BOOK INFOMATION
同僚の柳沢がうるさい。
席替えをして背中合わせになってからというもの、ことあるごとにあたしに話し掛けてくる。
「ねえねえ、夏目さん夏目さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←早くも不機嫌MAX
「22日って休む?」
「なんでタメ口」
「あ、すいません。22日休む予定ですか?」
「うん」
「4連休、どこかに行くんですか?」
「お前に何の関係がある」
「無いっちゃ無いですけど。つうか、なんでそんなに冷たいんスか」
「あのね、今あたし、すげー機嫌が悪いの」
「え。なんかあったんスか?」
「お前が話し掛けてっからだよ」
「そんなあ・・・・」
「仕事しろよ」
「あ、ちょっと待って。あの、22日の夜・・・・」
「行かね」
「・・・・まだ何にも言ってないし。じゃあ19・・・・」
「行かね」
「・・・・いつならいいんスか」
「お前とは行かね」
「どうしてー」
「あ゛?どうして?だと?」
「・・・・あっ!いいです、いいですっ!答えなくていいですっ!」(必死)
~ 1分後 ~
「ねえねえ、夏目さん夏目さ・・・・」
「 向 こ う 3 年 話 し 掛 け ん な 」
(地獄の底より低い声で)
(地獄の底より低い声で)
同じ部署で背中合わせの席とはいえ、あたしと柳沢は仕事でさほど接点はなく、もしあたしが柳沢に用があるとすれば180センチ超の身長を生かして高いところにある物を取って貰うことくらいだが、でもそんな時あたしは迷わず上司に頼むから(オカシイ)、つまるところ柳沢とは、ほとんど会話せずに済むハズなのだ。
しかもあたしは誰から見ても「話し掛けやすいタイプ」には程遠く、特にデスクワーク中は「喋んのメンドクセオーラ」をMAXにしているようで、だから、そのオーラをいとも簡単にブチ破る柳沢は同僚達に、「地雷王子」とか「ドM王子」とか呼ばれている。
で、昨日の昼休みのこと。
食事から戻り席で床材のカタログを眺めていると、あたしより少し遅れて戻ってきたドM王子が、それはもう高いテンションで話し掛けてきた。
「夏目さん、家建てんの!?」
「だから何でタメ口」
「あ、すみません。夏目さん、家建てるんですか?」
「違う」
「リフォーム?」
「うん」
「ねえねえ、夏目さん夏目さん。俺に発注してよ」
「柳沢。今度タメ口きいたらエルボーな」
「・・・・俺に発注しませんか?」
「しません。つうか何でお前に」
と、その時。
あたし達の会話を聞いていた上司が、驚くことを口にした。
「 柳 沢 、 元 内 装 屋 だ も ん な 」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
な ん で す と ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
な ん で す と ?
寝癖のようなクシュクシュ頭で無精ヒゲで、ヤル気があるんだか無いんだか、多分無いんだろうなと思える風貌の柳沢が、あたしの中で初めて、僅かに光った。
「内装やってたの?」
「あれ?夏目さんに話したことなかったでしたっけ?」
「話されたのかもしれないけど、お前の話はいつも聞いてなかったからわかんない」
「ひでー」
「柳沢、壁紙貼れんの?」
「できるよ」
「マンションのカーペット、フローリングに張り替えられる?」
「できるできる。だって俺、リフォームもやってたもん」
「そうなんだ!」
「夏目さん、壁紙と床を張り替えたいの?」
「そう。壁紙は決めたんだけど、床材はまだちょっと迷ってて」
「そっかー」
「でも、壁より先に床をやってしまいたくて、だから壁紙の納品は先にして貰ってるの」
「壁と床、違う業者にやってもらうってこと?」
「ううん。どっちも自分でやる」
「え?」
「ん?」
「夏目さん、できるの!?」
「やったことないもん、わかんないよ」
「手伝うよ。つうか俺がやったげる」
「いや、いい」
「なんでー」
「やってくれなくていいけど、判んないことあったら教えて」
「いいよ。っていうか全部やってあげるのにー」
「それはいいの」
「なんでー。工賃取らないよ?」
「そういう問題じゃねえから」
「22日か19日、一緒に麻雀してくれるだけでいいから」
だからあたしは柳沢が嫌いだ。
ほんの数時間であたしから工賃並みの金を巻き上げるから大嫌い。
(大人げない大人)
(大人げない大人)
「夏目さーん、麻雀やろうよー」
「お前とは絶対やんない」
「このあいだみたいに夏目さんから、ダイスーシー・リーチ・一発・ドラ4であがったりしないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←麻雀人生で最悪の瞬間を思い出している
「やろうよー」
「いやだ」
「ちょーっとは手加減するからさー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あ 、 柳 沢 。 エ ル ボ ー 1 7 回 な 。
(数えてた)
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