BOOK INFOMATION

単行本 『 片付けられない女魂 』 は、Amazonマーケットプレイスで購入できます。
片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



町内会の呼びかけで数ヶ月に1回行われている、近所の河原のゴミ拾いに参加した。
今のマンションに越してきた当時のあたしは、この手の行事を心底メンドくせと思っていたのだが(こら)、ここ数年で自然に参加するようになった。

そうじゃなくても大人だけで暮らしていると、子どもを介した繋がりがない分、入ってこない情報がかなりある。
たとえば、あたしが普通に暮らしていると、「スーパーマーケットAのレジにいるS君は、ポイントカードにマイバッグポイントを加算し忘れることが多いからレシートを確認しなくちゃダメよ」とか「Bストアでこの間、レギュラーコーヒーにあり得ないくらい安い値段がついていたのは、セールのチラシの印刷をミスったからなんですって!」みたいな話を聞ける機会は皆無だし、近隣の不審者情報などは、就学児童の親に教えてもらうまで知らずにいることのほうが多い。
俺ルール満載のメンドウな近所付き合いは未だに御免だが、大人になってからマメに参加するようになったこのゴミ拾いで不快な思いをしたことはなく、個人を名指しで叩くような会話を耳にしたこともない。
だから気軽に参加できるし、気軽に不参加も表明できる。
ただ。
今回のゴミ拾いは様子が違った。
何故なら、我が家の話題が中心だったからである。



きっかけは、マンション管理組合の理事長が回覧してくれた、夏目家でリフォームを開始するという告知文だった。
ゴミ拾いにはマンションの住人以外も参加しているのだが、マンション住人が「そういえば夏目さん、自分で部屋をリフォームしてるんですって?」とあたしに話したことからひとしきり近隣住民も交えてリフォーム話が盛り上がり、やがてリフォームとは関係ない質問大会が始まってしまったのだった。

誤解を恐れずに言えばあたしは、実生活で個人的な質問に答えることがかなり苦手なのだが、「昔から、度々お見かけしてはいるんですけど・・・・」程度のご近所さんがあたし個人や我が家に対して疑問を抱いていたなんて思ってもみなかったし、初めて聞いたその疑問というのが「なるほど」と思うことばかりで、今回に限っては答えるのが全く苦にならなかった。
ちなみに、真っ先に訊かれたのは、



「結婚してるの?」



である。
仕事でちょっと知り合った程度の人に訊かれたなら、



「 結 婚 で き て ま せ ん が そ れ が 何 か 」


(ドラマのキャラと違いすぎるジャケ写)



と答えたくなるところだが(カルシウム摂れ)、相手がご近所さんとなれば話はまるっとするっと違ってくる。

今の家に越してきて20年。
ご近所さんと挨拶を交わすようになっても20年。
20年間、挨拶を交わし続けているご近所さんがどこの誰かを知らないなんて、改めて考えると奇妙な話だ。

「結婚してるの?」という問いに、「貰い手がなくて売れ残ってます」と答えると、あたしがこれまでの人生で最もたくさん聞いたであろう、「またまたー」的な社交辞令は一切なく、ひとりくらい言ってくれてもよくね?と心の中でツッコんでも一切なく、それどころか、「やっぱり!なんとなくそうじゃないかとは思ってたんだけどねー」「私も私もー」というリアクションだらけ。
・・・・やっぱりってどういうことスか。

続いて、毎朝同じ時間に家を出る日が続いたかと思ったら、平日の昼間に近所のサロンで髪を切っていたりもする我が家の不審者について。

「お父様はお仕事なさってるの?」
「ええ。会社に行ったり、家で仕事したりしてます」
「ああ、それで納得したわ。自由なカンジだとは思ってたのよねー」

・・・・ええ、性格がフリーダムなんで。

他にも、「キャリーバッグで出掛けるのを見かけたんだけど、あの猫ちゃんはオスなの?メスなの?」とか、「そういえば暫く前に、マンションの駐車場の車にボールをぶつけて遊んでた近所の子どもを叱ったのって夏目さん?」などなど、日常的に交流があれば纏めて訊く必要がないことを次々と訊かれ、「オスです」「ああ、子どもが震え上がるような怖い声で叱っちゃいました」(実話)などと答え続けた。



んー。
若い頃はほんっとこういうのを鬱陶しいと思ってたんだけどなー。
最近は、「家族構成を知っといて貰えれば、たとえば火事になった時、「あ!夏目さんがいない!逃げ遅れてるかも!」「何人?」「二人!自由人と娘さん!」って気づいて貰えるし」とか考えちゃうんだよなー。
・・・・って、これが歳をとるってことなのか。そうなのか。



と、ここまでは質問される側だったのだが、実はあたしにも、マンション住人を含めたご近所さんに訊きたいことがあった。
シツコイと言われようがいくら大丈夫と言われてもどーしても気になってしまう、GL団子除去作業であたしが発している騒音について、である。



結論から言えば、階下のお宅を含むマンションの住人は、1回か2回は、コレなのかなあ?っつう音を聞いたことがあるものの、「騒音」らしい音はほとんど耳にしたことがないと言う。
が、特別防音性に優れているわけでもないうちのマンションでそれはあり得ないので、すげー気を遣われてるんじゃないかと思い更にツッコんで訊いてみると、どうやら、あたしがGL団子取りをしていた時間帯(朝8時~出掛ける直前まで)は、他所の家も朝の支度をしている最中なわけで、「よそんちからする音なんぞ気にしてる場合じゃない」ということらしい。
最も迷惑をかけているであろう階下の奥さんにいたっては、朝8時から9時までは、洗濯機を回しながら台所で食器を洗い、それが終わると掃除機をかける 『 すてきな奥様タイム 』 だそうで、「夏目さん、まだ着手してないのかと思ってたの」と言う。
よ、よかったよう。



多大な迷惑をかけていなかったことに安堵し、河原のゴミがなくなったことでスッキリもし、気分爽快で帰宅したあたしはまっすぐリビングへ行くと、異常に虫嫌いなため「河原を歩くことさえ無理」と言い切ってこれまでただの一度もゴミ拾いに参加したことのない夏目父に声をかけた。



「あのさ、下の家の奥さんがさ」
「あ゛ーーーーーー!着替えてー!手ぇ洗ってー!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



アラフォーにもなってこんなことを言われてるあたしもあたしだが、河原に行った娘=虫まみれくらいに思っている夏目父もどうかと思う。
が、ゴネても仕方がないので、言われた通り部屋に戻り着替えて、洗面所で手を洗い再度リビングへ。

「あのね、下の家の奥さんもゴミ拾いにきてたから、うるさくないかって訊いてみたの」
「ほう」
「そしたら、洗濯機回して掃除機かけてる時間帯だから全然気にならなかったって!」
「へー」
「一応挨拶はしたけど、いつもずっと気になってたからすげースッキリしたよー」
「へー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
リアクションが薄いのが気になるが、つまり夏目父は4畳半のリフォームにはほとんど興味がないってことなんだろう。
そういえば、あたしがテンション上げて腰袋を買った経緯を話した時だって、「いっそのこと地下足袋も買っちゃえば?」くらいしか反応がなかったし。



朝早くのゴミ拾いを自分で労うべく、冷蔵庫をあけてビールを出した。
すると、それまでテレビを見ていた夏目父が振り返り、ハッキリした口調で言った。

「ところで」
「うん」
「うるさいとかうるさくないとかって、何の話?」
「へ?」
「もしかして、朝ちょくちょく聞こえる、ガンガンって音のこと?」
「うん」

何を今更と思いながら、手にした缶ビールのプルトップを開けた。
すると夏目父が一気にまくしたてた。

「あの騒音、すっごい近くに聞こえるんだけど、一体どこの家からしてる音なんだろうねー。隣かなー。でも、アッチ(北を指差して)から聞こえるんだよねー。毎朝毎朝、何の音だろうって思ってるんだけど、アッチにはよそんチないしねー。マンションの住人が壁を金槌で叩いてるんだとしたら、事前に挨拶あってもいいハズだけど、少なくとも俺は誰からも挨拶されてないからねー。誰だろうねー、あんな騒音出してんの」

そこでようやく、ほんとうにようやく気がついた。



夏目父に何の断りもなく毎日ガンガンやってしまっていたことに。



もちろん、同じ家に住んでいるのだから4畳半であたしが何をしているのかは夏目父も知ってはいて、だから、本気で怒っているわけでは全くない。
が、言われてみれば確かに、「ガンガンやるからよろしくね」というようなことを事前に断ってはいなくて、だから決して大げさな話ではなく、あたしが4畳半で金槌を振り始めて一番驚いたのは夏目父だろう。
よりにもよって一番メンドクサイ近隣住民への挨拶を忘れるなんて・・・・と今更後悔しても遅い。
ここは潔く謝っておきましょう。そうしましょう。


「あ、あの」
「はい、なんでしょう」
「挨拶が遅くなりましたが」
「はい」
「今、4畳半の壁を直しておりまして」
「ほう」
「朝の騒音は私が出しています」
知ってますが
「何にも言わずにガンガンやっちまってごめんなさい」
「いいんですよ。家族ですからそんくらい我慢しますよ」
「いや、マジでゴメン」
「っていうかさあ娘さんよ」
「はい」
「詫びの言葉はいらないからさ」
「はい」



「今手に持ってるビールをくれ。くれたら許す」


(冷蔵庫にあった最後の1本。楽しみにしていた1本。お、俺の1本・・・・)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



世界で一番メンドウな近隣住民に詫びをいれ、ビール1本で許して貰えたんだからヨシとせねば。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



350mlじゃなく500ml缶だったのにな。
(ウルトラケチ娘)



で、翌朝。
世界で一番メンドウな近隣住民に、「始めます」と宣言した後で10分ほど金槌業務。
ようやく、全てのGL団子を剥がし終えた。






本格的に着手してから日々コツコツと剥がし続けること、約1ヶ月。
長いか短いかと言えば、一般的には勿論長いのだろうが、要領よくやろうとも要領よく出来るとも思っちゃいなかったあたしにとっては、「こんなに頑張ったら息切れするんじゃ?」という不安に駆られることがなく、かといって、「いつになったら終わるんだ?」と気持ちが急くこともなくやれた、ちょうどいい時間だった。
まあ、



ベッドよけてりゃもう少し早く出来たかもしれないけどね。






(判ってるのにやらないのが俺)





人気ブログランキング
 Pサマが、ジャイアン気質だった件。