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片付けられない女魂     Amazon
(扶桑社 / 全503頁 / 書き下ろしアリ)



(4畳半ヤニ掃除記事の途中ですが、割り込んで草の話です)



暑さに滅法弱い夏目父が南側のベランダで植物を育てるのに、この冷夏は都合が良かった。
朝晩せっせとベランダに出て、(ヤカンがないのでバケツで)水や肥料を遣ったり、アブラムシ対策にとオルトランを過剰に撒いたりしている。

(だから食える物は育てない)

これがもし猛暑だったら、暑さに勝とうとする意欲がない夏目父はいつも通り、野菜室並みに冷やした屋内に篭り、ベランダの鉢植えを片っ端から枯らしていただろう。
が、あたしにとっては枯れてしまったほうが面倒がない。
なぜなら、草花が順調に育った年の夏目父は、「見て!花芽が出た!」「見て見て!花が咲いた!」「肥料買ってきて」「植え替えしたいんだけど、鉢底に敷く網、どこにやったっけ?」「種か虫かわかんないから触れない!」「ぎゃー!アブラムシ!」と、とにかくやかましいからだ。
この夏の夏目父はいつも以上に騒々しい。
原因は、枯れたと思っていた植物が復活したせいである。



15年は前からあるのに一度も花が咲いたことがなかったから、あたしにとってそれはただの観葉植物だった。
夏目父が大事にするあまり室内に置いてしまうせいで花芽がつかない、という可哀想な境遇で育てられたせいか、葉の色も薄く厚みもなくてひ弱な観葉植物ではあったが、それでもなんとか生き続けていた。
が、今年の2月初旬、突然葉が枯れ始め、みるみるうちにそれは蔓だけになってしまったのだった。
ひょろひょろ伸びた蔓だけが残った鉢は寒々しく、「残念だったね」とか何とか言いながらその鉢をベランダに出したのが3月のこと。
そして、見紛う事なき枯れ木だったそれが芽吹き始めたのはGW直前だった。



それを喜んでいるだけなら問題はないのだが、夏目父は草花に限って、「見て!見て!」とウルサイ。
しかも。



「復活しそうなんだよ!」
「ほう」
「見てみてよ」
「いいよ」
「えー、見てみてよー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「見っ!てっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」



という具合に、幼児よりシツコイ。



あたしが頑として「見ない」と言ったところで夏目父の「見て見て」が止むことはないため、言われるがままに見に行くはめになる。



「芽が出た!見てみて!」
「はいよ」 ←てめぇひとりで楽しめや、と思っている

「芽が伸びた!」
「ほう」 ←昨日見たのと同じ芽だろーが、と思っている

「別のとこからまた芽が出た!」
「どれどれ」 ←葉っぱの数だけ呼ぶつもりかよ、と思っている

「花芽かもしれない!」
「いよいよか」 ←花がひとつしか咲きませんよーに、と願っている

「花芽だ!」
「やっぱり」 ←昨日と全然変化ねーし、と思っている

「花芽だ!」
「おう」 ←今朝見たばっかだけどなっ、と思っている

「蕾!蕾!」
「へー」 ←咲いてから呼べや、ごるぁ!と思っている



こうしてこの4ヶ月、あたしが泥酔していない限り1日1回、ともすれば2回、下手すると3回は呼ばれて、1つの植物の成長を見せられた。(多い)

気温が低いだけじゃなく、どんより曇ることが多かった我が街では日照不足が深刻らしいが、遮るものが何もない南側のベランダでは、マメに手入れしたこともあって花がジャンジャン咲いていた。
そしてとうとう件の花が咲き始めたのは7月中旬、具体的には7月14日のことだった。










源平蔓(ゲンペイカズラ)というらしい。
綺麗だし、あんま見たことがない花ではあるけれど、4ヶ月もわーわー騒ぐほどのことか?というのが、あたしの正直な感想だ。
つうかそもそも。



「白と赤の花が咲く蔓(ツル)草だから「源平蔓」」
「へ?」
「え。もしかしてうちの娘は「源平合戦」も知らないとか・・・・?」
「昔話?」
「それは、猿カニ合戦」
「ああ・・・・」
「じゃあなんで、運動会で赤組と白組に分かれると思ってたのさ」
「め、めでたいから」
「・・・・おめでたいのはお前だよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さて、それでは問題です。源氏と平氏、どっちが赤でどっちが白でしょうか」
「へ?」
「正解する確率は50%です」
「じゃあ、源氏が赤」
「・・・・勘まで悪いな。気を取りなおして2問目!」
「もういいです」
(無視して)「源氏は白、平氏は赤が正解ですが、その白と赤は、何の色でしょうか」
「は?」
「大ヒントです。源氏は白の、平氏は赤の何かを持っていました。それは何!」
「判りません」
「考えて!」
「うーーーーーん」
「あと10秒!9、8、7・・・・」
「あっ・・・・」
「おお!さあ、答えをどぉぞっ!」





「 ふ ん ど し ? 」
(註:真剣です。が、正解は「旗」)





つうくらい歴史音痴のアホ娘を相手に、名前の由来から語ったところで何が楽しいんだ。
あたしに名誉というものがあるのかは甚だ疑問だが、あるという前提で一言加えると。
あたしは歴史だけじゃなく社会科全般と国語全般にアホだが、でもそれは大昔からなので、いい加減、「そんなことも知らないなんてありえねー」的ことを親に言われるのは飽きた。
ついでに。
上司や同僚にもこの手の問題を出されることがあるが、どうせ9割9分ハズレるのだから、もうそろそろ、哀れんだ目で見るのはやめてほしい。



さて。
こんな具合に、冷夏&一鉢の花で夏目父は毎日テンションMAXなのだが、この夏の日照不足はあたしにとっては深刻な悩みだ。
というのも。
4畳半の部屋から繋がる小さいベランダで種から育てている日々草の生育状態がすこぶる悪いからだ。



まあ、別に日々草が咲かなかったところで大したダメージはないから、「深刻な悩み」というのは大げさだが、「こっちのベランダで俺が育ててるのはガンガン咲いてるけどお前のはどうよ?」と、上から目線で頻繁に訊いてくる夏目父が鬱陶しくて仕方ない。(鬼娘)

(註:我が家では、リビングを含む南向きの部屋は全て夏目父が使い、北側にある2つの部屋(4畳半&8畳)をあたしが使っている)

あたしが北側のベランダに出るのはタバコを吸うためなのだが、その直後にリビングに行くと当然あたしからはタバコの臭いがする。
すると夏目父は必ず訊くのだ。
「日々草、咲いた?」と。




(左:蒔いた種から発芽。右:ヅラ店長からの頂き物)



「咲いてるよ」
「ヅラ店長じゃないほうだよ」




(これだって源平カラー。なのに名前は「ヅラ店長」)



「咲いてない」
「お盆も過ぎたのにね」
「うん」

で、この会話の最後に必ず言うのだ。



「 南 軍 の 勝 ち だ な 」 と 。
(南側使用の夏目父=南軍、北側使用のあたし=北軍)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
つーか競ってねーし。
・・・・と言いたいのは山々だが、それを言ったところで、「じゃあこれから競おう」と言い始めるに決まっているから、何度聞いたか判らないその言葉には一度も反応せずにいる。
で、数日前。
いつものように北側のベランダでタバコを吸いながら日々草を眺めていて気がついた。




(花芽キター!)



それからの数日は、ヅラ店長の日々草のようにわっさわっさと花が咲く様を思い描き、ワクワクしながら成長を見続けた。
が、先日。
ようやく開いた花を見て、なんとも複雑な心境になった。




(小さ)




(1個ぽっち)



もちろんその日も夏目父は訊いてきた。

「そろそろ咲いた?」

少し迷ったが、答えた。

「うん。1個だけポツっと」
「おお!じゃあ見てあげましょう見てあげましょう」

・・・・「見て」なんて頼んじゃいねえんだが。

夏目父はパタパタと4畳半へ行き、すぐリビングへ戻ってきた。
そして言った。

「ちっちゃいね」
「うん」
「でも咲いてよかったね」
「まあね」
「絶対咲いてよかったよ!!!!!」

それにしても夏目父は、話が草花のことになると、どうしてこうも暑苦しいのだろう。
が、ふと、いつもの暑苦しさとは質が違うような気がして、先を促した。

「随分力説するね」
「だって!」
「はあ」





「華がない人生なのに、育てた花まで咲かないなんて可哀想だもん」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





その、「今俺すげー上手い事言った!」みたいな顔、やめれ。





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