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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



南国出身の同僚とあたしは上司から、 『 チーム ハイエナ 』 と呼ばれている。
食いっぱぐれるわけにはいかん!とばかりに、仕事の匂いがすればわらわらと寄り集まりガッつき始めるという悲しき習性に由来しているのだが、そのチームに最近、新たなハイエナが加わった。
うちの部署に異動してきた、見惚れるほどに美しい29歳の独身男・山口である。
山口がどのくらい美しいかというと。
異動してきて3日目、山口が初めて出席したクライアントのオフィスでの打合せの席でお偉いさんが冗談で、「是非うちの社の広告モデルに!」と言ったのを聞いた女性社員たちが、うっかり大拍手してしまったほど。
が、本人曰く、「ルックスを褒められるのは慣れてる」のだそう。
つまり。



イケメンだという自覚が充分ある、敵が多そうな男である。



ちなみにこの山口は1ヶ月ほど前、連日帰宅が午前様だったあたしに、「睡眠時間少ないと肌がヤバくなるよね」と言ってきて、あたしが、「オバさんだから、睡眠時間に関係なく常にヤバいよ」と答えると、急に真面目な顔になって、見惚れるほど美しい顔で、「夏目さん、オバさんじゃないよ」と言った男である。
それに続けて、



「夏目さんは、オバさんじゃなくてオジさん」と言った男である。



つまり山口はあたしの、



社内で2人目の天敵である。
(1人目は柳沢という若造)



さて、ある金曜の夜のこと。
深い時間にオフィスに残っているのが南国とあたしと山口の 『 新生 チーム・ハイエナ 』 だけ、という日が2ヶ月以上続いていた。
いつも通りひと息つこうと、夜食を摂りがてら雑談を始めたのだが、山口があたしに向かって何の前触れもなくいきなり、「トルコ桔梗って今の季節に売ってる花?」と訊いてきた。

「売ってんじゃない?年がら年中売ってる気がする」
「夏目さん、花屋に行くことあるんだ」
「・・・・あるよ」 ←供花を買いに週2回ね、とは言わない
「家に花飾ったりしてるイメージないんだけど」
「ふうん」 ←仏壇に飾ってますが何か、とも言わない

南国が会話に加わった。

「山口。で、トルコ桔梗買って誰かにあげるわけ?」
「はい。あ、母親にですけど」
「へー!」
「来週末、母親の誕生日で。トルコ桔梗が好きらしいんで、プレゼントはそれにしようかなあと」
「俺、母親が好きな花なんて知らねえぞ」
「俺も知らなかったんですけど、GWに実家に帰ったとき、妹と母親がそんな話をしてたのが聞こえて。毎年、誕生日プレゼントを何にするか困るんで、「これだ!」と思ったんです」
「いい息子だなあ、お前」

天敵のいいところなんて知りたくないので(性格悪すぎ)、うっすらクサクサしながら話を聞いていると、南国がニヤけながらあたしに訊いてきやがった。

「お前、男から花貰ったことなんてある?ないだろ。貰っても喜ばなさそうだしなー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
会社の連中はどうしていつもあたしを悪キャラに設定するんだと思いながら黙っていると、南国と山口はあたしそっちのけで盛り上がり始めた。

「確かに喜ばなさそうですよね!」
「だろー」
「俺、夏目さんがキティちゃん好きだって知った時も意外でした」
「似合わないよなー」
「ええ。キティちゃん見ても、「ただの猫じゃん」とか言いそうなのに」
「そうそうそう!リラックマも「ぐうたらすんなや、このクマ!」って蹴り入れそうだし!」
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「あはははははは!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



深夜0時、いい歳した大人の男2人が、何故こんなネタで大笑いできるのかさっぱり判らんが、ここのところ3人揃って仕事漬けだから、ランナーズハイみたいなもんなんだろうか。
ただ、いつものことだがあたしは、周囲が自分のことで盛り上がれば盛り上がるほど気持ちが閉塞し無口になるため、大いにウケている2人をよそに黙々と食事を続けた。
なのに、今度は山口が重ねて訊いてきた。



「で、夏目さん、男から花貰ったことあるの?」



うるせーよと思いつつ、しかしそれはすぐにあたし自身の疑問となった。
「あれ?あたし、男から花を貰ったことなんてあったっけ?」という疑問に。



昭和から平成ヒトケタ前半迄のことは抜きにして、たとえば30歳以降、男性から花を貰ったことなどあっただろうかいや、ない。(即答)
付き合った男から花を貰った記憶もなけりゃ、意中の男性に花を貰った記憶もない。
それどころか、平成ヒトケタ後半には今の会社で働いていたから、餞別で花を貰ったことまでない。
若かりし頃のことは抜きにして、と前置きしたせいで、10代20代の頃はしょっちゅう花を貰っていたかのように読んだ人もいるかもしれないが、哀れなことにあたしの人生にモテ期は存在しないので、山口がお母さんにあげようとしてるような、心のこもった花を貰った記憶がない。



「ねえよ」
不機嫌100%な声であたしがそう答えると、深夜0時に上がった男たちのボルテージは最高潮になった。

山口 「そもそも夏目さん、花貰って喜ぶ人なの?」
夏目 「うん」
南国 「喜んでるフリするだけじゃなく、心底嬉しい?」
夏目 「うん」
二人 「えええええええーーーーーーーーーーーーーーー!」
夏目 「うるせー」
南国 「花貰って喜べない人も哀しいけど、喜ぶのに貰えないのはもっと哀しい!」
夏目 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
山口 「俺、あげようか?」
夏目 「・・・・結構です」
南国 「あ、お前の誕生日っていつ」
夏目 「だからいいっての」
山口 「誕生日に、夏目さんが好きな花、どーんとあげるよ!」
南国 「そうそう、社内でカンパ募って
夏目 「絶対要らない」
山口 「じゃあ俺ら2人であげるからっ」
夏目 「要らないっつってんだろーが」
南国 「やっぱ花は嬉しくないんじゃね?」
夏目 「そういうノリで花を貰って喜ぶ人いねえと思うけど」
山口 「そうかー」
南国 「つーか、ホントにないの?花貰ったこと。彼氏からじゃなくても」
山口 「百歩譲って家族からでもいいよ」
夏目 「ないなあ」
南国 「じゃあ千歩譲って!」
夏目 「譲ってくれなくていいんですけど」
南国 「サボテンでもいい!
山口 「盆栽も可!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
もはや、何でもアリである。
が、「サボテン」とか「盆栽」とか、鉢植えのものが挙げられた途端、ごく最近自分が男性から、鉢植えの花を貰ったことを思い出した。



「 あ 、 あ る 」



ここまで、何でなのかはよくわからんが、「サボテンでも盆栽でもいいから、花じゃなくて草でも木でもいいから、男から貰った経験アリで頼む!」と土下座する勢いで質問攻めにしていた南国と山口である。
あたしの「ある」という答えで安心してくれるかと思いきや、



「見栄はらなくていいって」 「嘘だ!」



と、言いやがる。

山口 「マジで?」
夏目 「うん」
南国 「ああ、麻雀仲間からだ」
夏目 「いや」
山口 「じゃあ誰。会社の人?お客さん?」
夏目 「違う。キミたちの知らない人」
南国 「飲み屋で隣合った人だ」
山口 「そうだ。だって夏目さん、仕事関係か雀荘か飲み屋でしか出会い無いもの」
夏目 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ←釣具屋と釣り場でもある!とは言わないほうが無難

その後も2人は、まるで犯人でも探すかのように、「○○(居酒屋)の親方じゃね?」とか、「いや、○○(定食屋)のおやじって可能性もありますよ」とか、あたしそっちのけで盛り上がっていたが、予定していた休憩時間が過ぎ、あたしが「仕事しろ」と声をかけると2人は、それまでの盛り上がりが嘘のように、黙ってガツガツと仕事を始めた。
この、どんなネタでも掴めば大いに盛り上がり、時間がくればピタっと話をやめるところが、彼らと一緒に仕事をしていてラクチンだと思うことのひとつである。



さて。
あたしが最近男性から鉢植えを貰ったという話に嘘偽りはない。
が、端折ってる部分を添えれば随分印象の違う話になる。
具体的には、ただの痛々しくて残念なお話しに成り下がる



あたしが最近男性から貰ったのは、鉢植えの日々草である。




(ちょっとカワイイ)



そして、この馴染み深い花をあたしにくれたのは。
長年被り続けていたベレー帽のようなヅラを1ヶ月前に脱いだ、今、我が家から半径300メートル圏内で最も潔く最も勇気ある男・近所のスーパーマーケットの店長(推定60歳)である。




(蕾が開く途中もカワイイ)



売り出し期間中に3,000円だか買うとお花をプレゼント、みたいな企画をやっていたのだが、そんなことを知らずにレジへ行き、1,300円くらいの買い物をしたあたしを見ていた店長が、「おまけだよ」と言いながらくれたのがコレだったのだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





視界がボヤけてるけど、泣いてなんかないやい。



南国と山口の求める答えとはまるっきり違うが、とにかく我が家に最近、長年被り続けていたベレー帽のようなヅラ・・・・(中略)・・・・の店長からおまけで貰った日々草が増えた。
ちなみに。
あたしが蒔いた日々草の種は、かろうじて4つ発芽したのだが成長が鈍く、






ワサワサと伸びポンポン咲いている、ヅラ店長の日々草の元気っぷりには遠く及ばない。






がんばれ、あたしの日々草。
ヅラ店長に負けるなよ。

とはいえ、あたしが蒔いたものより大ぶりな品種と思しきヅラ店長な日々草も枯れて貰っては困る。
できることなら種を採りたいからだ。
つうわけでこの週末は、ヅラ店長の日々草のふにゃふにゃなビニール製の鉢を、夏目父から分けて貰ったオッサンくさい陶器の鉢に植え替えた。




(before)




(after)



夏目父が聞く。

「また日々草?」
「うん。でも偶然」
「どういうこと?」
「○○(スーパーマーケット)で買い物したら貰ったの」
「へー」
「このあいだ、会社の人に「男から花貰ったことある?」って訊かれて」
「ぷっ」
「思いついたの、これだけだったよ」
「ぷぷぷっ」
「ヅラ店長から、オマケをオマケして貰った花だけなんて」
「我が娘のことながら、これだけモテないと面白いよ」
「あたしは少し悲しいよ」
「まあでも、そう悲観することでもないさ」
「なんでよ」
「だってヅラ店長」
「うん」
「お前と同じで」
「あ?」





「 バ ツ 無 し の 独 身 ら し い か ら 意 外 と ・ ・ ・ ・ 」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





何 が 言 い た い 、 我 が 親 よ 。





い 、 い や 、 や っ ぱ 、 そ の 先 は 勘 弁 。 マ ジ で 勘 弁 。





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 結っ構順位に変動あるものですなあ。特に11位から先。