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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



部屋のことに気持ちが向かない時は、他の何かに気を取られていることが多い。
その「何か」はたとえば、近所のスーパーマーケットの店長のベレー帽みたいなヅラのことだったり、四畳半のベランダから見える家にいる2匹の柴犬と仲良くなる方法だったり、部屋のテレビを買い替えるタイミングだったりする。
つまりあたしは家に居ると、どうでもいいことばかり考えている。
が。
半年くらい前から、それほどしょーもなくはない、あるひとつのことに気を取られてる日々が続いている。



「漢字を書く能力が後退している」という自覚が思いっきりあるのだ。
パソコンとネット環境さえあれば、仕事はもちろんプライベートなコトまでほとんど用が足せてしまう世の中で生きていると、郵便番号と住所と名前と電話番号くらいが書ければ、不便を感じることはあまりない。
だから暫くは、「漢字を書く能力が衰えた」と自覚するに留まっていた。
仕事で付き合いのある人にそれを話したら、「手紙なんて滅多に書かないし、わかんない漢字があってもケータイ開けばすぐわかるし」と言われたのだが、確かにそれはもっともで、そう言う人を否定する気は微塵もない。
ただ。
ものすごく単純に、実に頻繁に、



漢字をスラスラ書けるのってカッコイイ。



と思うようになった。



たとえばあたしが、ブログに書いているのと同じことを紙に書いてみろと言われたら、ひらがなとカタカナが増えてブログの倍くらいの文字数になるだろう。
ブログ並みの漢字を使おうとすれば、正しく書くのにかかる時間は倍じゃ足りない。
実際、このあいだ手紙を書いた時も、難しい漢字なんて使っちゃいないのに、次に書くべき言葉や漢字が浮かばなくて、やたら時間がかかった。
パソコンに頼ってばかりじゃいけない、という話では全然ない。
パソコンやケータイの変換機能に脳を補って貰うのが普通の時代だからこそ、脳の力だけで滑らかに漢字を書ける人が格好よく見える、というだけの話。
だからそれは、難しい漢字じゃなくても全然いい。
大昔に女子が言っていたような、「「憂鬱」とか「薔薇」とかをサラっと書ける人ってス・テ・チ♪」というのよりは遥かにハードルが低く、たとえるなら、「ブログに書いている程度のことを紙にも同じように書ける人がかっこよく見える」という、実に低レベルな話である。

パソコンを使っていようがいまいが、書ける人は書けるのかもしれない。
あたしが極端に書けなくなっているだけなのかもしれない。
かろうじて、仕事で使うような漢字ならまともに書けそうな気がしないでもないのだが、正しく書ける自信は全然ない。

昔から出来なかったことが未だに出来ないのなら気にはならないのだが、出来て当たり前だったことが出来なくなるのは、なんというか、薄っぺらい人間になってしまった気がしてしまう。
そして。
実際は書けないかもしれないのに「いや、書けるでしょ。だって読めるし」と思い込んでいる自分が、やたら痛々しくも思える。



というわけで。
すげーベタだけど去年の秋、



漢検を申し込んでみた。



で。
過去問集も買わず、出題傾向を調べるわけでもなく、なのに、申し込んでから受検日までの2ヶ月半もの間、「漢字検定ってどんな問題が出るのかなー」とぼんやり考える日々が続いた。



今回あたしが受けたのは、社会人が最初に受けるのに適しているらしい、漢字能力検定3級。




(上司からのアドバイス。「誰もが読めるひらがなを書け」)



中学校卒業程度のレベルである。
最近は親子で受検する人も多いという話を小耳に挟んだので小学5年の姪に話してみると、意外や意外、「じゃあ6級(小学5年修了程度)を受ける!」と言う。
ちなみに姪は、テレ朝のバラエティ番組 『 Qさま!! 』 の「プレッシャーSTUDY」(という、アホ自慢じゃないクイズ企画)が大好きで、物凄い漢字力を発揮するやくみつるのことを「先生」と呼んでいる。
が、姪の得意科目は、「体育と給食」だ。(本人談)




(250万人って、何が?)



あたしが買って渡した6級の問題集をとことんやって受検日を迎えた姪はそれでも、試験会場から出てきてあたしを見つけると、なんとも情けない顔で「やっちまったよう」と言った。
「ふたたび」という漢字が最後まで思い出せず、違うと判っていながら「又たび」と書いたらしい。
惜しいなー。
でも気持ちは判るぞー。

「でさあ、夏目ちゃん。ふたたびってどういう字だっけ?」
「ドラマの再放送の再」
「あ゛ーーーーーーーー!」
「あるよねえ、そういうの。すげー知ってるのに思い出せない漢字」
「え!夏目ちゃんもあったの?」
「う、うん」
「なんて漢字!?」
「・・・・言えねえ」
「ねえ、なんて漢字ー?」
「そ」
「そ?」
「そ、そむける・・・・」
「そむけるってどういう意味?」
「顔とか目をそらすっていう意味」
「ああ、なんか聞いたことあるけど字はわかんないや」
「背中の背、だ」
「思い出したんだ」
「うん。試験会場から出てくるエレベーターの中で。前に立ってた人の背中についた埃見てたら思い出した」
「試験会場で前の席の人の背中に埃がついてればよかったのにー」
「う、うん」



小腹が減ったので、2人でドトールに入った。
が、クロックムッシュを見つめながら、あたしの反省会は続く。






「四文字熟語もさ」
「うん」
「こうげんれいしょくってのが出たんだけど」
「どんな意味?」
「知らね」
「むずかしそうな言葉だもんね」
「「れいしょく」ってとこを漢字で書く問題だったんだけどさ、「冷凍食品」しか出てこなくて
「ああ、そのれいしょく?」
「・・・・違うと思う」
「冷凍食品だったら良かったのにね」
「う、うん」


事前に勉強をしたとかしてないとかは関係なく、中学卒業レベルの問題ですら素で判らなかったという事実を目の当たりにしたせいで、元気が出ない。



すると、そんなあたしを見ていた姪は、急に元気な声を出した。



「夏目ちゃん!」
「・・・・はい」
「元気出して!」
「出ねぇんだけど」





「漢字検定に落ちたって、マージャンで勝てればいいよ!」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





勝 手 に 落 ち た こ と に す ん な 。





つうか。




慰 め に な っ て ね え か ら 。
(つい最近も、見知らぬオッサンに気前よく金をあげてみたらしい)





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 漢検が終わったので、ぼちぼち片付け記事を再開しまーす。