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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



というわけで先週、渋々ホームセンターへ行ってみた。
用件は、「あたしが買った石膏ボードを家に持ってきてください」だけだから電話をかければ済んだ話なのかもしれなかったが、夏目父がホームセンターで植木を買いたいというので、じゃあついでに石膏ボードの件も言ってみようと思い立ったのだ。
結論からいえば、ルーキークンは未だに「研修中」の名札をつけて働いていたが案の定メモを失くしてしまったそう。
しかしそんな話を聞いたところで、「じゃあ電話かけてくりゃあいいじゃねえか」とかツッコミどころ満載には変わりないし、そのあげく、ルーキークンじゃない30歳前後の女性店員が配達伝票をめくりながら、「お電話頂ければすぐにお届けしましたのに」などと言う。
あたしがこれまでホームセンターに連絡しなかったのは、心が広いわけでも気が長いわけでもなく、こういう言い訳以下のしょーもない話を聞きたくないからだったのだが、ルーキーくんの不手際を謝るでもなく真っ先に、「届かなかったら連絡しろ」と言うような人とそれ以上話す気はない。



(以下、独身アラフォー女の怖さをお楽しみください)



「石膏ボード、キャンセルします」 ←前触れ一切ナシ
「は?えーっと、すぐにお届けできますが?」 ←すげえ感じ悪い口調で
「買った時も「できます」って言われました。でも届かなかったんです。しかも、今度も届かなかったらあたしは電話しないといけないんですよね?」 ←嫌味のつもり
「ええ、お電話頂いてましたらすぐに対応できましたよ?」 ←通じてねーし
(シカトして)「それと、うちに間違って納品された石膏ボードがあるんですが、それ、今日引き取りに来て頂けますか?」
「ああ、んー、はあ」
「・・・・・・・・・・あの」
「はい?」



「今の「はあ」って、どっちの意味ですか?」
(これ以上ない嫌味のつもりです)



「は?」
「「はい」ですか?「いいえ」ですか?」
「えーっと、少々お待ち下さい」
なんで
「はい?」
な ん で ?」 ←感じ悪い女大会日本代表です
「あ、あの、責任者を呼んできます!」 ←ダッシュでバックヤードへ



石膏ボードを買うことに、こういう精神衛生上よろしくない会話がついてくるとは思っていなかったが、その後慌ててやってきた店長はとてもスマートで判りやすい話し方をする人だったからだいぶ救われた。

店長は、「はあ」の女性店員を隣に置いてまず、「不手際があったようで申し訳ありません」と詫びた。
あたしとしては詫びの言葉が欲しいわけではないのだが、鬱陶しそうに伝票をめくりながら、「届かなかったらお電話頂ければ・・・・」と言っちゃう人よりずっと話しやすいことは確かで、その後、隣にいる女性店員に状況を確認しながら話を進める。

「○○クン(ルーキー)からはどういう報告受けてたの?」
「初回納品間違った、とだけ」
「どう間違ったのかは訊いた?」
「いえ」
「君は確認しなかったのね?」
「はい」
「つまりフォローしなかった、と」
「え?」
「君が○○クンの担当でしょ。君が確認しないで他の誰が確認するの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「状況わかりました。仕事に戻ってください」

・・・・という会話の後、店長はあたしを見て、「お詫びのしようもありません」と切り出した。
が、ちゃんと話が通じる人とならこっちも前向きに話す気になれるわけで、感じ悪く「キャンセル」とか言ったことはどこへやら、ここ10日くらい間に湧いた疑問を率直に投げかけてみた。
それは、間違って納品された3枚の石膏ボードをそのまま使えないかしら?ということ。
というのも。
910mm×1820mmの石膏ボードってのは想像以上にデカくて重くて、ひじょーに扱いづらく、素人のあたしが垂直に張れる気が全くしない。
だから、たとえ手間がかかっても、その3分の1のサイズのを3回張るほうが確実な気がしていたのだ。
結論から言えば店長は、「手間さえ惜しまなければそれもアリです」と言った後、



「失敗した時にやり直すのもラクですしね」



と付け加えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
し、失敗したくねえけど確かにそうっスね。



最初からあたしが3分の1のサイズでオーダーしていれば車に積んで持って帰ってこれたから、配達してもらう必要も、ここまで待つ必要もなかったわけだが、それは結果論であって、デカいのが普通に配達されていればそのままで施工を試みていただろうから、今回の策は折衷案でしかない。
あたしが譲歩しなくていいことは百も承知だが、待つことに疲れてしまったので、正直言って「配達はもう勘弁」という気持ちだった。



店長自ら石膏ボードをL字型に裁断してくれるというので、あたしは作業室の外で待つことにした。
すると、件の女性店員があたしには目もくれず、店長を追って作業室へ入って行った。
ガラス越しに女性店員を見ていると、店長に何やら話しかけて・・・・というよりは食ってかかっている様子。
そして、店長が持って入った石膏ボードを指さしながら何やら熱く語っている。
店長の表情は見ていなかったが、作業室の外を何度も指さしているということは、「いいから仕事に戻れ」的な?
いや、わかんないけど。
その後も女性店員は、石膏ボードを裁断する店長の背中に何やら話しかけていたが、話がついたのか何なのか、明らかに不機嫌な顔で作業室から出てきた。
そして恐ろしいことに、あたしをキっと見た女性店員は唇を震わせながら、信じられない言葉を口にした。



「さっきの返事ですけども!」
「え?」
「さっき、「はい」か「いいえ」かって訊かれましたけども!」
「ああ、はい」
「私の「はあ」はっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」



「 Yes, We can. という意味ですっ!」
(註:実話です)





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





おもしれぇじゃねえか、このやろう。



吹き出しそうになるのを我慢しながらあたしがようやく「そうですか」と言うと、女性店員は、「そうですっ!」と言ってバックヤードに走り去った。
店長に窘められたからってあたしにキレてどうするよ、とかいうことは思わないでもなかったが、何しろ「Yes,We can」である。
本人は至って真剣だったろうが、でも「Yes,We can」である。



やっぱりすげーおもしれぇじゃねえか、このやろう。



店長が、L字型の石膏ボードを持って作業室から出てきた頃にはもうすっかり、あたしの中では一連の対応が面白い出来事に変わってしまっていた。
頬がすっかり緩んでしまっているあたしを見て店長は一瞬怪訝な顔をしたが、その後は何事もなかったように様々なアドバイスをしてもらい、急遽断熱材も裁断してもらって無事全ての部材を入手し帰宅した。
で、昨日の朝からちまちまと、石膏ボードや断熱材の細かい加工を始めている。




(これらで壁を作ります)



もちろん、



「Yes,We can.」の思い出し笑いをしながら。





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 うおー、いつの間に!