BOOK INFOMATION
世間にだいぶ遅れたものの、地球に優しくないあたしが真面目に分別し始めて1ヶ月ちょっと経った。
リサイクル出来ない有料ゴミが格段に減るのは予想していたが、本来、しっかり分別すればするほど増えるハズのプラゴミも格段に減った。

(我が街指定の一番小さいプラゴミ袋15Lをフルにするのに35日)
分別することによってプラゴミの絶対量は増えたのだが、分別を意識するようになったら、近所のスーパーマーケットの前にある発泡スチロールの食品トレイや卵のパックの無料回収BOXが俄然ステキに思えてきて、平日の朝、食品トレイをひとつ持って家を出て、通り道にある回収BOXにポロンとそれを入れた後は、たったそれだけのことに軽い充実感を覚えたりもしている。(オカシイ)
分別がメンドクサイことには変わりはないし、我が街のゴミ出しマニュアルによると発泡スチロールの食品トレイはプラゴミとして各戸で捨てていいのだし、そうしたところで生活を圧迫するほど高いゴミ袋でもない。
でも、朝にポロンとした日は、いつもより少し背筋が伸びて、ほんの少しだけ気合いが入る気がしている。
さて。
あたしが自己満足で自己陶酔しながらポロンとしている間も夏目父は、分別とかリサイクルとかエコとか節約とか倹約とか、ゲームを控えるとか自堕落番長の抜け毛掃除をするとかトイレットペーパーを使い切ったら補充するとかとは違う世界で生きていた。
あたしが、「哀川翔ンちは、「トイレットペーパーがなくなったのを見て見ぬふりをして出てきたら半殺し」だってよ」と言ったところで、「哀川翔ンちの子どもじゃなくてよかったー」と言う呑気っぷりで、娘が、
それを我が家の家訓にしようとしてるなんて、気付く気配がない。
(鬼娘)

(今のところは許す)
(鬼娘)

(今のところは許す)
ただ、「気付いた人がやればいんじゃね?どっちも気付かなかったらどっちもやらなくていんじゃね?」というのが暗黙のルールになっている我が家で、相手に家事を強いることは皆無なので、トイレットペーパーに特化してルールを設けたところで、大勢に影響が無い気もする。
第一夏目父は、トイレットペーパーのストックが無くなっても、徒歩3分のところにあるスーパーマーケットにそれを買いに行ったりしない人である。
気まぐれに、年に1回くらい、消耗品や食料品を買ってくることもあるが、「荷物が重くて肩が抜けそうだった」とか「レジ袋が食い込んで、腕が折れるかと思った」とかいう話を何回も何日もしやがる。
それを思えば、家事一切やらないでくれたほうがずっとずっとありがたい。
で、連休最終日のこと。
夏目父があたしの部屋にやってきて、「保冷バッグみたいなの無い?」と言う。
「保冷バッグ?」
「今日(親戚から)送られてきたぶどう、明日会社に持っていこうかと思って」
「ほう」
「どうせ食べないでしょ」
「うん」 ←果物全般、食うのがメンドウ
「俺も食わない」 ←同じく
「うん」
「なんかあの、銀色のピカピカした保冷バッグ、うちにない?」
知 ら ね 。
あたしの部屋にはないけれど、果たして家中どこを探してもないのかどうかは知らないし、家のどこかでいつか見かけた気もするけれど、それが今でもあるのかは知らない。
つーかそもそも。
買ってきた醤油をシンク下に入れようとして扉を開け、そこに、開封していない醤油があるのを見つけて膝がカクンとなっているような娘だよ。
自分が買ってきたものすら記憶に無いんだもの、買ったわけでもない保冷バッグがあるかどうか、判るわけがねえ。
・・・・と、逆切れしたところで、「ああそうですか」と引き下がる親でもない。
「あるのかないのか判んないけど、あるとすればシンクの下かなあ」
「シンクの下のどこ?」
「・・・・左のほう」 ←扉開けて隅から隅まで全部見ろや、と思いつつ
「左ね」
「紙袋が入ってるとこがあるから」
「へー」
「つっても、ここ何年かは開けてみてもいないけど」 ←本当
「あっ、思い出した!そういえば、袋置き場があったね!」
「・・・・いや、なんとなく突っ込んでたら溜まっただけです」
「そうなの?」
「ええ。雑な娘ですいません」
「いや、ずっと前にそこを開けてみたら紙袋が並んでたから」
「うん」
「袋はそこに入れるって決めてるんだと思って」
「ほう」
「部屋にあった紙袋とかレジ袋とかをせっせと入れてたんだよ、俺も」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
怖いですぅー怖いですぅー。
余計なことをしてる予感がビンビンして、
先を聞くのが怖いですー。
先を聞くのが怖いですー。
「えーっと、紙袋とレジ袋の他はどんな袋をお入れになりました?」
「んー、忘れた」
「そ、そうか」
「紙袋とレジ袋以外に袋っていったら」
「うん」
「手袋とかお袋とか堪忍袋とか?」
おうこら、ジジイ。つまんねえこと言ってねえで、ちゃんと考えろや。
(良い子のみんなは真似しちゃダメよ☆)
(良い子のみんなは真似しちゃダメよ☆)
が、ここで急に、数年前の我が家で、ある物が無くなる事件が頻発したことを思い出した。
土曜日に買ってきたハズなのに月曜の夜には無くなっている。
が、たとえば、醤油を買いに行ったハズなのに卵だけを買って帰ってくるなんてことはザラなので、「あれー?あたし買ってこなかったんだっけ?」と思いながらまた買いに行く。
で、数週間後、まだ随分残っているハズのソレが無くなっている。
そういうことが実に頻繁にあった。
ただ。
人生で最も精神的に落ちていた時期で、常に頭の中に靄がかかっていたから、あるはずのモノが無いというおかしな状況も、自分の精神状態がかなり切羽詰っていることの表れのような気がして、小さくタメイキをついては、「だいぶヤバイぞ、あたし」と思ってばかりいた。
でも、あれは無くなったんじゃない。
あたしが買ってきたそばから、夏目父が気まぐれにせっせと、仕舞っていただけなのだ。
そう確信したあたしは、夏目父を部屋に置いたまま台所へ行き、シンク下の扉を開けた。
で、見つけた。

(もう使えない旧タイプの指定ゴミ袋)
いろんなことを思いながらゆっくり数えてみたところ、オソロシイことに160枚もあった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
それにしても。
あたしが買ってきたゴミ袋をせっせとシンク下に仕舞っていた夏目父は、どうして「いっぱいあるのに」とか言わなかったんだろう。
つうか。
こんな大量に無くなってんのになんで買わなかったことにしてしまってたんだろう、あたしは。
ゴミ袋として使えなくなったこれらは、ただのデカいビニール袋でしか無い。
デカいビニール袋があって困ることは無いが、160枚は要らない。
かといって、これをプラゴミとして捨てるのは気がひける。
どうしたものかと思いながら、ゴミ捨てマニュアルを見てみた。
で。
あたしみたいな阿呆の救済措置が講じられていることを知った。
そうと知ったら善は急げだ。

160枚の旧ゴミ袋をバッグに詰めて市の環境局へ行き、新しいゴミ袋に交換してもらった。

(旧ゴミ袋10枚→新ゴミ袋1枚という、アホに有り難い救済措置)
ほんの2ヶ月前のあたしなら、交換してくれると知ったところで確実に、何の罪悪感も無く捨てていたのに、分別を意識し出した途端、有料ゴミが増えることのほうが煩わしくなったのは自分でも意外だった。
で、昨夜のこと。
リビングで、日本シリーズを見ながら親子で呑んだくれていると、思い出したように夏目父が口を開いた。
「そういえば、アレあった?」
「ん?」
「保冷バッグ。あった?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
知 ら ね 。
(ゴミ袋に気を取られて探し忘れた)
知 ら ね 。
(ゴミ袋に気を取られて探し忘れた)
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