BOOK INFOMATION
過去ログを見ると、4畳半でそれを見つけたのは1年以上前らしい。
ゴミ屋敷みたいな部屋で10年以上暮らしていても平気だったんだから、不要品の1つや2つ・・・・や6つや108つ(多いぞー)を1年放置しといたところで全然平気なのだが、でも、それを見るたびに心の中で、「カセックって何さ?」とか、

「ブタンって、静電気の火花で燃えんのか?」とかは思っていた。

っていうか、これ。

どうやって捨てるんだろ。
とも。
使い切ったものならそのまま捨てればいいんだろうし、ちょびっと中身が残ってるのなら出し切って捨てればいいんだろう。
でも、中身がフルに詰まってるものを全部シューっと出すなんて、なんかアブナイ。
一番いいのは、カセットコンロに装着して正常に使い切ってしまうことだけど、コンロ本体は捨ててしまって家にはないし、誰かに本体を借りるにしたって、

これほど錆びついている缶はもはや、使い方が正常でも安全は保証されない気がする。
ちなみに。
あたしの住む街で発行しているゴミの出し方マニュアルで、カセットボンベの項目を調べると、
使い切って、屋外の火気のない風通しのよい所で穴をあける。
中身が入っているものはメーカーに相談。
とあった。
ところが、缶のどこを見ても、メーカーの連絡先は書いていない。
書いてあるのは発売元の会社名と、

ガスを充填した会社の名前だけ。

しかも、いずれの会社名もネットの検索ではヒットしない。
ネットに無いだけなのか、社名変更なのか、合併なのか、潰れたのかすら判らない。
さーて、困った。
調べれば調べるほど、1年も眠っていた「捨てたい欲」が目覚めてしまい、ボンベが気になって仕方ない。
なのでいよいよ、ゴミの出し方マニュアルに載っていたお問い合わせ窓口に電話をかけてみることにした。
市環境局配下の、区ごとに分かれた事業所に。
初めて電話をしたのは、約2ヶ月前の4月7日だった。
電話に出たのは、声と喋りのカンジではかなり年配と思しき男性で、名前は布施さん(仮名)。
あたしがモタモタしながら話しているのを、「なるほどなるほどー」と相槌を打ちながら、イラつく様子も無く聞いてくれる、とても感じのいいオジサンだった。
「で、どうやって捨てればいいのか判らないので捨て方を教えて頂きたいんです」
「なるほどなるほどぉー。ご用件はよぉーく判りました」
「はあ」
「ただ、今手元に、カセットボンベに関する資料が無いので、調べて折り返しご連絡してもよろしいでしょうか?」
「ああ、はい」
「それではお名前と電話番号、教えてください」
連絡先を伝え電話を切ったが、20分も経たないうちに電話がきた。
「カセットボンベの夏目さんのケータイでしょうか?」
「あ、そうです」 ←そうか?
「大変お待たせ致しました。処分の仕方なんですが、社団法人○○○協会というところで教えてくれるそうなので、そちらに電話してみてもらえますか?」
「はい」
「電話番号は・・・・XXX....... 」
「はい、わかりました」
「二度手間になりますけど、私に話して下さったように説明して頂ければ、教えてくれるハズです」
「わかりました!電話してみます。ありがとうございましたー!」
「いえいえ、こちらこそー。こうやってご連絡頂けるのは、私どもにとってとても有り難いことなんですよう」
「はあ」
「問い合わせて下さればこうやってご案内できるのに、夏目さんのように問い合わせて下さる方は稀でして」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
もしかして。
あたしが馬鹿正直なだけか?
もしかして。
あたしが馬鹿正直なだけか?
・・・・なんつうことを思わないでもなかったが、世の中でどれだけの人が間違ったゴミの出し方をしていようが、あたしには関係ない。
他のものはいざ知らず(こら)、これはちゃんと捨てたいのだ。
誰に強いられたわけでもなく、安全で安心できる捨て方をしたいと思っているのは、あたし自身なのだから。
お礼を言って電話を切ったあたしは、布施さんが教えてくれた電話番号をプッシュした。
長い長いコールの後、物凄い早口で出たのは、声の感じでは50代かと思しき女性。
あたしは、環境局から教えて貰って電話をしている旨を伝え、環境局に電話した時と同じように話をしようとした。
が。
先方は、明らかにメンドくさそうな相槌を打ち、やがて、あたしの話を遮って言った。
「それね」
「あ、はい」
「うちじゃないよ」
「はい?」
「うちじゃな・い・よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
タ メ 口 っ て こ と は 、 キ ミ は あ た し の 友 達 か ぃ ?
社会人になって1年目に会社で受けた新人研修で、「間違い電話をかけてきた人が、それから先、お客様にならないとは限りません。だから間違い電話であろうと、丁寧な受け答えを心がけましょう」って教わったぞ。
つうか、勝手に間違ってんじゃねえんだけどな。
市の環境局に案内されたから電話してんだけどな。
・・・・と、タメ口をきかれたくらいでキレてちゃいかんいかん。
ここはひとつ冷静に。
「じゃあ、カセットコンロのカセットボンベは・・・・」
「だからね、うちじゃなーいの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
や っ ぱ 、 キ ミ は あ た し の 友 達 な の か ぃ ?
ナントカ協会の人の言葉遣いにイラっとはしたけど、話を聞いて貰えないんじゃとりつくシマもないし、かといって、聞く耳を持つよう促せるほどあたしは人間が出来ちゃいない。
「お手数おかけして申し訳ございませんでした」
「カセットボンベはうちじゃないのよ。うちがやってるのはプロパンガスのボンベだけ。カセットボンベのことはうちに訊かれても困るの」
「そうだったんですか。大変失礼いたしました」
「全く、環境局さんにも困ったモンだわ。天下りかなんかだと思うけど、ちゃーんと人の話を聞きなさいっての」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
お 前 も な 。
・・・・って、ダメだダメだ。
こういう人と喋ったら、ストレスの捌け口にされちまうだけだ。
もう一回、布施さんに電話しよう。
もう一回、あの優しい布施さんに調べて貰おう。
・・・・と思い、ナントカ協会の電話を切ったのだが、時既に遅し。
だって。
なんだかすっかり不愉快になっちまったんだもん、俺。
(早いよ)
(早いよ)
捨てたい気持ちはあるし、布施さんとならいくらでも話せるけれど、また別のところに電話をかけて、横柄な口をきかれるのはなんかイヤ。
そして。
こんな些細なことで心がザワついてる小せぇ自分もかなりイヤ。
結局あたしが再び布施さんに電話できたのは、それから2週間後、4月21日のことだった。
「はい。○○環境事業所です」
電話に出たのは、またもや布施さんだった。
「あの。先日、カセットコンロのボンベの件でお電話した・・・・」
「ああ!カセットボンベの夏目さん!」
「そうですそうですー」 ←そうか?
布施さんに、ナントカ協会に言われたことをかいつまんで話した。
「なるほどなるほどぉー。お話はよぉーく判りました」
「はあ」
「ご迷惑おかけして申し訳ありません。再度お調べいたしますが少々お時間を頂きたいので、後日ご連絡させて頂いてよろしいでしょうか?」
「あの・・・・」
「はい」
「全然急いでないんです。9月いっぱいくらいまでに判ればいいです」
「く、くがつ?」
「ええ。まあ、10月でもいいんですけど」 ←待つのは平気
「じゅ、じゅうがつ?」
「あ、いや、年内に判れば・・・・」 ←来年でも全然平気
「あははは。そこまでにはなりませんから。明日にはご連絡できると思います」
「そうですか」
布施さんから電話がきたのは翌日だった。
結局、最初に教えて貰ったナントカ協会で間違いなく、あたしにタメ口で話した女性がたまたま、そのことを知らなかっただけとのこと。
「直接その方ともお話ししました。夏目さんから問い合わせがあったことも覚えていらっしゃいまして」
「はあ」
「まあ、お詫び方々その方が、夏目さんのお宅に処分の仕方を書いた書類を持って伺いたいということなんですよ」
「え゛!郵便でいいですよ!」
「そうですか?判りました。ではそのように伝えますね。つきましては、○○○○協会さんに、夏目さんの住所と電話番号とお名前を教えることになりますが、ご了解頂けますか」
「はい」
布施さんはそれから、時間がかかったことを詫び、ナントカ協会の不手際も詫び、自分がナントカ協会に連絡してしっかり確認をしてからあたしに電話させるべきだったと、また詫びた。
これが4月22日の昼のことだった。
さて。
後はナントカ協会からの書類を待つのみ!
きっと、危なくないガスの抜き方が書いてあるんだろうけど、いいでしょ、いいでしょ。
その通りにやってやろうじゃないの。

ナントカ協会から書類が届いた。
待ちに待っていた書類が。
首をながーくして待っていた書類が届いた。
あれから1ヶ月半も経った今日、届いた。
ううーん。
間違って振り上げてしまったコブシを下ろすのは早いに越したことないのになあ。
でもまあ、自分の不手際を詫びる気のない人がする仕事は、往々にしてこんなもんだ。
期待もしてないから落胆もしない。
あたしはそんな仕事はしない、と強く心に誓うだけのことだ。

(誤字も許すぞ)
よぉーぅし。
明日の朝は、散歩を兼ねて公園に行くぞー。
カセットボンベ2本持ってスキップしてね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ど、ど、どうか通報されませんよーに。
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