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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



随分前、夏目父を初めて某ロックユニットのライブに連れて行った時のこと、ライブが終わると夏目父は、あたしとあたしの友人に向かってそれはそれは輝いた目で、「こんなにいっぺんに、感激して興奮して感動したのは人生で初めて!」と言った。
その言葉を聞いてあたしも友人も、夏目父を連れてきて良かったと心底思ったのだが、と同時に、孫がいる年齢になっても尚、人生で初めての経験をするチャンスがあるものなのだと、改めて気づかされた。
それから10余年が経ち、アラフォーとなった今のあたしも、経験していないことがまだまだ、まだまーだあるのだなあとつくづく考えさせられる出来事が、先日あった。



きっかけは、20年近く前に買ったこのコタツ布団である。






「実家の冬といえば炬燵にみかんだろー」と思っているにもかかわらず、我が家で大昔に買ったこのコタツ布団を4シーズンしか使っていないのは、例年、リビングのテーブルをコタツに替えるのを億劫がっているうちに冬が終わってしまっているからというグダグダな理由なのだが、一応毎年シーズン前になると押し入れからコタツ布団を出して干してみたり、まともに使った後はクリーニングに出してはいた。
ただそうしたところで、経年によるものであろう埃っぽさや古さを感じる匂いは消えてくれず、今年の春先、何年かぶりにコタツにかけていたこの布団を外した時には、「捨てちゃおうかな」とさえ思ったくらいだった。
ただ、今回も入れて4シーズンである。
いくらで買ったのかも、一般的なコタツ布団の耐久年数がどのくらいなのかも知らないが、「たった4シーズン」という気がしまくりで、だからこのコタツ布団をどうにかスッキリさせたいと思うに至ったのだった。

さて。
この手の物をスッキリさせるといえばやはり丸洗いである。
そして出来ることなら。
仕上がりはクリーニング店のそれではなく、たとえるなら、家で綿のシーツを洗い真夏の太陽の下に干した時のような、



スーパースペシャルにスッキリ仕上げたい。



そうなると一番いいのは自分ちの洗濯機で洗えることなのだが、我が家の洗濯機はコタツ布団よりも前に、少なく見積もっても21年前に買った4.2リットルキロサイズのため、コタツ布団はおろか、シングルの毛布1枚でいっぱいいっぱいだ。
風呂場の浴槽にお湯をためて・・・・という方法も一瞬頭を過ぎりはしたが、脳内シミュレーションし始めてすぐに気が遠くなったため、これは早々に諦めた。
で、結局あたしが選んだのは、コインランドリー。
ボロだろうと何だろうと常に洗濯機のある暮らしをしていたあたしが縁が無いと思い込んでいた場所であり、20年生きてきて初めて立ち入る場所でもある。
#激しく歳をサバ読みたい年頃のオバさんです。突っ込まないでやってください。



そうと決まればあとは行動あるのみ。
カーっと晴れて気温が高い日に決行することとし、それまでの間、家から行きやすくて綺麗なコインランドリーを探さねば!と意気込んでみると、縁が無い場所だと思い込んでいた時は気づきもしなかったのだが、家から徒歩5分の場所にある、いつも行っているクリーニング屋に隣接してコインランドリーが出来ていたことを思い出したのだった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





しょっちゅう見てんだろーが。覚えとけよ、あたし。



というわけで。
ミミズも乾涸びるくらい晴れた日、 朝6時台から準備を始めた。






せっかくだから(と言っても徒歩5分)、家の洗濯機じゃイマイチ洗いきれてない感が漂っていたダブルサイズの毛布も洗うことに決め、






運びやすいように、何の違和感もなしにそれらを風呂敷で包んだ。






これを玄関まで運んでいる最中に起きてきた夏目父が、






「夜逃げスか?」とか(朝だし)、「こんな暑い日によくもまあそんな大仕事を」とか言っているのは聞き流し、でも、背中越しに聞いた、「不審者だと思われるから車で行きなよ」という言葉にはなんとなく従うことにし、徒歩5分のコインランドリーに車で向かった。

コインランドリーに着いたのは朝6時55分。
こんなにこっ早く行動を開始したのには、あたしなりの理由がいくつかあるのだが、一番大きな理由は、事前に数回偵察してみたところ、かなり早い時間から6機ある洗濯機が全て使用中になっているらしいと判明したからで、つまりあたしは、朝7時のオープンと同時に入り、洗濯機も乾燥機も順番待ち無しで済まそうと目論んでいたのだった。
が、甘かった。

コインランドリーの入り口には、オープン前だというのに既に大きな荷物を持った人が4人も並んでいた。
1番目は推定腹囲130cmなおじさん、2番目は孫と思しき男の子を連れたおばあさん、3番目はサッカーのらしい泥だらけのユニフォームを手にした20代男性、そして4番目は、背が高く背筋が真っ直ぐでイマドキ珍しいほど真っ黒い髪を短く揃えた推定30前後のメガネ男子である。

コインランドリーのドアを解錠するのは隣接するクリーニング店の人らしく、見慣れたおばさんに挨拶をしながらデカい風呂敷包みを持ってコインランドリーに入ると、おじさんが2機、おばあさんが2機の洗濯機を使い始めてしまったため、既にあたしが使える洗濯機はなかった。
かといって、その場を離れるわけにもいかないので、洗濯が終わるまでの間に読もうと思って持ってきた本を読みながら待つことにした。






ササリー無しで夏を越せない身体になった)



当たり前っちゃ当たり前の話だが、全6機の中で一番先に空いたのは、1番目に並んでいた、推定腹囲130cmなおじさんが使った2機である。
が。
あまりに一方的で失礼だということを承知で書くと。



おじさんがトランクスを洗った直後の洗濯機で洗った布団は綺麗・・・・?



なんつうことを考えてしまったからさあ大変。
空いている洗濯機の前で約1分、どうしたものかと考え込むはめになってしまった。
「そんなことを考えるヤツはコインランドリーなんか使うんじゃねえ」と自分で自分にツッコミを入れては見るものの、何しろトランクスである。
じゃあ、おばあさんが入れていた、3世代分はあろうかという量の洗濯物の後ならいいかといえばそうでもないし、泥だらけのユニフォームの後がいいわけでも勿論ない。
一番いいのは、「前に誰がどんな物を洗ったか?」を想像させないシチュエーションだったが、5番目になってからそんなことを言ったところでどうにもならない。
で。



今日洗うのは止めよう、と思った。
(マジで)



が。
2機の洗濯機の間で途方に暮れているあたしの目の前に、すぅーっと長い指が現れた。
そして横から、「これを押すと随分気持ち変わりますよ」という声が聞こえた。
声の主を見やるとそこには4番目が立っていて、長い指が示した先には、黒いボタンがあった。






「ちょっと潔癖入ってるとキビシイんですよね」と4番目は言った。
汚部屋住人であるあたしが潔癖なハズは勿論ないが、見知らぬ人と洗濯機を共有することに対する小さな違和感は、4番目が教えてくれたこのボタンを押すことで消えそうな気がした。

「ありがとうございます」
「いえいえ」

なんつう会話をしながら洗濯機にコタツ布団と風呂敷を突っ込み、フタを閉めてコインを入れた。
すると4番目が「あっ!!!!!」と言う。

「え?」
「あっ・・・・えーっと」
「はい?」
ドラム洗浄ボタンは、フタを閉めた後、コインを入れる前に押さないと効きません
「え゛っ」
「残念ながら、一度入れたコインは戻りませんからやり直しは出来ません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・残念です」
「じ、次回頑張ってください」




(17キロまで洗える洗濯機は1回600円)



そ、そうだ。
あたしにはもう1枚毛布があるのだ。
容量的には、17キロまで洗える洗濯機1機でコタツ布団とダブルの毛布を一緒に洗えるらしかったが、せっかく丸洗いできるのだからここは贅沢に、たくさんのお湯で少しの物をぐるんぐるんしたくて、敢えて別々に洗おうと決めていたのだ。
おじさんが使っていた、1機目よりは容量の小さい洗濯機に毛布を入れフタを閉めた。
で、また。



ドラム洗浄ボタンを押す前にコインを入れた。
(学習機能が無いらしい)






(13キロまで洗える洗濯機は1回500円)



が、洗剤まみれになって大きくぐるんぐるん回るコタツ布団や毛布を見ていたら、コインランドリーのシステムに抱いていた僅かな違和感みたいなものが吹っ飛んだ。
そうそう、こんなふうにぐるんぐるん洗いたかったんだ、ずっと。

洗濯を終え、次は乾燥。
脱水したままのコタツ布団を持って帰るには重すぎるし、たとえそのまま持ち帰って家で干せたとしても、にわか雨でも降ったらお終いなわけで。
ある程度のところまでは乾燥機を使いましょう。そうしましょう。



2サイズある洗濯機のうち、デカいほうに書かれていた説明文をみると、コタツ布団は1枚が適量だとはっきり書いてある。






が。
家に乾燥機がないせいか、ピーカンの日、濡れたモンを乾かすのに何百円も使う気にはどうしてもなれず、









300円(=18分)だけ入れて乾燥開始。
(ケチ)





しかも。





適量以上だと判りつつ、コタツ布団と毛布を一緒に入れて乾燥開始。
(ドケチ)








このドケチっぷりが致命傷になるかもとうっすら怯えつつ18分後に乾燥機のフタを開けてみたが、幸い、毛布もコタツ布団にも、水分の重みはまったく感じられなかった。
ホクホクした気分でそれらを取り出し、一緒に乾燥させていた風呂敷に包むと、何をどんだけせっせと洗っているのか未だ居た4番目の潔癖青年にお礼を言った。
潔癖青年が静かに言った、「でも、2回目も残念なことになってましたよね」という言葉にも全くメゲず帰宅して、人生初のコインランドリー体験は終了した。


大仕事を終えた気になって帰宅したものの、この時点でまだ午前8時半。
日当たりのいい南側のベランダに、洗いたてのコタツ布団と毛布を干し、それはもうカラッカラに乾燥させた。










プロがやるクリーニングには勿論それ相応の技術が施されているのだろうが、洗濯機でぐるんぐるん洗い、お日様の下で干した時の風合いとは確実に違う仕上がりだ。
どっちが手間だとかラクだとかどっちが高いとか安いとかいうんではなく、もっと単純に好みの問題で、多分あたしはこれからもコタツ布団はコインランドリーで洗うんじゃないかと思っている。



午後になり、カラッカラでふっかふかに乾いたコタツ布団と毛布を取り込んだ。
すると、それを触って匂いを嗅いだ夏目父が言った。

「あー、お日様の匂いがして気持ちいいねえ」

そうだろそうだろ。

「行ったことないけど、コインランドリーって綺麗なの?」

新しくできたばっかのところだから、洗濯機も乾燥機も備品も、みんな綺麗だったよ。

「じゃあさ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
嫌な予感がした。
ちなみに、あたしのこの予感は外れたことがない。



案の定夏目父は、「納豆買ってきて」くらい軽ーい感じで言った。





「 来 週 は 俺 の 毛 布 を 洗 う ん だ ね 」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





人 の 予 定 を 勝 手 に 決 め ん な 。





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 本業が一段落したので、ようやくブログも本格復帰でーす。