉を切る)

(退かないじじい、フライ返しとフォークで取り出した肉を切る)
「煮汁は何cc使うの?」
「・・・・・・・・250cc」
「はい!煮汁、250cc!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
超 う ぜ ぇ ん だ け ど 。

(うぜぇじじいに渋々従う娘)

(うぜぇじじいに渋々従う娘)
「砂糖は?」
「・・・・・・・・大さじ1」
「はい!砂糖、大さじ1!」
「・・・・・・・・・・あの」
「何!」 ←何で張り切ってるのか、マジでうぜぇ
「大さじって何cc?」 ←無知な娘は結構いい歳
「さんじゅう!」
「あ、はい」

(そうかー!大さじ1って30ccなのかー!と内心感動。でも言わない)
追記 : 親子共々間違ってます。15ccが正解だそうでーす。
・・・・と、ここまでは一応親子共同作業だったのだが、いちいち量るのが性に合わないのか、夏目父は酒だの醤油だのみりんだのを目分量で入れやがった。
「ああああ、これまでレシピに忠実に従ってきたのにー」
「は?生姜、9枚も入ってるけど?」
い つ の 間 に 数 え た ん だ よ 。
調味料を加え、フタを閉め、更に10分加圧。
またもや「うぉーーーーん!」と吠える自堕落番長と共に鍋を監視し、シューからきっかり10分で火を止めフタを開けた。

び、微妙・・・・。
ところが、フタを外して少し煮詰めると、居酒屋でよく見てよく食べているのに似た物が出来上がったのだった。
加圧時間は2回の合計で33分。
鍋を準備してから皿に盛るまでかかった時間は45分。
写真を撮りながらじゃなきゃ、もうちょっと短縮できるのかも。
で、肝心の味だけど。
何しろ、自分が作った料理を美味しいと思ったのは初めてなもんで、戸惑いまくった。
「き、奇跡・・・・だよね?」
「何が?」
「だってこれ美味しいよね?」
「うん」
「圧力鍋ってすごい!」
「うん、すごい」
「やっぱ奇跡だよ。あたしが作った料理がこれまでまともだったことなんか・・・・」
と、ここで夏目父があたしの喋りを遮って言った。
「俺が作ったんだもん、美味しいに決まってるよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ご馳走様でした。大変美味しゅうございました。
・・・・って、言えばいいのか。満足か。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ご馳走様でした。大変美味しゅうございました。
・・・・って、言えばいいのか。満足か。
つうか、夏目父よ。
次は、ビーフストロガノフ、よろしくね。
(100%有り得ねー)
(100%有り得ねー)
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