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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



片付け始めてから半年経った頃くらいまで、あたしはぼんやりと、不要品を捨てずに済む方法を考えていた。
こんなあたしでも、自分の部屋で長年放置した結果、「まだ使えるけどもう使わないモン」となってしまった服や雑貨や消耗品をあっさりゴミにしてしまうことにはわずかな罪悪感を感じたし、加えて、自分の性格を十分把握しきれてなかったから、「オークションで売ろうか?」とか「傷んでいない服はリフォームしようか?」とかいうことを、実に頻繁に、でもぼんやりと考えていた。
が、自分が、そういうことを思いついても実行しないヤツだと判ってからは、身の丈に合わない野望は抱かなくなりつつあった。
なのに。
中身が空になったビデオテープラックを見ていたらやっぱり、「何かに使えそう」と思ってしまった。






この、いっぱい物が入りそうな、横にしても使えそうな形が、あたしの決断を鈍らせる。
「絶対要らねえって。だって、手前の棚を開けようとして何度爪をバキっとやったか判んないし」と思ったそばから、「じゃあ、取っ手をつければいいんじゃね?」と思いついたり、「いや、でも、奥の棚に物が詰まってないと、手前の棚を開ける時にラック全体が前に傾くんだった」と新たなケチの付け所を見つけたのにすぐ、「じゃあ、転倒防止ユニットでもつけりゃあいいのか」と思ったり。
ただ。
自分が「片付けない女」ではなく「片付けられない女」なんだと自覚してからというものあたしは、「何かに使えそう」「いつか使うかも」と思った途端、脳内で自分にツッコミを入れる癖がついていた。



「何か」って何だ?「いつか」っていつだ?



いつか何かに使うとしても、このままの状態じゃあたしは使いこなせないに決まってる。
そう思ってよく見てみると、このラック、3つのパーツに分離できそうだ。
こんな込み入った作りのラックじゃなく、シンプルな棚3つなら、あたしでも使うんじゃね?
・・・・と思ってしまったのが悲劇の始まりだった。



まず、諸悪の根源(夏目基準)である蝶つがいを外した。












ネ・・・・ネ、ネジが1本外れなかったけど、そんな細かいことはいいのいいの。
扉が扉でなくなることが重要なんだから。
よし。
次は、奥の棚にくっついてる、可動式の小さい棚を外そう。






これ、上部は本体の棚板の溝にデカいネジ1本で引っ掛かっているだけだけど、






下がどんな風になっているのかがよくわからない。






まあ、レールの上で左右に動くわけだからコロコロがついているんでしょう。そうなんでしょう。

下は固定されたままだけど、上さえ外せばどうにかなるんじゃないかという淡い期待のもと、まずは上部のネジを外した。
で、縦長の箱を手前に引き出してみた。
・・・・って。









途 中 で 引 っ 掛 か っ た っ き り ビ ク と も し ね ー し 。



それにしてもこのラック、表面に全くネジが出ていない。
ドライバを使って外せる箇所なんてごくわずかで、棚板も、一部は






こんなのに引っかかっているのだが、側板とガッチリくっついているものも多い。
つうか、あたしはてっきり、姉ちゃんが自分で組み立てたラックなんだと思ってたけど、こりゃ違うな。
うちの姉ちゃんがこんな重いモンをわざわざ組み立てようと思うわけがない。
でも、あたしにとっては中途半端に使えて中途半端に使えないこのラックを姉ちゃんはちゃんと使いこなしてたんだから、本来の形のままで使うことを考えたほうが良かったのかもしれないなあ・・・・。



縦長の箱が引っ掛かって出なくなったことでだいぶやる気が失せたので、景気づけにビールを呑もうと台所へ行った。
冷蔵庫から一番搾りを取り出すと、それを見た夏目父が「俺も」と言う。
気持ちがやさぐれていたため一瞬、「発泡酒渡してやろうか」と思ったものの(鬼娘)、冷えたのがなかったため、渋々一番搾りを取って渡した。
リビングのソファに座り、つまみもなしにビールをグビグビ呑み始めると、夏目父が喋りだした。



「センゴクバサラツーの」
「あ゛?なんつった?」
「センゴクバサラツー」
「へ?」
「セ・ン・ゴ・ク・バ・サ・ラ・ツー」
「なにそれ」
「ゲーム」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←興味ナシ



「去年その続編が出てね、 『 戦国BASARA2 HEROS 』 っていうやつなんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←早く話が終わらないかなあと思ってる
「プレステ版は単体で売ってんの。でも、wii版は単体で売ってなくて、プレステ版とのダブルパックしかないの」 ←後日、勘違いだったことが判明するのだがそれは置いといて。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←どーでもいいぞーと思ってる
「俺はwiiのは要らないんだけど、このあいだ○○(自分の孫)と話したら、○○も戦国BASARAが好きなんだって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←孫と好みが合ってよかったねーと思ってる
「で、○○はwiiのほうがいいんだろうから、ダブルパック買って2人で分けようと思うんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←だから、どーでもいいぞぉーと思ってる
「対象年齢がさー、12歳以上なんだよ」
「ほう」 ←この会話、唯一のリアクション
「で、質問なんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←ロクな質問じゃねえだろと思ってる







「 ○ ○ っ て 今 何 歳 ? 」
(世界でたった1人しかいない己の孫の歳が判らないお爺さん参上)







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







そのまま夏目父と話していると生きる気力すら失いかねない。
だからあたしは夏目父の質問に答えず、まだ飲みきっていないビールを持って部屋に戻った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
いや、待てよ。
いくら夏目父がオカシイっつっても、まさか自分の孫の歳がわかんないなんてことあるのか?
だって夏目父は、自分のもあたしのも、お母さんのもお姉ちゃんのも義兄の歳も、自堕落番長の歳だって知ってるぞ?
あと、自分の孫が小学5年生になったってことも知ってるぞ?
小学5年生が何歳なのかなんて、普通の大人だったら判るだろー。
・・・・とすれば、さっきのあの質問は冗談だったのかな。
それともあたしの聞き間違いかな。
聞き間違いだよな、多分。

そんなことを考えながら、ラックの解体作業を再開すべく、にっちもさっちもいかなくなった縦長の箱に手をかけた。
・・・・と、その時。
夏目父が、ノックもせずにあたしの部屋のドアを開けた。


「ねえ・・・・ってあれ?そのラック捨てちゃうの?」
「うん」
「何かに使えそうな気、しないでもないけどね」
「うん。でも、何に使えるのか、さっぱりわかんないから」
「そっか。じゃあ、いい使い道が思いつくまで、俺の部屋に置いておいてもいいよ」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





何を企んでやがるんだ?オッサン。
(親に優しくされて戸惑う娘)



「い・・・・い・・・・いいの?」
「うん」
「でもあたし、そのまま何ヶ月も放置するかもよ?」
「いいよ。そん時は俺がこっちの部屋に持ってくるから」
「ほう」
「ああ、そんなことより」
「ん」



「 ○ ○ っ て 今 何 歳 ? 」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





マジでわかんねーのかよっ!





(イラっ!)





(バキっ!)






(イラ立ちが功を奏したミラクルなパターン)



あたしが姪の歳を答えずに怪力っぷりを見せつけたせいか夏目父は、全開にしたあたしの部屋のドアを閉めもせず、無言で立ち去った。

さて。
3つになったラックはどうしようか。
デカい2つはちょっとの間、夏目父の部屋に置かせて貰うとして、一番小さいのはすぐにでも何かに使えそうな気がしないでもない。
あ!
文庫本入れはどうだろう?








縦の長さが半端だー。
じゃあ、単行本は?








縦はイイカンジだけど、奥行きが足りね。






棚の位置を変えて文庫本入れにするのがいいのかなあ。




(この棚板だけはネジ留めされていた)




(ネジを外せば棚板が外れると思い込んでいます)




(悲劇が始まります)



あれ?
ネジは全部外したのに、棚板が外れない。
なんだ?もっとネジあんのか?
・・・・と思い背面を見てみると、










遅ればせながら、背面のベニヤ板とタッカーでも留められていたことに気付いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



力まかせに引っ張れば外れそうだよ・・・・な。



で、もしベニヤがバキっといっちゃったら、どっかでベニヤ買ってきて、切って張り直せばいいじゃん。



タッカーを丁寧に外す手間を省きたいがゆえに、自分が絶対やらないようなことを妥協点とするあたりが実にアホっぽいが、でもその時は、ベニヤなんて結構どうでも良かった。
だから。
棚板を力任せに引っ張ってみた。
すると。
驚くほど小さい力で棚板は抜けた。
でも、引っ張る力を込め過ぎていたせいで、抜けた棚板が手からすっぽ抜けた。





カ ー ン !





ガ シ ャ ー ン !





な、な、な、なっ、何かが壊れたことは間違いないだろう。
恐る恐る音のしたほうを振り返ってみる。
と。




(あたしの部屋のドアを開けるとそこは玄関です)






(3年くらい前、自分で電気工事して自分で取り付けたセンサーライトです)



すっぽ抜けた棚板は、全開になっているあたしの部屋のドアを越え、内玄関にある照明のシェードを直撃していた。




(親子共々、「おっぱいライト」というエゲツナイ呼び方をしていた罰でしょーか)



あああああ・・・・やってもうたー。
つうか何でドアが開いてんだよう・・・・。



ただならぬ物音を聞いた夏目父と自堕落番長がリビングから飛び出してきた。
が、玄関にある棚板と割れたシェードと、部屋の入り口に転がっている棚板が外れたラックを見て、事態を把握したようだった。
やがて夏目父は、静まるその場に似つかわしくない声で言った。





「 ナ ー イ ス ピ ッ チ ー ン グ ! 」





「うるせーよ」
「ナーイスコントロール!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「先発ローテ入り確実だね!」 ←野球の話です。
「うるせぇって」
「あ、あのさ」
「はい」



「 ○ ○ っ て 何 歳 ? 」
(世界一シツコイ)





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





空 気 を 読 め 、 オ ッ サ ン 。