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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



有給休暇も夏季休暇もあるんだから平日に休みを取るのは簡単だけど、旅をする時以外はよほどのことが無い限り仕事を休まない。ことにしている。
「平日に会社を休んで家でぼーっとしてたいなあ」とはしょっちゅう、具体的には1日に1回・・・・から46回くらい思うけど(幅ありすぎだ)、自分が何時間でも何日でも何年でもぼーっとしていられるヤツだということを痛いほど知っているから、危険過ぎて休めない。
そんなあたしが、お盆に1日休むことになった。



夏休み前夜。
「(雀荘に行かないとすれば)墓参り以外は家で北京五輪を見て過ごす、つうのが一番あたしがやりそうなことだなー」と、早くも諦めモードでTVを見ていると、そういえば銀行の窓口に行く用事があることに気がついた。
ああ、郵便局にも行かないと。
それから、車にガス入れないと。
ああ、あと、帰省してる義兄に、「ベランダの鉢に水遣りよろしく」って言われてたんだった。
「郵便受けがいっぱいになっちゃうから新聞とっておいてね」ってのも。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「えっと、えーっと、それから、他にはー」と考えたところで急に睡魔襲ってきて夢の中へ。



そうして。
たくさんある用事をどういう順番でこなすか?を脳内シミュレーションできないまま迎えた夏休み当日。
朝、何から手をつけていいのか判らず、新聞を広げてぼーっとし、ワイドショーを見てまたぼーっとしていたら、夏目父が部屋にやってきて、「ちょっと会社まで送ってってよ」と言う。

「仕事だったんだ」
「そう。午前中で終わるから、12時くらいに迎えに来て」
「了解」

つうわけで、朝7時から荒々しく入浴。
風呂場の天井に泡を飛ばす勢いで洗髪。
で、タオルを肩の上からパンパンして背中の水滴を取りながら、まっぱで部屋に戻り、通報されない最低限のものを身につけてリビングへ。

「さあ行くよ!」
「・・・・・・・・・・いつも思うんだけど」
「おう、何だ」
「よくもまあ、風呂からあがって5分も経たないうちに出かけようとするね」
「あ。え?準備まだだった?」
「まだだよ」
「あとどんくらい?」
「9時に会社に着けばいいから」
「そうなんだ」
「そうです」



家を出るまでにあと1時間もある。
何か今のうちに出来ることはないかと考えてみたが、動きの荒々しさに頭がついてこない。
なので小一時間、



日々草についた雨粒を眺めてやり過ごす。








ようやく我に返り、夏目父を会社に送り届けるついでに全ての用を足してしまおうと思い立ち、払い込み用紙やらなにやら、思いつく全ての物をバッグに入れた。

が、夏目父を会社まで送り届けた後、ガススタで給油して貰っていたら徐々に頭の中がクリアになってきて、すると、銀行や郵便局じゃなくて、どうしても平日の昼間じゃなくちゃいけない用事を思い出した。






20代前半に持つはめになったこの数珠を洗濯機で洗ってしまったのは、3年か4年か5年前のこと。(曖昧)
小さい頃、お母さんは、「ズボンのポケットの中をカラにしてから洗濯カゴに入れなさい」と言っていた。
「ティッシュペーパーが一番大変なんだからね」とも。
でも。
ティッシュペーパーよりも数珠のほうが大変だったよ、お母さん!



フサの紫が色落ちしちゃって、一緒に洗っちまったTシャツは全部ダメになるし、フサはほどけてぐちゃぐちゃになるし。






こんなになってすぐの頃だったと思う。
フサの部分だけ交換できないものかと、これを買った仏具屋に持っていってみたのだが、「修理はやってないのよ」と言われてしまった。
更には、「安くてカワイイ数珠もいっぱいあるんだから、新しいのを買ったほうがお得よ」とも言う。
「そうですかー。じゃあ買う方向で検討してみます」と言って店を出てはみたものの、実は全然納得していなかった。
安いとか高いとかの問題じゃないんだけどなー、ということばかりが腹の奥のほうで渦巻いていた。
ところが。
いざ数珠を直してくれるところを探してみると、なるほど、仏具屋さんが言ったのは本当で、「以前はやってたんですけど今はやめたんですよ」という返事が多かった。
が、つい最近。
お寺の住職さんと話をする機会があり、タイミングよく数珠のことを思い出したので訊いてみた。



「あのさ、お前が使ってる数珠ってさ」



・・・・って書き忘れたが、このお寺の住職は、学生時代のクラスメイトだ。

「切れちゃうこともあるでしょ?」
「あるよ」
「切れたら直すの?」
「物によっては直すこともあるよ」
「おお!」
「な、何だよ?」
「数珠直してくれる人、紹介してくれ」
「は?紹介?お前に?」
「そう」
「いやだよ」
「なんで」



「だってその人、結婚してるもの」








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。








そ っ ち の 「 紹 介 」 じ ゃ ね え ん だ よ っ 、 ク ソ 坊 主 っ !
(と、ホントに言った罰当たりな女)



クソ坊主の紹介ではあったが、長年続いているお寺に代々伝わる数珠の直しをしてくれるくらいだから腕は確かなのだろう。
問題は、その仏具屋さんが、平日の16時までしか営業していないことだった。

だから、平日の午前中に思い出したのはラッキーだった。
急いで家に帰り、数珠を持って、仏具屋の場所をネットで確かめてから家を出た。
「○○寺の住職さんの紹介で」と言うと、仏具屋のご主人は「伺ってました」と言ってにっこり笑い、「フサだけでなく、全体的にリメイクすることもできますよ」と言ってくれた。
更に、「仕上がったものを取りにいらっしゃるのは大変でしょうから、○○寺さんにお届けしておきましょうか?」とも言ってくれた。
ちなみに、リメイク料は5,250円。
5,250円払って新しい数珠を買うよりもずっとずっとずーっと気持ちが落ち着いた。



仏具屋からの帰り道、銀行で用を済ませ、義兄宅へ行き溜まった新聞を取ってベランダの鉢に水を遣り、郵便局での用も済ませた。
いい時間になったので夏目父を迎えに行き、一緒に墓参りへ。




(我が家の供花はいつでもトルコ桔梗入り)



夜は夏目父とふたり、野球場で花火を見て、1日だけの夏休みが終わった。






銀行や郵便局の窓口でしか足せない用を済ませたことも去ることながら、数珠が直る目途がついたことが何よりも嬉しかった。



「物は大事にしましょう」とかいう話では無い。
ただ。
心の片隅に少しでも「これで終わりにしたくない」という気持ちがあったなら、素直にそれに従いたい。
たとえ誰に何を言われても、世の主流がどうであれ、自分の気持ちだけを優先したいことだってあるのだ。



「そこまでに何年かかってもいいじゃないか」という話でも無い。
フットワークが軽いに越したことはないし、実際あたしはこの数珠を洗濯してしまってからずっと、仏事のたびに要らないタメイキまでついていた。
これを手に掛けて手を合わせるたび、フサのことばかりが気になっていた。
ただ。
だからと言って焦って買い替えなくて良かった。
買い替えていたならきっと、別のタメイキが出ていただろうから。


そしてもちろん。
「一仕事したんだから、ココの片付けはしなくていいでしょ」という話でも無い。













・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







なんかもうメンドク・・・・いえ、なんでもありません。





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