BOOK INFOMATION
(4畳半の続きをお待ちの奇特な方はもう暫くお待ちください)
アメブロのインタビューでもちょっと触れたけれど、汚部屋を片付けていて、買ったまま開封すらしていない物を発掘することがちょくちょくあった。
服や雑貨やコスメグッズなど、新品未使用の物をゴミとして捨てるのは罪悪感との戦いだったが、でも、人よりだいぶ長い時間をかけ、胸に手を当てて考えた末にそれらを捨てたことはその後の生活に多大な影響を及ぼしている。
一番大きな変化は、本当に必要な物と本当に欲しいものしか買わなくなったということなのだが、本当に必要かどうかを見極めるのにやたら時間がかかってしまうので、最近は買い物をする時の自分が鬱陶しくてたまらない。
が、先日、イレギュラーな買い物をしなければならない事態が起こってしまった。
経緯はこうである。
愚痴る相手が口の悪い女の部下しかいない、という可哀想な上司と酒を呑んでいると、これまで30回は行ったであろうその居酒屋で嗅いだことのない香りが漂ってきた。
平日の夜で閉店時間が近いこともあり、あたし達以外の客は1人だけだったのだが、その香りを上司と二人で思いっきり吸い込み、声を揃えて「美味しそー」と言うと、店主ではなくその客があたし達を見やり、「飲みますか?」と声をかけてきた。
少し酔い始めていたあたし達は遠慮もなしに「はい!」と答えてご相伴にあずかり、美味しい美味しいと喜んで飲んでいたら、思いがけずそれを戴けることになった。

店に居た男性客はコーヒーの自家焙煎屋さんで、その居酒屋にランチ用のコーヒー豆を納めているとのこと。
そのコーヒーをご相伴にあずかったのだったが、家ではインスタントコーヒー、会社ではユニマット、外ならもっぱらドトールっス!なあたしにとってそれは、飲んでしまうのがもったいないくらいの美味しさだった。
家で美味しいコーヒーを飲みたくないわけではもちろんないのだが、何しろたくさん飲むくせに超モノグサなので、淹れるのもメンドウなら洗い物とゴミが増えるのもメンドウで、だからインスタントコーヒーばかり飲んでいる。
しかも。
瓶を傾けてマグカップにインスタントコーヒーを入れてお湯を注いだらかき混ぜることなくゴクリという、コーヒー屋さんにはとても言えないような飲み方だ。
そんなあたしが、美味しいコーヒーを戴いてしまった。
豆 で 。

コ ー ヒ ー ミ ル が な い の に 豆 で 。

(一瞬「このまま食ってみっか?」と思った俺。アラフォー、独身、彼氏ナシ)

コ ー ヒ ー ミ ル が な い の に 豆 で 。

(一瞬「このまま食ってみっか?」と思った俺。アラフォー、独身、彼氏ナシ)
コーヒー屋さんは、「豆は冷凍室で保存して、飲む都度挽くのが一番美味しいよ」と笑顔で言った。
「この味が気に入ってくれたなら(居酒屋の)ご主人に言ってくれればいくらでも持ってくるよ」とも。
更に聞けば居酒屋のご主人は、店で出すのとは別に賞味期限ギリギリのコーヒー豆をタダ同然の値段で譲り受けているらしい。
うー、それ魅力。
居酒屋のご主人曰く、「賞味期限ギリでも過ぎちゃっても、風味は落ちるけど充分美味しいよ」。
ううーん、それも魅力。
「しかもこの豆、有機栽培なんだって!」
・・・・・・・・・・ふむ。
(そそられないらしい)
・・・・・・・・・・ふむ。
(そそられないらしい)
という具合で。
味と値段には相当の魅力を感じたのだが、インスタントコーヒーにお湯を注いだ後、かき混ぜることすらメンドクセと思っているこのあたしが、コーヒーを飲む都度豆を挽いてドリップするなんてことができるのだろうか、いやできない。(反語フル表記)
でも。
改めて考えてみると、いや、改めて考えるまでもなく、あたしは大人になってからずっと、時間に余裕があろうとなかろうとプライベートのほぼ全てを手抜きして暮らしていたわけで、未だに万年床生活から抜け出せてないし雑な性格はこれからも変わらないだろうけれど、好きなコーヒーを淹れる時間をも楽しむような豊かさには憧れる。
よし。
か、か、か、か、買うか、買っちゃうか。
(己の決断に激しく動揺)

(当方、雀荘と釣具屋とヨドバシが好きな独身女です。どーぞよろしく。 ←何が)
(己の決断に激しく動揺)

(当方、雀荘と釣具屋とヨドバシが好きな独身女です。どーぞよろしく。 ←何が)
買うことを決めるまでに丸3日、商品選定に丸1日。
煎りたてのコーヒー豆の風味が損なわれるのに充分な時間をかけ、でも、あたしにしては超高速で、コーヒーミルを調達した。
事前にネットで入念に(夏目基準)調べ、店舗の在庫をWebでチェックし、現物を見て決めようとヨドバシへ行ったのに、シルバー・白・茶・黄・赤の5色のどれにするかで2時間超も迷う自分はやっぱりだぶ鬱陶しかった。
で。
2時間かけて選んだ色は、やはりこれ。
手動ではなく電動というのだけは決めていて、もっと安いものはたくさんあったけれど、もしデバイスタイルでミルを出していたならそれが欲しいとは思っていた。
まさか色で2時間迷うとは思ってもみなかったけれど、どの色も欲しかったからどの色を買っても後悔しなかったんじゃないかと、今は思っている。
早速コーヒー豆を挽いてみる。

(ドキドキ)
スイッチを入れ、聞き慣れないミル音におののきながら30秒経つと、会社で見慣れているレギュラーコーヒーが出来上がった。

(ちょっと感動。いや、ちょー感動)
次はドリップ!ドリップ!・・・・と調子に乗ったところで姪から電話がきた。
「はい」
「あ、夏目ちゃん」
「おうよ」
「あのね、今週のMステ、録ってちょーだい」
最近あたしは、頼まれたTV番組を録画して編集してDVD-Rに焼いて渡すという、姪専用録画マシーンと化している。
あたし自身が興味のないことは、たとえば「一緒にゲームしよう」とか「ケーキを作ってみたい」とかいう誘いはバッサリ斬り捨てる。
つまり、姪の誘いやお願いはほとんどバッサバッサ切り捨てる鬼叔母なのだが、あたしが興味のあることならばトコトン付き合うことにしている。
請けたからには、うっかり予約し忘れたりしたくない。
姪と電話で話しながら自分の部屋に行き、TVをつけた。
そういえば数ヶ月前からあたしの部屋のTVは、電源を入れて3分くらいしないと映像が出てこなくなっているので、それを待つ間、姪と雑談をする。
「夏目ちゃん、『 ROOKIES 』 、いつ観にいく?」
「6月中旬の週末」
「わかった」
「ハンカチ忘れないようにしないと」
「どうして?」
「泣く気満々だから」
「泣けるの?」
「知らないけど、ドラマは毎週泣いてた気ぃするから」
「チチ(夏目父)も一緒に行くんだよね?」
「ああ、行かないんじゃないかなあ。父、ドラマ見てなかったし」
「そうなの?」
「今いるけど訊いてみる?」
「うん!」
なんつう話をダラダラしているうちにTVがついたので、とりあえず録画予約を済ませた。
「予約完了」
「よろしくー」
「はい」
「あ!そうだ!夏目ちゃん!」
「ん?」
「今度の月9、山Pなんだよね!」 ←山Pが好きなわけではない姪。小学6年生。
「おお!」 ←山Pが出るドラマは概ね好きな叔母。アラフォー、独身、彼氏ナシ。
「で、チチ(夏目父)は行くって?」 ←叔母の好きな話を振るも長話はできない仕様
「あ、訊いてみる」
受話器を耳に当てたまま部屋を出ると、廊下にはコーヒーのいい香りが漂っていた。
料理をしない我が家に漂う美味しい香りはごはんの炊き上がる匂いくらいで、だから、コーヒーを挽いた香りはとても新鮮だった。
・・・・ん?
コーヒーを「挽いた」香りか?これ。
いやーなムード漂うリビングのドアを開けた。
するとそこには案の定、湯気の立ったマグカップを口元に運ぶ夏目父の姿があった。
そしてキッチンのシンクには、同じく湯気の立ったドリッパーが置いてあった。
飲 み や が っ た な 、 オ ヤ ジ 。
(註:良い子は親にこんな言葉を吐いてはいけません)
(註:良い子は親にこんな言葉を吐いてはいけません)
「・・・・父は 『 ROOKIES 』 観に行かない」
「え。どーして?ドラマ観てなかったから?」
「いや」
「じゃあどーして?」
「 今 か ら 親 子 喧 嘩 が 始 ま る か ら 」
「え゛」
「また後で電話する」
「け、け、喧嘩が終わったら?」
「おう」
「あ、あ、あんまり喧嘩しないでね」
「おうよ」
そう言って電話を切ったものの、あたしの声が聞こえているハズの夏目父はこっちを見もせず、小指を立てそうなくらいゆったりとコーヒーを飲んでいる。
静かに深呼吸をした。
気持ちを落ち着けて、感情的にならず、あくまで冷静に。
「あの」
「このコーヒー、美味しいよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「コーヒーミルもいいもんだねえ。なんかここんとこ、アレでもないコレはどうだって迷ってたみたいだけど、買って良かったじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そういえば最近はヨドバシに行っても、絶対使わないようなモン買ってこなくなったんじゃない?でもひとついいかな」
「あ゛?」
「コレの売り場とパソコン売り場って、離れてる?」
「別の階」
「ふーん」
「なに」
「パソコン買うの?」
「買わねーけど」
「ふーん」
「だから何」
「せっかく吟味してコーヒーミル選んで、いつもみたいに余計なモンは買わなかったのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」 ←話の先がようやく見えた
「なんでこういうモン持ってきちゃうかねえ」

(カタログ2種。大人の事情対策済)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
き 、 綺 麗 だ っ た か ら で す が 何 か 。
こういうことを改めて親に突っ込まれるとかなり恥ずかしいと気づいたあたしはコーヒーの文句を言う気が失せてしまい、いつも通り、横取りしたモン勝ちのままで話は終わってしまった。
が、それから数日経ったある日のこと、まるでそれが納豆か缶ビールかみたいな調子で言った。
「 今度ヨドバシ行ったら、山Pのdynabook買ってきて 」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
つうわけで、姪よ。
『 ROOKIES 』 は二人で観るぞ。
(決定)
(決定)
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