BOOK INFOMATION
アラームなしで目が覚めた。
ぼーっとした頭でシャワーを浴び、いつものようにバスタオルで身体をパンパンしながら部屋に戻ると、化粧をして服を着た。
で、時計を見た。
朝6時半か。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
あ゛?
ろくじはんだとぉー?
ホームセンターの開店まで、まだ3時間半もあるじゃねえか。
(起きたらまず時計を見ろ)
(起きたらまず時計を見ろ)
家から5分10分のホームセンターに行くのに早起きする必要がないのは百も承知だが、出かける準備が出来てしまってから早起きしたことに気づいたわけで。
二度寝する気にもなれないので、前日書いた買い物メモを見直していると、ふと、壁にひっついた塊が取れそうな工具が家にあることを思い出した。
一昨年あたりだろうか。
同じビルに入っている企業が事務所を閉めることになり、オフィス用家具やら事務機器やら、処分にお金がかかる物を買い取って貰えないだろうかと、声をかけてきたことがあった。
で、目ぼしい物がないか見てくるよう上司に言われたあたしがその企業に行き、事務用消耗品を安価で譲り受ける話をまとめて帰ろうとした時、雑貨がドシャっと詰まったダンボール箱の中からこれが覗いてるのを見つけたのだった。
これを指さして「いくらですか?」と訊くと、その企業の社長さんは「そんなモンが欲しいの?」と言って大笑いし、「タダでいいよ」と言ってくれた。
あたしは大喜びしながら、雑貨に紛れてチョロっと出ていた平らな部分をつまんで引っ張った。
が。
それは想像していたのとは全く違う物で、あたしは危うく、「なーんだ」と言いそうになった。
平らなところだけ見て、
一旦喜んでしまった手前、「やっぱいいです」とは言えず、あたしはこのバールだけを手に持ち、会社に戻るハメになったのだった。
未使用品らしくピカピカだったから捨てる気にはなれず、かといって使うあてもなかった厄介モン(失礼だ)を、このタイミングで思い出せたのは奇跡に近い。(夏目基準)
非常識にならないくらいの時間まで待ち、午前9時半、4畳半の壁にある塊の根元にコテっぽい部分を当てて金槌で叩いてみた。
最初は全然要領が掴めなくて断熱材にグサグサ突き刺してばかりいたのだが、角度を変えてリトライすると、塊がゴロンと取れた。

(案外美しく取れたと思いきや)

(こっちはコテの痕だらけ)
2、3個やればもうちょっと要領よくできるでしょう。そうでしょう。
というわけで、買い物リストから「タガネみたいなの」が消えた頃、いよいよホームセンターに向けて出発した。
真っ先に手に取ったのはマスク。
ゴツい防毒マスクを見つけて大興奮し、危なく8,000円くらいのを買いそうになったのだが、


粉塵用だぞと自分に言い聞かせ、そこにあった中で一番安いのにする。
で。
80円のマスクに決めるのに2時間もかかったことに気づく。
(アホか)
(アホか)
こんなんじゃ全部買い終わるまでに何時間かかるんだよっ!と軽く焦ったので、気持ちを落ち着けるためひとまず、
ペットコーナーで小一時間、犬に遊んでもらう。
この時点で既に13時。
10時の開店と同時に店に入ったハズなのに13時。
閉店時間まで7時間しかないことにまた軽く焦り(オカシイ)、GLボンドコーナーへ向かうも、ふすま紙の張り替えの実演に見入ってしまい30分経過。
ホームセンターのおじさんの見事な手捌きに拍手してる場合じゃなかったよ。
一番危険な電動工具コーナーには立ち寄らず、なのに、ペンキコーナーに引っ掛かり、更に小一時間のロス。
念のため書いておくと。
買い物するたびこんなにモタモタしているわけでは決してなく、食料品や服やバッグや靴や化粧品を買うのは物凄く早い。
歴代の車を買う時だって現物を見て2分後には「コレください」だったし、対面販売で買う物は店員に「へ?」と驚かれるほどの早さで決める。
なのにこの日は、4時間半かかってもまだ80円のマスクしか決めていないのである。
どうした、俺!
このあたりで腹がぐーぐー鳴り始めたがぐっと我慢し、3度目の正直でGLボンドコーナーへ行く。
が、肝心のGLボンドは品切れらしく、在庫を確認して貰ったついでに店員に石膏ボードについて訊いてみるも、長期間立てかけておくとボードが反ってしまうから張れる段になってから買ったほうが良いと言われ、石膏ボードを買うのはアッサリ中止とした。
そうなると、残る買い物は腰袋ただひとつ。
だけど、ここから先が長かった。
ナイロンとかポリエステル製の腰袋が気に入らないのである。
合成繊維の腰袋はバラエティに富んでいて、オシャレなのもカワイイのもたくさんあったし、値段も比較的安い。
でも、あたしが欲しいのはオシャレなのでもカワイイのでもないようで、「素人が気まぐれに欲しくなってんだから安いのでいいじゃん」という思いと、「気に入ったのじゃないと使わない可能性大じゃね?」という思いが行ったり来たりして、ちっともさっぱり決められない。
そういえばあたしはもう何年も、自分が本当に欲しいものは何なのか?を突き詰めて考えてこなかった。
これが電化製品なら機能重視で選ぶこともできるのだが、デザイン重視となると、自分の好みがよく判らない。
が、ナイロン製とかポリエステル製のじゃないことだけは判っている。
結局、レジに向かったあたしが手にしていたのは、80円のマスクのみ。
レシートによると、あたしが80円を払ったのは18時27分だった。
8時間27分かけて80円の買い物しか出来ないってオカシくね?
(オカシイよ)
(オカシイよ)
さしたる充実感もない・・・・どころか空腹でヘロヘロになって店を出ると、移動販売のドーナツ屋さんからいい匂いがしてきた。
当然のごとくフラフラとドーナツ屋に向かう。
ちなみに。
全くもってどうでもいい話だが、甘いモン全般食わないので、あたしがドーナツを食べたいと思うことは滅多にない。
具体的には、
3年に1度、ドーナツをひとつ食べるか食べないか、くらい。
だから多分、精神か肉体か、もしくはその両方かが疲れていたのだと思う。
「1パックください・・・・」 ←雰囲気で
「はーい。1パックに6個入ってで500円でーす」
「6個なんて食べらんねえよ」と思いながらも言われるがままに500円を払い品物が入った袋を受け取ると、お店の人は、「もう店じまいの時間だからオマケ入れといたよ」と言った。
「6個でも多いんだよう」と思わないこともなかったが、食おうが食うまいが「オマケ」ってのはやっぱり嬉しい。
だから、最後の元気を振り絞って「ありがとうございます!」と言い、駐車場に停めた車に乗り込んだ。
すると、「オマケ」という言葉の効果か、少し元気が出てきたようで、腰袋を探しに他の店にも行ってみようという気になった。
真っ先に思い浮かんだのは、家から徒歩3分くらいのところにある、15年前から潰れそうだと睨んでるのに未だ潰れていない作業着屋さんである。
店に客が出入りしているところはただの一度も見たことがないが、それでも潰れないってことは別な方法で販売して利益を上げてるっていうことか。
少し躊躇しながら店に入ると、来客を知らせるピンポーンが鳴り、暫くすると奥から、細身で背の高いおじいさんがマスクをして出てきた。
マスクで顔は見えないが、優しく微笑んだ目元から察するに70代半ばくらいだろうか。
いつかどこかで見たことがあるような気がする目だったが、やんちゃなおじいさん(確定)は「いらっしゃい」と言ってあたしを見ても特に変わった様子はなく、でも、「何を探してるの?」と、まるで子供に訊くような優しい口調で言った。
「腰袋が欲しいんですけど」
「小さいのかぃ?中くらいのかぃ?大きいのかぃ?」
「ちゅ、ちゅうくらいの」
「若い子にはこういうのが売れてるよ」と言ってやんちゃなおじいさんが出してきたのは、ホームセンターで見たようなポリエステルキャンバス地のイマドキなものだった。
が。
あたしは若い子ではないのでそれには心ときめかないわけで。
「なんていうのか判んないんですけど、帆布みたいな素材のはありますか?」
「あれ?綿のほうがいいの?」
「はい」
「お仕事で使うのかな?お嬢さん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
最後になんと?
ちょ、ちょっとよく聞こえなかったんでもう1回言って貰えますか?
最後になんと?
ちょ、ちょっとよく聞こえなかったんでもう1回言って貰えますか?
・・・・とあたしが言うまでもなく、おじいさんはそれからずっとあたしを「お嬢さん」と呼び続けた。
が。
商品を出しながら説明をしているうちにおじいさんの声のトーンは軽くなり、あたしが2つに絞込みどっちにしようか迷っている頃には、「お嬢ちゃん」と呼んでいた。
そして代金を払う段になるとおじいさんは、ウィンクでもしそうな表情で、恐るべき言葉を口にした。
「 5 0 0 円 で い い よ 、 お チ ビ ち ゃ ん 」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
えーっと。
今、「何かの見間違いか!?」と思ったそこのあなた。
奇遇ですね。
あたしもね、聞き間違いだと思いましたよ。
過去に付き合ったどの男からも苗字を呼び捨てされていたこのあたしが(実話)初対面の男性から「おチビちゃん」と呼ばれてしまっては「焦るな」というほうが無理な話だが、選んだ腰袋にその6倍くらいの値札がついてるのを見つけて我に返った。
が。
おじいさんは500円と言ってきかない。
申し訳なく思いながらも500円を出すと、おじいさんは「はい確かに」と言ってそれをポケットに入れた。
が、その指にあるリングにあたしの目は釘付けになった。
この指輪、確かに見覚えがある!
あたしの視線に気づいたおじいさんはふふっと笑い、「気付いた?」と言うと、ゆっくりマスクを取った。
そこに現れたのは。
去年の夏、あたしから2日連続で役満をあがったクソジジイ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今 の 5 0 0 円 返 せ 。
(江戸の仇を長崎で討つ女。もちろん仇討ち失敗)

(ン万円で買った感覚)

(仇イチ押しの龍)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
今 の 5 0 0 円 返 せ 。
(江戸の仇を長崎で討つ女。もちろん仇討ち失敗)

(ン万円で買った感覚)

(仇イチ押しの龍)
結局、帰宅したのは19時半。
9時間半も近所をウロついて買ったのが、80円のマスクと(●万)500円の腰袋ってのもどうかと思うが、何しろこの日1日何も食べていないわけで。
ただ、ある程度の苛立ちは人を元気にもする。
だからしょーもない自己分析は後にしてまずはコーヒーをいれ、買ってきたドーナツを食べることにした。
6個も食べないけど。
が。
ドーナツが入っている袋を開けてみて、最後の元気も消えてなくなった。

(おからドーナツ。が、油で揚げたドーナツにローカロリーやヘルシーは求めね)

(パックの数が違うし、ドーナツは桁まで違う)
多 い 。
出先での仕事が何時に終わるか判らないという人を待って時間を潰していると、ぼんやり脚が疲れ始めた頃にケータイが鳴った。
「ごめん!すげー待たせた!」
「全然」
「仕事終わった。で、オマエ今どこ?」
訊かれたから答えた。
「 釣具屋 」
と。
ちなみに、この人と前回待ち合わせた時は「 ヨドバシ 」で、その時も散々言われたのだが、「釣具屋」は「ヨドバシ」よりもダメだったようで、「仕事帰りの女が、これから男と会うってのに釣具屋はねえだろ。鏡を見ながらソワソワしながら待ってるモンじゃねえの」と、呆れたように呟かれた。
・・・・あたしがどこで時間を潰そうがほっといて欲しい。
つうか、
お前と会うのになんであたしがソワソワしなきゃいけねえんだ。
・・・・と心の中で悪態をついてはみたものの、実際あたしは、待ってるのが上司でなくとも、長く時間を潰すためにフラっと入るのは釣具屋かヨドバシ(カメラ)なことが多い。
特に何か目当てがあって入るわけではないのだが、釣具屋でもヨドバシでも、興味のあるものも自分が絶対使わないようなものも、まんべんなく見て回り、「へー」とか「ほー」とか思うわりには、自分が使うものだけを買うに留まっている。
が。
そうはいかないのがホームセンターだ。
部屋を片付け始めてからは極力入らないようにしていて、自堕落番長のメシを買いに行った時でも、入り口からまっすぐペットコーナーに行き、

アビシニアンやアメショや柴や豆柴や黒柴や黒ポメとガラス越しに遊んだ後はまっすぐレジへ向かう。
よそ見なんかは絶対にしない。
万が一レジに大行列が出来ていて、その最後尾がドライバーや電動工具や鏝(コテ)や針金の売り場にかかっていようものなら、もう一度ペットコーナーに戻って、レジが空くまでまた柴や豆柴や黒柴や黒ポメと遊ぶ。
つまりあたしは、
柴犬や豆柴や黒柴や黒ポメが好きだ。大好きだ。
・・・・って、何の話だ。
(答:犬の話)
・・・・って、何の話だ。
(答:犬の話)
つまりあたしはホームセンターへ行くと、使いもしないような工具を買いたい衝動に駆られてしまうようで、大昔のことになるが、付き合っていた男の家に行く前になんでだかホームセンターに立ち寄り、釘だのノミだの網だのを買ってはそれを、男の家にある工具箱に詰めていたことまである。(実話)
別れる時、男が申し訳なさそうに、「ノミは貰っておくけど網は捨てるね・・・・」と言ったことは、かなりどうでもいいほうの余談だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
網なんか買ったからフラれたんだろうか・・・・。
(おーい、それだけじゃないぞー)
(おーい、それだけじゃないぞー)
そんな前科があるもんだから、片付け始めてからはなるべく近寄らないようにしていたのだが、ここに来ていよいよ、「ホームセンターに行かなくてはいけないらしい」、という結論に至った。

ふやけた石膏ボードをバリっとやったはいいが、その奥には何やら、コンクリートの出来損ないみたいな物体が張り付いていた。
ネットで検索してみると、どうやら我が家の4畳半のこの壁はGL工法なる方法で施工されているようで、この塊は専用の接着剤。というのが正解らしい。
斜めっている壁だけじゃなく、4畳半全体がそうなのかしら?
・・・・と思い、石膏ボードの隙間から内側を覗いてみるべく脚立に上った。
で。
最後の一段を登る時に何気なく石膏ボードに手をかけると、バキっという音とともにまたもや石膏ボードが割れてしまった。

(この面は確実にGL工法なわけですな)
今更だが。
あたしは4畳半の中で真っ先に壁を直すつもりは全くなかった。
剥がれた壁紙を摘んで引っ張って雨漏りの痕跡を見つけてしまったがためにここまで壁を破壊するはめになっただけなのだ。
というのも。
4畳半の絨毯は土埃の汚れが酷く、剥がす時にかなり部屋が汚れることが予想されるからで、土埃が舞った後の壁や天井を掃除することを考えれば、壁や天井はそのままに、まずは絨毯を剥がすべきだという気がしていたからだ。
が。
雨漏った箇所の石膏ボードを破壊して始めて知ったのだが、石膏ボードから出るゴミもかなり厄介。
何せこのあたしが、埃にもカビにも屈しないあたしが、石膏ボードから出る粉埃に思わず口を塞いでしまったのだから。
とはいえ、これだけゴミが出るものだと判ってしまったなら、破壊ついでに石膏ボードを張り替えたほうがいいんだろう。
ちなみにこのGL工法は隣家との遮音性に問題があるらしいのだが、この面は隣家に接していないので、木材で骨組みをしたりせず、壁にくっついている塊(GLボンドというらしい)を剥がした後は、同じ工法で石膏ボードをくっつけてみることにした。
それにはまず、ダメになった石膏ボードの範囲を特定しなければいけない。
そこで更に、脆くなった石膏ボードをバキバキ剥がしてみた。
が、すぐに、カーテンレールが邪魔になった。

4畳半も8畳も入居した時からブラインドなのだからとっくの昔に外してていいハズなのに、いずれの部屋にもカーテンレールが付きっぱなし。
特に4畳半のはヤニまみれなので、カーテンレールに這わせていた延長コードと共に捨てることにした。

(何のために這わせていたのか想像すらつかない)

(カーテンレール撤去後)
ネジを外す時に窓枠をバキっとやってしまったけれど、小さいことは気にしない。

(き、気にしない)
が、石膏ボードをここまで破壊してようやく、手持ちの工具では埒があかないことに気づいた。

石膏ボード自体は霧吹きでシューシューやれば幾分ラクに剥がせそうな気もするのだが、問題はやはり壁についている塊である。
当たり前っちゃあ当たり前だが、ドライバでガンガンやってもビクともしない。

(こんなゴミが部屋中にバラバラと)
なんかこう、タガネみたいなモンがないとポロっと取れてくれない気がする。

んー、あとは何が必要だろう。
ああ、石膏ボードとGLボンドか。
金槌でガンガンやるなら、軍手ぐらいはしたほうがいいよなあ。
マスクも必要だねえ。
あ、あとさ、アレが欲しいや。
となるとニッカソックスも寅壱の赤?
安全靴も買っちゃう?
ヘルメットはどうだ?
・・・・・・・・なんてことにならないよう、必要なものをメモした。
賢い!賢いぞ、あたし!(気のせいだぞ)
一通り、必要な物を書いた後、何か忘れてるものはないか?と、4畳半の壁をじーっと見た。
で、大きな忘れ物に気がついた。

パ イ プ ベ ッ ド の 枠 を 除 け ん の 忘 れ て っ か ら 。
(註:マジ忘れです)
4畳半の壁と床を自力でリフォームするにあたり、雨漏りよりもデカい問題があった。
よその集合住宅の事情は知らないが、うちのマンションでは、リフォームをするときは事前に管理組合にその旨を申し出る必要があり、加えて、元々絨毯だった部屋をフローリングに替える時には必要書類を提出しなければならない決まりになっているのだが、問題はその書類。
リフォームにかかる期間を記入する欄があるのだ。
「最長1年。あ、やっぱ1年半」とは書けないし、かといって、終了予定日を書いたところであたしは自分自身と交わした約束を破る常習犯なわけで。
予定日までに終わらないなんてことになったら、途端にやる気が萎えて頓挫するに決まってる。
自分の性格や生活リズムを優先して考える理想形は、片付け同様、期限を決めず自分の気が向いた時にちまちまとやることなのだが、集合住宅に住んでいるからにはそうそう我儘も言ってられない。
そこでひとまず、管理組合の理事長に相談してみることにした。
幸い、2008年の12月まで理事長だったのは、あたしがうちのマンションで唯一「なんとなくメンドクセ」と思っていた人だったが(こら)、今年1月からの理事長は、うちのマンションが誇るチーム・スーパー専業主婦のリーダーである。(正確にはその旦那様が理事長)
というわけで、1月のある週末、リーダーにお伺いをたててみた。
自力リフォームについては前例があったようで、リーダーがアッサリ、「階下の住人に、工期を決めない旨を話して了解が得られれば、問題ないでしょう」と言ってくれ解決したのだが、あたしが自力でリフォームすることを知ったリーダーが話してくれたことは、興味深かった。
リーダー宅は昨年プロに委託して大掛かりなリフォームをした。
メインは、システムキッチンとトイレを丸ごと取り替えることだったが、リフォーム業者と話しているうちにどんどん夢が膨らみ、思い浮かぶままにリフォーム箇所を追加していった結果、業者が出した見積り額は当然、予算を遥かに超えてしまった。
「でもね、それはいいのよ」
「あ、いいんですか」
「そう、いいの。旦那には、予算オーバーするかもしれないって言ってあったから」
「なるほど」
「問題はね、リフォームしたいと思う箇所が、私と旦那では違うってことだったの」
「ふむ」
「うちの旦那は、これまで息子が使ってた北側の4畳半を自分の部屋にしたくてね、でも壁紙は汚いし絨毯もヨレヨレだから、キッチンとトイレの次は4畳半をリフォームしたがってたのよ」
「そうなんですか」
「だから私ね」
「ええ」
「自分でやってみたら?って言ったの」
「おお!」
「そしたらうちの旦那、「自分でやってみてもいいの?いいの?」って喜んじゃって」
「旦那様、そういうことお好きなんですか?」
「ううん、全然。なのになんだかやる気になったみたい」
「ほ、ほう」 ←なんだかやる気になった女
「それで結局リフォーム箇所は、私の要望が通ることになったんだけど」
「ええ」
「問題は旦那の4畳半」
「へ?」
「脚立を倒して壁に穴開けちゃったの。そしたら急にやる気がなくなったみたいで、壁紙を一面剥がしたところで断念しちゃった」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
えーっと。
リーダーの旦那様が未来の俺に思えてきたんですが。
えーっと。
リーダーの旦那様が未来の俺に思えてきたんですが。
そんなわけでリーダー宅では結局、4畳半のリフォームをしないことに決めた。
壁紙を剥がし穴が開いてしまった一面だけは、旦那様が穴を補修した後で新たに白い壁紙を貼ったらしいが、それが却って他の箇所の古さが際立たせることになってしまい、旦那様はそれっきり、4畳半の部屋に足を踏み入れなくなった。
ところが、やる気と自信を失った旦那様を見るに見かねたリーダーが、数日かけて4畳半をとことん掃除し、壁の傷や壁紙が剥がれていた箇所を補修してあげると、旦那様は涙を流さんばかりに喜び、今では4畳半にたんまり自分の物を運び入れて、趣味の時間を満喫しているそう。
いい話だ。
いい話なんだが、そんな頓挫談を聞いてしまったら、なんだかあたしまで自信がなくなった。
しかしそこは、気遣いと行動力の人・スーパー専業主婦である。
「ちょっと待っててね」と言って旦那様の部屋に入ると、一冊の本を手にして玄関先に戻ってきた。
「これあげるから頑張ってね」
「え?」
「私が旦那のために買ったんだけど、うちではもう必要ないから」

(初めて手したDIY本)
リーダーの心遣いに泣きそうになりながら一旦家に戻り、その勢いですぐ、階下の住人にリフォーム期間について話に行った。
ちなみに階下の住人は、推定40代半ばのご夫婦と生後7ヶ月の赤ちゃんである。
元は、旦那様がご両親と一緒に住んでいたのだが、ご両親は実家に戻り、マンションは若夫婦の物になっているらしい。(リーダー情報)
赤ちゃんを抱っこして出てきた奥様にリフォームについて話をすると、最も音が響くであろう4畳半の部屋は物置きと化しているので問題はなく、寧ろ、赤ちゃんの鳴き声で迷惑をかけていないか心配していたと言う。
「全然聞こえませんよー」
「良かったぁー」
「あ、もしかしてうちの足音とか響きますか?」
「いえいえ、全く」
「もし気になることがあったらおっしゃってくださいね」
「いえ、主人とねいつも話してるんですよ。真上が静かなお宅で良かったねって」
「へ?」
「結婚したばかりの頃に住んでいたのが賃貸マンションだったんですけど、真上のお宅が派手な夫婦喧嘩をする方で大変な思いをしたものですから」
「そうなんですか」
「家族仲が良いお宅でよかったねーって、いつも話してるんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
2年に1回くらいはやりますからね?
(前回の大喧嘩が2年近く前。ってことはそろそろか?)
(前回の大喧嘩が2年近く前。ってことはそろそろか?)
奥様は、リフォームの件を旦那様にも話しておくと言ってくれ、その日の夜、旦那様も快諾してくれた旨をわざわざ言いに来てくれた。
で、翌日。
4階にある我が家の下にあるお宅3軒と隣家にちょっとした品を持って挨拶に伺い、どのお宅にも快く了解して貰えたことをリーダーに伝えた。
今のマンションに越してきた頃のあたしは、住人同士の付き合いや挨拶の大切さを知らなかったし、それどころか、「近所付き合いなんてメンドクセ」くらいのことを平気で思っていた。
そんなあたしが挨拶回りとは、歳はくってみるもんだ。
さて。
こうしてようやくリフォームに着手できることになったのだが、モノグサでダラダラでグズグズなあたしが大急ぎで挨拶回りまで済ませたのには理由があった。

それは、リーダー宅にお邪魔した前日の深夜。
過去に水分を吸って反り膨らんだこの石膏ボードの向こうがどうなっているのか確かめたくて、隙間を広げてみようと指をかけ、ボードを手前に引っ張ってみた。
すると。
脆くなっていた石膏ボードがポロっと欠けてしまった。

が、隙間はイマイチ広がらなかったので、欠けたところにまた指をひっかけて手前に引っ張ってみた。
すると。
バキッ!という音と共に石膏ボードが割れてしまった。

念のために書いておくと。
指1本で引っ張って割れたのは、過去に雨水を含んだ石膏ボードが脆くなっていたせいで、あたしが怪力だからではない。
あたしは、鼻をほじるくらいの力しか加えていない。(いらない一行)
さて。
斜めにくっついていたボードが割れ、ダラリと垂れ下がっている。
ここまで破壊する気はなかったけど、こうなったんだもの中を見てみようじゃないか。
割れて垂れ下った石膏ボードを持ち上げてみた。
するとそこには。
前回以上に不可解な物体があった。

(これを見て「なるほどね」と思う人が少ないのを前提に書いています)
石膏ボードの向こう側に何があるのかはイマイチ想像が出来ていなかったから、最初はデカいカビの塊かと思った。
で、恐る恐る素手で触ってみたのだが、意外にもこの塊、ガチガチに硬い。
なんなんだこれ。
ここの右側の石膏ボードも浮いていたので、それをバキっと引っ張ってみると、やはり同じような塊が現れた。

(水色のボードの上に、2個の硬い物体がくっついているように見える)
塊の奥にある青っぽいものが断熱材だということは判ったのだが、この硬い塊が何なのかは見当もつかない。
マジで何だ。
で、よくよく観察してみると。
石膏ボードの痛みが酷かった箇所の向こうにあったのは左の塊で、確かに塊の周囲にはかなり広範囲にカビがある。

ということは。
断熱材の向こうで雨漏ったものが、断熱材と塊の隙間から内側に侵入し、塊の縁を伝って石膏ボードに浸透したってことか?
っていうか、断熱材の向こう側も大変なことになってるんじゃないだろうか。
いや、それよりもまず。
何なのかはサッパリ見当がつかないけれど、でも、
カビにまみれたこの硬い塊を取り除きたい。
で、早速素手で塊を握って前後左右に動かそうとしてみるも塊はビクともしない。
ただ、たとえば頑丈なドライバーをあてて金槌でガンガンやれば剥がせそうな気がしないでもない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
や、
やってみてぇ。
や、
やってみてぇ。
つまりあたしは、取り除いていいものかどうかも判っていないのにこの塊をガンガンやって剥がしてみたいがために、管理組合や他所んちへの挨拶を急いだのだった。
ちなみに。
我が家の4畳半の壁がGL工法なる方法で張られていることと、この塊がGLボンドなるものだと知ったのは、管理組合からリフォームの承認を貰った翌日の深夜、塊を見つけた3日後のことである。
しかも、石膏ボードについてネットで調べている最中、偶然辿り着いたサイトで見つけた。
で。
「なるほどなるほどー」と納得しながらそのサイトを読み進めるうち、あたしは、もうひとつの発見をしてしまったのである。
ア ド バ イ ザ ー の 出 番 、 な く ね ?
ということに。
(続く)
4畳半の部屋で雨漏りした痕跡(カビ付き)を見つけたところまでは良かったのだが・・・・って、これが全然ちっともひとっつも良くない。
何しろあたしは、雨漏りしてダメになった壁をどうやって直すのかを知らないし、そもそも、DIYどころか、住まいに関することは何にも知らない。
なーんにも知らないまま呑気に歳だけはくっちまったのだ。
たとえば、料理上手な女友達はお店で美味しいものに出合うと、それを家で再現すべく、レシピを考えながら食べることがあるらしいが、料理が出来ないあたしは自分で作ることを想定しながら食事をしたことは一度もない。
後になってその料理のことを話すと、微細に記憶しているのはもちろん女友達で、あたしはといえば、「すげー美味かった」というアホみたいな記憶しかなかったりする。
その代わりあたしは、行ったことがあるないに係わらず、
我が街中心部にあるフリー雀荘の店名と電話番号をソラで言える。
(「あたしね、漢検一級持ってんだー」と同じレベルの自慢をしているつもりです)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
各 店 の レ ー ト も 知 っ て い る 。
(付け加える意味なし)
(「あたしね、漢検一級持ってんだー」と同じレベルの自慢をしているつもりです)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
各 店 の レ ー ト も 知 っ て い る 。
(付け加える意味なし)
つ、つまり。
興味のあることや必要な情報は自然にインプットされるが、自分にとって無用な情報はハナから気にも留めないのが普通だ。と思う。
たとえばその女友達は、自分が勤めてる場所から一番近い雀荘がどこかなんて考えたこともないだろうし、「キミの会社から一番近い雀荘はマナーを知らないくせに態度がデカい若者が多くてイラっとするけどソイツらは判りやすい打ち方をするから勝率はいいよ。ただね、点5」と教えたところで、彼女の頭には、「麻雀好きのアホな友達がなんか言ってた。目がマジで怖かった」という記憶しか残らないだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
すげー関係ない話を長々書いている気がしてきたが続ける。
つまり、これまであたしにとって住まいに関する大抵のことは料理と同じで、興味もないし知る必要もなかったし、知らないからといってそれで困ることもあまりなかった。
だから。
住まいに関することでこれほど頭ん中が感嘆符と疑問符で埋め尽くされる日がくるなんて思ってもみなかったのだ。
マンションの壁の構造が全く理解できない。
その道のプロじゃなくとも、たとえば家を建てたりリフォームした経験でもあればこんなことで手が止まったりはしないのかもしれないが、あたしにとっては全てが未知の領域だった。
たとえば。
自然に剥がれてしまった壁紙をさらにひっぱると、こんな風になった。

(コンセントカバーは後にしっかり外すことになる)
知っている人なら「これに何の不思議が?」っつうカンジかもしれないが、あたしの頭の中はビックリしまくりだ。
特にここ。
だって、なんなのこれ。


去年の春くらいまであたしは、壁紙のすぐ下には石膏ボードやベニヤ板があると思っていたのだが、壁紙を選ぶ段になって初めて、壁紙のすぐ下には「裏紙」なるものあることを知った。
つまり、ひとつ賢くなってからこの作業に挑んでいる。(夏目基準)
だから、白く残ってるのが裏紙で、茶色っぽいところが石膏ボードなんだろうと思った。
そこまでは判る。
合ってるか合ってないかは置いといて、納得がいく。
でも、そうなると、そのどっちでもない色をしたここは何。

が、開始からわずか数分で手を止めてちゃ、一向に終わりはこない。
だから、疑問は疑問のままにしてとりあえず先に進むことにしたのだが、視線を上に移すと、更なる疑問が湧いてきた。
マンションの天井にコンクリートの梁があるのは不思議じゃないのだが、我が家の4畳半の部屋には一部、斜めっている壁がある。
壁が斜めっていること自体は、マンションの外形が既にそうだから不思議ではない。
あたしが不思議なのは、
斜めの壁は、何で留まってるのか?ということ。


釘なのかしら。
それとも、糊とかボンドとかごはん粒とかの粘着系?(ひとつ余計)
いや、でもさ。
斜めってる壁と垂直の壁とが繋がってる部分、湿気のせいか斜めってる壁が浮いちゃってるわけだけど、

なんとなく斜めってる壁の向こうには、空間がありそうな気がするんだよねえ。

それとそれと!
斜めってる壁の壁紙もベリベリーっって剥がしてみたんだけどさ、

雨漏ってダメになった箇所だけ板を張り替えるのってアリなのかしら。

それとも上から下まで壁一面張り替えないとダメ?
あ、つうか、またビックリ。
こ の 、 ボ ー ル 紙 み た い な 色 の と こ は 何 。


という具合に、壁紙を少し剥がしてみただけで、次から次へと疑問が湧いてくるのである。
ちなみに。
ケータイのカメラで撮ったこれらの画像のタイムスタンプによると、あたしが雨漏りに気づき壁紙をベリベリやって驚いたり不思議がっていたのは、2008年9月3日深夜のことらしい。
さて。
2008年9月3日に次々と湧いたこの疑問を手っ取り早く解決する術があたしにはある。
翌日普通に会社に行って自分の席に座ったら、クルっと後ろを振り向いて、元内装屋の同僚・柳沢に声をかけりゃあいいだけの話である。
が、あたしはそれをしなかった。
なぜならもちろん、
柳沢とプライベートな話をするのがとにかくメンドウだからである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
我ながら「なんつう理由だ」とは思うのだが、あたしにとって柳沢は、喋ることそのものもメンドウなら、共通の話題を持ってしまった後の会社生活までメンドウになりそうな相手なんである。
というわけで。
背後に柳沢の気配を感じながらもあたしは、「DIYリフォームの本を買って足りない知識をネットで補うのが一番ラクかなあ」と思い直した。
あ、でも待てよ。
あたしには、頼れる友がいるじゃないか。
柳沢よりずっとラクに訊ける友が。

(サヨリの刺身にテンションが上がる女。アラフォー・独身・彼氏ナシ)
居酒屋で刺身をつまみながら、大工な友人にざっくり現状を説明をする。
「なるほどね。なんとなくイメージは湧いたけど」
「うん」
「それはさ、俺が家に行って、下地作りまでやるってのはダメなの?」
「ダメなの」(即答)
「なんで」
「自分でやってみたいから」
「だって、壁紙貼るのをやりたいんでしょ?」
「最初はそうだったけど、今はいつまでかかってもいいから全部ひとりでやりたい。地味にコツコツと」
「しかしまあ、とことんアレだね」
「ん?」
「独り身街道まっしぐらだね」
「・・・・・・・・・・おかげさまで」
「まあいいや。一応ざっと説明するけどさ」
「おお」
「酒入ってんだから、今説明したこと忘れる可能性大でしょ」
「う、うん」
「だから後でメールも送るよ」
「ありがたいわー」
「あ、でもさ」
「うん」
「俺もいい加減呑んでっから、メール送るの忘れるかもしれん」
「じゃあ、「メールくれ」っていうメールをあたしが送るよ」
「わかった」
・・・・というヘタレな会話の後、一通り手順を説明してくれた大工な友人はグラスの焼酎を呑み干して続けた。
「壁紙剥がすのも結構メンドウだったろ?土日にやったの?」
「ううん。平日の夜」
「ああ、金曜か」
「なんで金曜よ」
「え。昨日やったんじゃないの?」 ※この日は土曜
「違うよ」
「じゃあ一昨日?」
「だから何でそうなるの」
「はぁ?」
「なに」
「お前、壁紙剥がし始めて疑問が湧いたから俺に連絡してきたんだろ?」
「酔ってんの?呑むぞって連絡してきたの、そっちじゃん」
「あ、そっか。え?」
「だからなに」
「つーかお前!」
「はい」
「壁紙剥がしたのいつ!」
「忘れたよ。つーかなんで?剥がしたらすぐに次のを貼んないとダメなの?」
「いやそうじゃなくて!」
「じゃあなに」
「その切実な疑問を、だ」
「うん」
「 何 ヶ 月 放 置 し た ん だ よ 、 お 前 」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
か れ こ れ 5 ヶ 月 に な り ま す が 何 か 。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
か れ こ れ 5 ヶ 月 に な り ま す が 何 か 。
そう。
大工な友人とのこの会話はつい最近、2009年1月下旬に交わされたものである。
それまでの間、4畳半の壁はこのままの状態。

(これで何の問題が)
大工の友人は、「あれ?って思ったらすぐに連絡くれりゃあいいじゃない」と言った。
念のために書いておくと、「俺を頼ってくれ」とか、「キミのピンチには俺が駆け付けるよ!」とかいう色っぽい話では全くない。
大工な友人は、あたしがこんな状態を5ヶ月も放置したことが信じられないという。
20余年の付き合いなのに今更何言ってんだ。
・・・・と思わないこともなかったが、大工な友人はあたしが自分の汚部屋を十数年も放置していたことは知らないし、「5ヶ月なんて短いほうだよ!」と力説するようなことでもない。
「確かに。壁紙剥がした時はまだ暑かったもんなあ」とあたしが呟くと、大工な友人は安堵したように「だろー」と言った。
だねー。
そんなやり取りがあった翌日、大工な友人からメールがきた。
タイトルは「また5ヶ月後?」。
それだけで中に何が書かれているか判ってしまったが、でも開封した。
本文は案の定、
「 「メールくれ」っていうメール、いつくれんの? 」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
柳 沢 と は 違 う 方 向 で メ ン ド ク セ 。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
柳 沢 と は 違 う 方 向 で メ ン ド ク セ 。
兎にも角にも。
こうして、4畳半の壁再生プロジェクトは動き出した。
アドバイザーに不足はない。
これまで通り、敵はあたし自身。
と、4畳半の寒さのみ。
つうわけで再始動初日は完全防備をして壁に挑んだのだった。
(続く)
「片付け始めてからは、お金を遣わなくなりました。
家でやることができたからか、家の居心地が良くなってきたからか、どこにも寄らずまっすぐ家に帰る日が増えたってのも影響してるんでしょうが、それ以上に、余計なものを買わなくなったってことが大きいと思うんです。
前は、欲しいと思ったらなんでもすぐ買ってましたし、たとえば電池が切れたら、部屋にそれがあるかないかなんて考えもせず、「買う」っていうことしか頭になかったんです。
でも、片付けていて、過去に気まぐれというか思いつきで買ったのに開封もせずに放置したものがたくさんあることが判っちゃったんで、たとえば今、「ビーズアクセサリでも作ってみようかしら」って思ったところで、買うまでには至らなくなりました。
「買ったところでやんねえヤツなんだ、あたしは」ってことを、イヤというほど思い知ったんで。
消耗品にしても、片付けてみたら、「どんだけ在庫抱えてんだよ!」ってツッコまずにはいられないほどだったんです。
乾電池とかライターとかストッキングとかタイツとか。
自分の部屋に何があって何がないのかも判らなかったし、買った記憶があったとしてもどこにあるのか見当もつかないっていうのが常だったんで。
片付けて、どこに何があるのか判るようになってやっと、電池が切れたらそこから取って、無かったら補充するという、普通の買い方ができるようになりました」
などという、片付けられる人にとっては当たり前のことを自信満々で語ったばかりだというのに、あたしはここ3日ほど、家で探し物をしている。
捨て方が判らなくて手が止まった記憶は鮮明にあるから、捨ててはいない。
なのに、ブツもなけりゃ、それをどこかに仕舞ったのか記憶も全然ないときた。
んー、捨てたのかなー。
でもなー。
過去ログ見てみたら、「こういう、捨て方が難しい物はほんとに困る」っつうキャプションつけてんだよなあ、あたし。
天井近くまで物が詰まれたコテコテの汚部屋住人ではなくなったものの、未だに自分は片付けらない女なんだなあと実感するのは、あるはずの物を探せずにいる、今みたいな時だ。
ただ。
3日探しても見つからないし、いつになったら見つかるのか見当もつかないけれど、でも、今あたしが「見つからないから買おう」と微塵も思っていないのは確実に、部屋を片付けたことによる変化だろうとも思う。
というような、片付けている最中に感じたことや片付け後に思っていることについて、先日取材を受けました。
相変わらず、何を訊かれても答えをひとつに絞れず、ダラダラと語ってしまいましたが、そこのところは、編集部の方がまとめてくださっていることでしょう。
というわけで。
今日、2月10日(火)の毎日新聞夕刊2面 『 特集ワイド 』
は、「片付けられない人たち」がテーマです。
で、その記事中に、あたしが先日話したことがちょろっと載っています。
夕刊がない地域も多いようですが、手にする機会のある方はどーぞ読んでみてください。

そして夜は雨漏り話の続き。
片付けを始めるより2年くらい前のこと、自宅の留守番電話に連日、マンション管理会社からのメッセージが残されていたことがあった。
でもあたしがそれを知ったのは留守電のメッセージを聞いたからではなく、電話じゃ連絡がつかないと悟った管理会社の担当者が、わざわざ家まで来てくれたからだ。
あ、そうだ。
この時、管理会社の担当者の手を煩わせたのを申し訳なく思って、夏目父とふたり、「留守電の録音は聞こうね」と話したんだった。
「居留守電話やめようね」とも。
でも、
3 日 坊 主 で 終 わ っ た ね 。
(ダメ親子)
(ダメ親子)
で、管理会社の用件が何だったかというと。
「複数の住人から同じ不具合報告があったんですが、夏目さんちは大丈夫ですか?」というもの。
よくよく聞けば、4階の住人から雨漏りしてると報告があったと言う。
「気付きませんでしたけど、雨漏りしてるとすればどのあたりなんでしょう?」
「それが、どのお宅も同じ箇所でして」
「ええ」
「北側の、ベランダのあるお部屋なんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「雨漏りと言っても天井ではなく、天井に近い部分の壁で。他所のお宅ではクロスが剥がれてきたことで雨漏りに気付いたようなんですが、夏目さんのお宅では、クロスが大きく剥がれたりしてないですか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
わ か り ま せ ん 。
わ か り ま せ ん 。
心の中では逆切れ気味にそう答えたが、それを言ったところで先方は、「じゃあ確認してみてください」と言うに決まってる。
が、そう言われても、当時の4畳半はコテコテの汚部屋で、ドアを開けるのがやっとの状態。
壁に近づくことすらできなかった。
つまり、クロスが剥がれていないのかを確認する術は、部屋を片付ける以外になかった。
よその汚部屋ブログを見てみると。
水回りの修理を頼まなくちゃいけないとか子供の学校の家庭訪問があるとか、彼氏ができたとか彼氏ができたとか彼氏ができたとか(シツコイ)、誰かを部屋に招き入れなければならなくなった時に汚部屋脱出を決心した人も多い。
なのに、当時のあたしは部屋を片付ける気など皆無だったから、チャンスをチャンスとも気付かずに、雨漏りの有無を確認することは無理だと決め付けた。
ただ、気になることもあった。
ひとつは、どうして雨漏りしたのかということ。
うちは4階建てマンションの4階で、天井の上はブ厚いコンクリートのハズ。
どうすれば雨漏りするのか、想像もつかない。
ふたつめは、もし雨漏りしていた場合、それを修理するのは自腹か否かということ。
こうして管理会社の人が来たってことは、もしかしてタダで直してくれるのか?
そんなあたしの疑問は、その場ですぐに解決した。
雨漏りの原因は、通風孔だか排気孔だかのパッキンの劣化が原因だそう。
4階の家のそれは、マンションの外の屋根に近いあたりに突き出ているのだが、

コンクリートとそれの隙間を埋めているパッキンが劣化したことによって、雨水が入り込むようになり、壁板とコンクリートの間に溜まり壁紙が剥がれるまでになった、と。

自腹か否かについては。
結論から言えば、パッキンの修理は修繕積立費で賄う方向で話が進んでいるが、各家の壁の修理は自腹、とのこと。
管理組合の集まりに出るようになってからはこういう話が幾分理解できるようになったが、当時はなーんにも知らなくて、だからその答えを聞いてあたしは心の中で舌打ちした。
幸い雨漏りは壁紙の一部を剥がす程度のもので、階下の家には影響しない可能性が高いらしい。
管理会社は「リフォーム業者を紹介しますよ」とも言ってくれたが、費用は自腹だから、その業者でなければいけない理由は全くない、とも言う。
しかも、パッキンの修理は近々に行う、とも言う。
・・・・ってことはさ。
今 慌 て て 雨 漏 り を 確 認 す る 意 味 な く ね ?
と、アホなあたしは思ってしまったのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
確認する意味あるよ、フツーはよ。
だって壁紙剥がれてんだから。
管理会社とそんなやり取りがあったことは、片付けている最中もその後も、すっかり忘れていた。
4畳半の壁紙を張り替えるべく、古いのをベリベリ剥がし始めても尚、全く思い出さなかった。

(これが思いのほかメンドクさい)
が。
ベリベリし続け暫く経った時、視界になにやらフワっと動くものが映り、それが何かを確認しようと視線を移した途端、数年前のやり取りを鮮明に思い出したのだった。
何故なら、その時フワっと動いたものは、
本来なら剥がれるハズのない壁紙だったから。

(「剥がすの大変でしょうから自主的に剥がれてみましたよ」ってことではない)

(見紛う事なき雨漏り跡。そしてカビ)

(「剥がすの大変でしょうから自主的に剥がれてみましたよ」ってことではない)

(見紛う事なき雨漏り跡。そしてカビ)
ああ・・・・。
やっぱりうちも雨漏ってたんだ・・・・。
つうことは、壁紙を張る前に、まずは壁板の補修をしなくちゃいけないわけね・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
み
見なかったことにし・・・・ようなんて思ってません。少ししか。
(続く)
み
見なかったことにし・・・・ようなんて思ってません。少ししか。
(続く)
部屋のことに気持ちが向かない時は、他の何かに気を取られていることが多い。
その「何か」はたとえば、近所のスーパーマーケットの店長のベレー帽みたいなヅラのことだったり、四畳半のベランダから見える家にいる2匹の柴犬と仲良くなる方法だったり、部屋のテレビを買い替えるタイミングだったりする。
つまりあたしは家に居ると、どうでもいいことばかり考えている。
が。
半年くらい前から、それほどしょーもなくはない、あるひとつのことに気を取られてる日々が続いている。
「漢字を書く能力が後退している」という自覚が思いっきりあるのだ。
パソコンとネット環境さえあれば、仕事はもちろんプライベートなコトまでほとんど用が足せてしまう世の中で生きていると、郵便番号と住所と名前と電話番号くらいが書ければ、不便を感じることはあまりない。
だから暫くは、「漢字を書く能力が衰えた」と自覚するに留まっていた。
仕事で付き合いのある人にそれを話したら、「手紙なんて滅多に書かないし、わかんない漢字があってもケータイ開けばすぐわかるし」と言われたのだが、確かにそれはもっともで、そう言う人を否定する気は微塵もない。
ただ。
ものすごく単純に、実に頻繁に、
漢字をスラスラ書けるのってカッコイイ。
と思うようになった。
たとえばあたしが、ブログに書いているのと同じことを紙に書いてみろと言われたら、ひらがなとカタカナが増えてブログの倍くらいの文字数になるだろう。
ブログ並みの漢字を使おうとすれば、正しく書くのにかかる時間は倍じゃ足りない。
実際、このあいだ手紙を書いた時も、難しい漢字なんて使っちゃいないのに、次に書くべき言葉や漢字が浮かばなくて、やたら時間がかかった。
パソコンに頼ってばかりじゃいけない、という話では全然ない。
パソコンやケータイの変換機能に脳を補って貰うのが普通の時代だからこそ、脳の力だけで滑らかに漢字を書ける人が格好よく見える、というだけの話。
だからそれは、難しい漢字じゃなくても全然いい。
大昔に女子が言っていたような、「「憂鬱」とか「薔薇」とかをサラっと書ける人ってス・テ・チ♪」というのよりは遥かにハードルが低く、たとえるなら、「ブログに書いている程度のことを紙にも同じように書ける人がかっこよく見える」という、実に低レベルな話である。
パソコンを使っていようがいまいが、書ける人は書けるのかもしれない。
あたしが極端に書けなくなっているだけなのかもしれない。
かろうじて、仕事で使うような漢字ならまともに書けそうな気がしないでもないのだが、正しく書ける自信は全然ない。
昔から出来なかったことが未だに出来ないのなら気にはならないのだが、出来て当たり前だったことが出来なくなるのは、なんというか、薄っぺらい人間になってしまった気がしてしまう。
そして。
実際は書けないかもしれないのに「いや、書けるでしょ。だって読めるし」と思い込んでいる自分が、やたら痛々しくも思える。
というわけで。
すげーベタだけど去年の秋、
漢検を申し込んでみた。
で。
過去問集も買わず、出題傾向を調べるわけでもなく、なのに、申し込んでから受検日までの2ヶ月半もの間、「漢字検定ってどんな問題が出るのかなー」とぼんやり考える日々が続いた。
今回あたしが受けたのは、社会人が最初に受けるのに適しているらしい、漢字能力検定3級。

(上司からのアドバイス。「誰もが読めるひらがなを書け」)
中学校卒業程度のレベルである。
最近は親子で受検する人も多いという話を小耳に挟んだので小学5年の姪に話してみると、意外や意外、「じゃあ6級(小学5年修了程度)を受ける!」と言う。
ちなみに姪は、テレ朝のバラエティ番組 『 Qさま!! 』 の「プレッシャーSTUDY」(という、アホ自慢じゃないクイズ企画)が大好きで、物凄い漢字力を発揮するやくみつるのことを「先生」と呼んでいる。
が、姪の得意科目は、「体育と給食」だ。(本人談)

(250万人って、何が?)
あたしが買って渡した6級の問題集をとことんやって受検日を迎えた姪はそれでも、試験会場から出てきてあたしを見つけると、なんとも情けない顔で「やっちまったよう」と言った。
「ふたたび」という漢字が最後まで思い出せず、違うと判っていながら「又たび」と書いたらしい。
惜しいなー。
でも気持ちは判るぞー。
「でさあ、夏目ちゃん。ふたたびってどういう字だっけ?」
「ドラマの再放送の再」
「あ゛ーーーーーーーー!」
「あるよねえ、そういうの。すげー知ってるのに思い出せない漢字」
「え!夏目ちゃんもあったの?」
「う、うん」
「なんて漢字!?」
「・・・・言えねえ」
「ねえ、なんて漢字ー?」
「そ」
「そ?」
「そ、そむける・・・・」
「そむけるってどういう意味?」
「顔とか目をそらすっていう意味」
「ああ、なんか聞いたことあるけど字はわかんないや」
「背中の背、だ」
「思い出したんだ」
「うん。試験会場から出てくるエレベーターの中で。前に立ってた人の背中についた埃見てたら思い出した」
「試験会場で前の席の人の背中に埃がついてればよかったのにー」
「う、うん」
小腹が減ったので、2人でドトールに入った。
が、クロックムッシュを見つめながら、あたしの反省会は続く。

「四文字熟語もさ」
「うん」
「こうげんれいしょくってのが出たんだけど」
「どんな意味?」
「知らね」
「むずかしそうな言葉だもんね」
「「れいしょく」ってとこを漢字で書く問題だったんだけどさ、「冷凍食品」しか出てこなくて」
「ああ、そのれいしょく?」
「・・・・違うと思う」
「冷凍食品だったら良かったのにね」
「う、うん」
事前に勉強をしたとかしてないとかは関係なく、中学卒業レベルの問題ですら素で判らなかったという事実を目の当たりにしたせいで、元気が出ない。
すると、そんなあたしを見ていた姪は、急に元気な声を出した。
「夏目ちゃん!」
「・・・・はい」
「元気出して!」
「出ねぇんだけど」
「漢字検定に落ちたって、マージャンで勝てればいいよ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
勝 手 に 落 ち た こ と に す ん な 。
つうか。
慰 め に な っ て ね え か ら 。
(つい最近も、見知らぬオッサンに気前よく金をあげてみたらしい)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
勝 手 に 落 ち た こ と に す ん な 。
つうか。
慰 め に な っ て ね え か ら 。
(つい最近も、見知らぬオッサンに気前よく金をあげてみたらしい)
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