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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



実は、という書き出しにするほど意外性のある話では全然ないが、あたしの車は相当汚い。
確か真っ黒い車を買ったハズなのだが、家族や友人や同僚によると、あたしの車は年がら年中「ねずみ色」だそうで、そういえば、ガラスというガラスは常に雲ってるし、車体も、人気の無い空き地に不法投棄された廃車のように、砂埃と土埃で厚めのコーティングがされている。
車内も惨憺たる有様で、虫は湧いてはいないと思うけど、埃だの髪の毛だのタバコの灰だの葉だの、レシートだの枯れ葉だのが各座席の足元に落ちているのは何年も前から見てはいる。
ただ、それを取り除いたところで綺麗な車には程遠いわけで。
車を運転するのは好きだし週に5日は乗っているというのに、車内の掃除をしたり洗車したりする習慣がない。
「買ったばかりの頃は洗ったけど」というのではなく、自分の車を持ってすぐからこんななので、歴代の車はみんな、買った2ヶ月後には汚車になっている。

そんな風に乗っているから、狭い駐車場で隣の車にコンっとやられようが、ガリっとやられようが、大して気にしない。
運転に支障が無い程度なら、「いいですいいです。気にならないので気にしないで下さい。修理代?直しませんから結構です」と言っている。
で、ホントに直さないし、ホントに気にならない。
たとえば数年前の大雨の夜。
買い物をして、時間貸し駐車場に停めた車まで戻ってくると、クリアファイルに入ったメモがワイパーに挟まっていたことがあった。
見ると、駐車場内であたしの車にぶつけたらしく、戻り次第ケータイに連絡を下さいというようなことが書かれている。
暗闇の中で自分の車をざっと見てみたが派手に壊れているところはなさそうだし、どしゃ降りだし、腹は減ったしで、とりあえず家に帰ることにした。
マンションの駐車場に車を停め、家の玄関を開けた。
するとそこには、仁王立ちの夏目父。
あたしが「ただいま」というより先に夏目父が口を開いた。



「お前、何しでかした?」



「あ゛?」
「何をしでかした?」
「なんの話よ」
「ケーサツから2回も電話きたよ」
「へ?」
「車」
「ああ」
「お、お前・・・・」
「なに」





「 轢 き 逃 げ し た ん だ な ? 」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





警 察 2 4 時 の 見 過 ぎ だ 、 オ ッ サ ン。



渋々サツ ケーサツに電話をかけると、検証するからすぐ現場に来いという。
「用があるんならお前が来いや」という言葉をぐっと呑み込み、なんでだかテンションが上がっている夏目父を乗せ駐車場へ行くと、そこには恐縮する男性とポリ公 お巡りさんが待っていた。
「申し訳ありませんでしたっ!」と頭を下げる男性に、「気にしなくて良かったのに」と言うと、男性はガバっと頭を上げ、驚いた表情であたしを見つめた。

「少々のキズや凹みじゃ直しませんから」
「はあ、でも・・・・」
「いいんです。どうぞお気になさらずに」
「いや、でも・・・・」

夏目父が付け加える。

「どうせ汚い車ですし。キズがつこうがつくまいが、目立ちませんから」
「そうなんです。だからどうぞお気になさらずに」

・・・・と、暗に当て逃げを勧めてんのか!な親子の前でキョトンとしている男性を見るに見かねたのか、いよいよお巡りさんが口を挟んだ。

「あのねえ」
「はい」
「キズとか凹みとかいうレベルじゃないでしょう、これ」
「はい?」
「だってねえ」
「はい」
「ここにあるのは、あなたの車のバンパーでしょ?」

そう言いながらお巡りさんが懐中電灯で照らしたのは、恐縮している男性の車の脇、地面に直置きされている、黒い物体だった。
そして次に照らされた、あたしの車の前面を見て、ようやく気がついた。



「俺の車のバンパーがねえ」ということに。
(遅い)




「もしかして、バンパーが無いことに気付かないで家に帰ったの?」
「・・・・はい」
「で、家からココに来る間も気付かなかった、と」
「・・・・はい」
「気付くでしょう、普通」
「そうなんでしょうか」
「気付きますよ。ライトも片方粉々だし。いくら何でも気付くでしょう」
「それが全く・・・・」
「ちなみにね」
「はい」
「普通はこの状態で公道走ったら、道交法違反ね」
「へっ?」
「整備不良車両の運転の禁止。懲役か罰金」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



その夜はお巡りさんにたっぷり絞られた。
後日、壊れた箇所は全てぶつけた男性持ちで直して貰ったのだが、でも、そんなことがあった後でも、車の外観に無頓着なのは変わらなかった。
修理してくれたディーラーの人が、「光らない黒い車は、夜になると見え難いんですよ」と教えてくれたにも関わらず。



さて。
そんな汚車の車検が間近に迫っていた。
電話やDMで再三再四、「車検の予約は早くしたほうがオトクですよー」と教えて貰っているにも関わらず、毎回、満了日の1週間前にならないと連絡しないあたしはだいぶ迷惑な客だろうに、長らく世話になっているディーラーの担当者は、これまでにも増して親切にしてくれた。
ガススタなどで安価に車検が受けられるようになったからか、ディーラーもだいぶ頑張っているようで、「無料」とか「割引」のサービスが増えていた。
あまりに多すぎて、説明を聞くのに飽きてしまうくらい。
しかもディーラーの担当者は、「ご依頼頂けるって判ってましたから、早期割引料金でやりますね」と笑顔で言ってくれた。
更に、代車に早期予約特典グッズを積んでおきました、と言う。




(早期予約特典の一部)



「ティッシュをこんなに!?」
「はい、どうぞお使いください」
「暫くティッシュ買わなくていいなあ・・・・」
「女性の方には、ウチのノベルティグッズよりも実用性のある物のほうが喜ばれるんですよね」
「そうなんですかー」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とは言った。
でも。
あたしは紛れもなく女だけど、多分女だけど、ティッシュはイマイチ有り難くない。
だって。
2年近く前に発掘した大量のポケットティッシュが、何でだか、未だに使い切れないんだもの。




(残り約30個)



しかもこれとは別に、仕事関係で引き取らざるをえなくなったポケットティッシュを持ち帰るハメになったから、まだ暫くはポケットティッシュ生活が続くんだもの。




(約150個。萎える)



そのせいで、随分前から在庫してるBOXティッシュを使えないでいるくらいなんだもの。






なんてことを、親切な担当者に言えるハズもなく、複雑な思いを抱えながらもお礼を言い、代車に乗ってディーラーを後にした。

翌日夕方、車検があがったと連絡があった。
持ち込み&引き取り割引料金にして貰っていたというのに、家まで車を届けてくれると言う。
何から何まですみません。



車検を終えて帰ってきたあたしの車は、見慣れない姿をしていた。




(ボンネットに景色が映ったのは、前回の車検ぶり)



「なんでこんなピッカピカに・・・・!」
「いつもは洗車機にかけるだけなんですが、今回は全て手洗いして、水垢取りと油膜落としもして、更にはワックスを塗らせて頂きました!」
「お、おいくらですか?」
「通常6,000円くらいの洗車コースなんですが、昨日ご説明した通り、今回はサービスです」
「え゛」 ←ちゃんと聞いてろ
「無料ですよ」
「ありがとうございます!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と言ったのは本心だ。



代金の精算をし、代車の鍵を渡した。
するとディーラーの担当者は、やけに晴れやかな顔で話し始めた。

「以前、車をぶつけられた時に修理を担当したサイトウって覚えてますか?」
「ああ、はい」
「今回夏目さんの車のメンテナンスはあのサイトウが担当したんですが」
「ええ」
「あの時夏目さんに断られた車内清掃が思う存分出来た!って喜んでましたよ」
「へ?」
「昨日ご説明した通り、車内清掃もサービスです」
「え゛!?」 ←だから、ちゃんと聞いてろ

気の毒だ・・・・。
だってマジですげえ汚かったんだもん。
仕事とはいえ、大変だったろうなあ、サイトウさん。
ごめんよう、サイトウさん。

担当者は続ける。

「明らかにゴミと判る物は処分しましたが、レシートが複数ありまして、それは念のため、後部座席のゴミ箱に入れたままにしてあります」
「気ぃ遣わしてすみません」
「それと」
「はい」
「座席の下に落ちてた物は、助手席に置いておきました」
「あ、はい」




(前に乗ってた車で使っていたような気が・・・・。10年は前の物な気が・・・・)



「それから、最後に」
「はい」
「トランクに、車検のお礼の品を積んでおきましたので」
「え。まだ何か頂けるんですか」
「はい。どうぞお使いください」
「ありがとうございますー」 ←品が何かは判ってない













(多い)






(どこから見ても多い)





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





ヤ ギ じ ゃ ね え ん だ か ら 。





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