BOOK INFOMATION
我が家において、「鍋を焦がす」「皿を割る」「好きなもんは全部食う」というのは夏目父の専売特許だったのに、生まれて初めてあたしが、ヤカンの空焚きをしちまった。
しかも、ヤカンを火にかけてちょっと目を離したらすっかり忘れちゃって・・・・とかいう、あるあるぅー!な空焚きではなく、水の入っていない空のヤカンを火にかけ、それが変色する様子を2分間眺めていたという、ツッコミどころ満載な空焚きをした。


火に近いほうは煤のような焦げつきで、上部は、常にコンロ付近に出しっぱなしにしているせいでついた油汚れが焦げ始めたって感じか・・・・。
んー、フタも取っ手も綺麗なのになあ。

ほとんど料理をしないからキッチン用品には全く執着がないのだけれど、これだけは惜しい。
なぜならこれは、親友の結婚披露宴で貰ったカタログギフトのものだから。
しかも、離婚率が異様に高いあたしの友人知人の中で、彼女は、数少ない「続いてる人」だから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
こうして書くと「だから何」という気にならないでもないが、あたしの中では思い出深いモノだったわけで、だから、磨いてみようかと思い立った。
だって、ほれ。
片付け掃除ブログ界ではさ、写真を載せるのも憚るくらい汚いモンを洗って磨いてピカー!っとするのはお約束だもの。
あたしも世のステキな奥様たちみたいにメラミンスポンジとか使っちゃって、

このヤカンをピカー!っとしてやろうじゃないのー。のー。

思い出深いという以外にも、このヤカンが惜しい理由はある。
まず、取っ手が熱くならない。
それから、容量が2.4リットルなのにアルミ製だから軽くて、本体とフタの境に段差がないのとで、とにかく洗いやすい。
それと、表面のアルマイト加工が影響しているのか、とにかく汚れが落ちやすい。
ヤカンをピカー!っとしようなんてことは、年に1度か2年に1度くらいしか思わないが(少な!)、どれだけドロドロになっていようが、普通のスポンジと普通の食器洗剤で洗えば経年を感じさせないくらい綺麗になる。
口が広いから、手ぇ突っ込んで内側を洗うのもラクチンだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ラクチンとか言ってるわりに汚れてね?と自分で自分にツッコミつつ、その汚れは置いといてまずは、ステ奥御用達のメラミンスポンジを買う必要があるか否かを検討すべく、食器を洗う普通のスポンジで擦ってみることにした。
そうそう、内側の汚れは置いといて、ね。

(おや?)
・・・・こここここれは、みみみみみ見なかったことにして、外側を普通のスポンジで擦ってみ・・・・る前に底をちょろっと撫でてみた。
するとすぐに。
ピ カ ー ! っ と な っ た 。

(穴です)

(穴です)
・・・・って。
こういうピカー!を目指してたわけじゃねえんだけど。
一瞬、アルミ溶接しようかとも思ったのだが、穴を見てうな垂れているあたしの傍にいつの間にか立っていた夏目父の言葉をきいて、溶接は諦めた。
「やったー!ようやく穴が開いた!
あのさ、すごく綺麗なヤカン見つけたんだよー」
あのさ、すごく綺麗なヤカン見つけたんだよー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ああ、萎える。
すげー萎える。
夏目父の購買欲は、必ずあたしを萎えさせる。
そもそも、夏目父はヤカン使わないじゃないか。
あたしがコーヒー淹れる時に使うだけだもの、お前好みのヤカンである必要がどこにある。
夏目父のテンションの高さに萎えつつ、ヤカンを捨てるのならついでに、ボロくなった調理器具を全部捨てちゃおうと思い立ち、元の色がまるで判らないほど黒くなった18センチのフライパンも、場末の大衆食堂が似合う28センチのフライパンも、

買って早々フタが壊れたのに使い続けていた片手鍋も、

フタは無事だが取っ手がヤバい片手鍋も、

我が家に、少なくとも15年前からあった調理器具をどーんと捨てた。

「え、全部捨てるの?」と夏目父。
「うん」とだけ言う娘。
タイミングがタイミングだっただけにヤケを起こしている風に見えてもおかしくなかったが、あたしとしては全然そういうんじゃなくて。
場末の大衆食堂にありそうな鍋やフライパンはみんな前から買い替えたいと思っていたけれど、月に1、2回しかフライパンも鍋も使わないあたしに(本当)、欲しい鍋などあるハズもなく。
つまり、コーヒーミル同様、選ぶのがメンドウだから買い替えることを考えただけですげー億劫なわけで。
だから、先に「チーム・場末」を捨ててしまえば、否が応にも買うことになるんじゃないかと思ったのだ。
ちなみに。
これらを捨ててうちのキッチンに残っている鍋は、小さいホーローのミルクパンと圧力鍋のみで、フライパンはゼロになる。
でも、どーんと捨てた。
さて。
チーム・場末を捨てた日から夏目父は、ヤカンヤカンとうるさくなった。
「綺麗なヤカンなんだよ」と言っているうちはまだ良かった。
が、そのうち、「ヤカンって一生モンだよね」と言いだしたあたりから、徹底抗戦することにした。
「一生って、あたしの?それともそちらさまの?」
「俺のに決まってる」
「つっても、ヤカン使わないじゃないの」
「使ってるよ」
「・・・・見たことねえんだけど」
「そうかもしれないけど、毎日使ってるよ」
「お湯沸かして何してんの?」
「お湯は沸かしてないけど使ってる!」
「あ゛?」
「ベランダの花に水やる時にヤカン使ってるっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ジ ョ ー ロ 、 使 え や 。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ジ ョ ー ロ 、 使 え や 。
「つうか、一生モンとか言ってるんだからお高いのがいいんでしょ」
「高いのかなあ、やまだこーみんでざいんだと」
「は?」
「ん?やまだこーみんのステンレスのヤカンって高いのかなあ?」
「調べてみましょか」
「よろしくどーぞ」
というわけで。
夏目父の、ヤカンより熱い、暑苦しい購買欲は未だ冷めていないようだが、薄情な娘は毎日シカトし続けている。
ちなみに。
「チーム・場末」を捨てたのは、1ヶ月半前の5月5日。
我が家には未だにヤカンもフライパンも鍋もない。
だから、ヤカンでベランダの草花に水をやっていた夏目父は今、
小せぇミルクパンを手に、台所とベランダを何往復もしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ジ ョ ー ロ 、 使 え や 。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ジ ョ ー ロ 、 使 え や 。
我が家で1ヶ月以上前から繰り返し交わされてきた会話が二つある。
ひとつめは、
「これで全部?」
「他にもある、と思う」
で、ふたつめは、
「これ何?」
「知らね」
である。
それぞれ、質問ひとつに答えもひとつ。
続きはない。
一見すると完結しているように見えるが、繰り返し交わされているということはつまり、どちらも解決していないまま1ヶ月ちょっとが過ぎたということである。
ひとつめの会話については、互いが省略している言葉を書けばすぐに意味は通じる。
「これで(今年度の領収書は)全部(出した)?」
「(いや、)他にもある、と思う(けど探してない)」
夏目父は超小企業の経営者なのだが、誰から見ても会社経営には向いていない性格なので、金が絡むこと全般と申請や届け出は創業時からあたしがやっている。
幸か不幸か超小企業なのであたしが日々やっている仕事量は大したものではない。
が、領収書に絡んだことでは決算時、毎年大いに揉めている。
何故なら会話の通り、夏目父が領収書を逐一あたしにくれないからで、くれない理由は、
仕事には関係ないモンを買ったとき、あわよくば会社の経費で落としちまえと思って領収書を貰ったものの、それを見せたら鬼娘が速攻で却下することが判っているから。
で、ある。
もちろん、「却下されんのが判ってんなら自腹きる覚悟決めろよ!」とは思うし、一般企業のように「領収書がなければ清算できません」と切り捨てるのは簡単だが、厄介なことに過去の経験から、夏目父が「仕事には関係ないモン」と思っているものの中に、「仕事に関係あるモン」が入っている確率が高いということも判ってしまっている。
納付する各種税額に影響が無いともいえないので、バッサリ切り捨てるわけにもいかない。
なので毎年GWちょい前くらいから、「締め切りますよー」「後から出しても清算しませんよー」「無駄に多く税金払うことになるかもしれないんですよー」「それで我が家が窮したら、納豆が買えなくなるかもしれないんですよー」とやんわり言うのだが、夏目父はそれを聞いたところで慌てるような経営者でもないし、あたしはあたしで、「お前が出さないっつうんなら、あたしが引き出しン中、全部ひっくり返してやる!」なんつうこともしない。
つまり。
毎年この時期は、物凄く意味のない根比べをしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
こうして書いてみると、どんだけ精神衛生上よろしくないことをしているか改めて気づかされるし、決算時にそんなことになるくらいならいちいち催促すればいいということくらいはあたしでも判るが、毎日毎日家に帰ってまで、仕事や金の話をしたくないのだから仕方ない。
とにかく、夏目父が「これで全部」と言ってくれるまでは決算確定が出来ないので、それとなく催促しつつ、「せめて6月第1週には会計事務所に確定データ送りたいなー。夏目父、いつくれるのかなー。少しだといいなー。現金残で賄える額だといいんだけどなー。もしも足りなくなったところで預金残は動かせないから役員借入れ立てないといけないのかなー」と、頭の中が決算一色になり、他にどれだけ優先順位の高いものがあろうとそれらは先延ばしになってしまうという、悪循環な状態が毎年1ヶ月続く。
だから、そんな中であたしが、自動車税を期限前に払ったのは奇跡に近い。(夏目基準)

(当然のことをミラクル視するのがダメ人間の証)

(コンビニ納付ばんざーい)
結局、夏目父が「これで全部」と言ってくれたのは5月末日。
「よっ!待ってました!」とばかりに処理を始められればいいのだが、月末月初は他にもすることがあるため、隠し領収書の処理に着手できたのは6月2日の夜だった。
それにしても今回は、夏目父が隠し持っていた領収書の量がヒドイ。

(収拾がつかず、とりあえず月別昇順でクリアファイルに入れてみた、の図)
靴とか靴とか鞄とか服とか服とか靴とかの領収書(ゴルァ!)は躊躇することなく捨て、「なんでこういう判りやすいモンまで隠し持ってるかなあ」と首をかしげたりもしつつ、

(社用車に関係する領収書に、どんなやましいことがあるんだぃ?)
3晩かかって全データの入力やら照合やらが終わった。
そう、たった3晩の話なのだ。
でも、決算処理終了直後、その嬉しさを誰かに伝えたくて書いたコメントへの返信にあったカリノさんの言葉をもじると、「完全三夜漬けだったけれど、重圧だけは1ヶ月以上前から続いている」状態だったから、それを終えたときの開放感は尋常じゃあない。
どんくらい尋常じゃないかというと、翌日呑みに行った店で、待ち合わせていた友人が来る前に、ひとりで3人前のモツ鍋を平らげちゃったくらいハイテンション。(実話)

(店員に「お連れ様がいらっしゃってからにしますか?」と2回も言われたのに注文。そして完食)
土日は部屋に篭って、時間も何も気にせずに長編小説を再読しまくり、




1ヶ月半ぶりにようやく、心ここに在らずな状態から抜け出した。
さて、あたしの頭ん中が決算一色だった間、夏目父はどうしていたのかというと。
決算とか領収書とか金とかとは別の世界、つまり、いつもと概ね変わらない毎日を過ごしていた。

(「2日で11パック。絶好調だなオレ」って、おうこら)
ただし。
毎年そうしているように、春先からはベランダに出ることが増えてきた。
移植ゴテで植木鉢の土を掘り返したり、肥料らしきものを遣ったりしているようで、そのうち、「クレマチスに蕾がついた」とか言うようになった。
やがて、「ホームセンターに行きたいなあ」と呟くことが増えたので、「勝手にお行きなさい」と言いたくなるのを我慢して連れて行くと、肥料を買ったり、小さい鉢植えを買ったり。
で、暫くすると、「あの時買った花をデカい鉢に植え替えたら収拾がつかないくらい増えちゃってさー」と嬉しそうに語る。

(収拾がつかない花・その1)

(収拾がつかない花・その2)
そうこうしているうちに、少なくとも10年前からこの時期に必ず咲いている2種類のクレマチスの蕾が開き始め、花を見ては「去年よりデカい」と大喜び。

(手のひらサイズ)

(同じく)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ん な こ と や る 前 に 領 収 書 出 せ や 、 ゴ ル ァ 。
と、言いたい気持ちも無いではないが、あたしが領収書を待っているあいだ夏目父が草花を愛でるのに熱中するのは毎年のことなので、ここまではまあなんとか目を瞑ることができた。
だが、今年はこの後がかなり厄介だった。
話は随分前、去年の春まで遡る。
夏目父が会社近くを歩いていると、民家の庭先に生い茂っている草花が目に入った。
その時点ではまだ花は咲いていなかったがやたらデカい蕾がボッコボッコついている。
改めてよく見てみるとそれは庭のいたるところに生えていて、繁殖力の強さから「雑草か?」とも思ったらしいが、花壇は綺麗に手入れされているからこの雑草だけを放置してるとも考え難い。
いずれにせよ、蕾が開くのはもうすぐだろう。
夏目父は、どんな花が咲くのかを心待ちにしていた。
花は、夏のあいだずっと咲き続けた。
そして、どんどん増え続けた。
民家の庭を飛び出て、道端や向かいの空き地に芽を出し花をつけた。
夏目父は、「待ってました!」とばかりに道端のそれがつけた種を1粒だけ採り、いや、盗り、今年になって然るべきタイミングでベランダの鉢に蒔いたのだった。
で、その花が咲いたのと同時期に、最初に書いた会話が始まったのである。
「 こ れ 、 何 (っていう花) ? 」
「 知 ら ね 」
(花の名前をご存知の方、コメント欄にて教えて下さると嬉しいです)
( 『 ニゲラ 』という花だそうです!あやむ。さん、Akeさん、ありがとうございましたー)

(直径4~5センチ。うちのは水色だが、「白いのもあった気がする!」とは種泥棒談)

(花びらが落ちると、ツッコミどころ満載の姿になる。
「この膨らみに種が出来てた気がする!」とは、種泥棒談)
「 知 ら ね 」
( 『 ニゲラ 』という花だそうです!あやむ。さん、Akeさん、ありがとうございましたー)

(直径4~5センチ。うちのは水色だが、「白いのもあった気がする!」とは種泥棒談)

(花びらが落ちると、ツッコミどころ満載の姿になる。
「この膨らみに種が出来てた気がする!」とは、種泥棒談)
そりゃあもう、「知らね」と言うのが億劫になるくらい何度も訊かれた。
質問している風でなくただの独り言に聞こえることもあったが、「種をとってきて蒔いて望みどおりの花が咲いたけど、ところでこれ何て花?」と思い続けているあたりが可笑しくもあり、こっちの気分次第でイラっとすることもあって、つまり、夏目父が「これ、何?」と言うのを聞いたときの自分の感情は、その時の精神状態を表しているのかもしれないと気づき、だから感情のままでなく、いつも同じトーンで「知らね」と答え続けた。
というのも。
一社会人として客観的に見ようが、家族として贔屓目に見ようが、経営者には全く向いていない夏目父が会社を続けるということには、あたしみたいなサラリーマンにはないジレンマやストレスが大いにあるハズで、だからせめて家では、そういうストレスを感じることなく好き勝手に暮らすべきだと思うから。
「あ、今日冷凍室にあったハーゲンダッツ、2個食べた」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
好 き 勝 手 し 過 ぎ な ん じ ゃ 、 ボ ケ !
(やっぱり鬼娘)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
好 き 勝 手 し 過 ぎ な ん じ ゃ 、 ボ ケ !
(やっぱり鬼娘)
兎にも角にも。
例年通り、自分の会社の決算なんてものは気にも留めず、会社の金がいくらあろうと無かろうと意に介さず、好きなモンを食べ好きなことをし続けているうちに夏目父の会社の平成20年度決算が確定した。
お つ か れ ー 、 あ た し ! ! !
ああそうだ、夏目父。
DSのゲームソフト代は経費で落とせねえって、何回も言わせんな。
| HOME |