BOOK INFOMATION
(腕力自慢話の時間ですが、予定を変更してお送りします)
1ヶ月に1回くらい、平日の夜にあたしが夏目父よりも早く帰宅することがある。
で、あたしがリビングにいると夏目父は、帰宅してリビングのドアを開けた途端、驚いてピョンと飛び上がる。
先に帰ったあたしが自分の部屋にいたとしても、後から帰宅した夏目父がいるリビングのドアを開けると、ピョンと飛び上がる。
時には「ギャッ!」と声をあげたりもする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
もう14年も2人で暮らしているのだから、家に帰ってあたしがいることにいちいち驚かないで欲しいのだが、夏目父曰く、「驚くなって言われても、自分が帰った時に誰もいないのが当たり前になってるから、自然に体が反応しちゃうんだよ」だそう。
そうですかそうですか。(棒読みで)
それにしても。
リアクションって個性が出るなあと思う。
少なくともあたしは、家で何かに驚いてピョンと飛び上がった記憶などないし、ましてや「ギャッ!」なんて、大人になってからは一度もない。
そもそも、心底驚くこと自体が年々減ってきているから、自分がどんな驚き方をするのかを、すっかり忘れてしまった。
きゃっ♪だっけ?(絶対違う)
ギョギョッ!だっけ?(それはさかなクン)
オヨヨか?(それは三枝。しかも昭和)


・・・・なんつうしょーもないことを深く考え込んでいたわけでは勿論ないが、夕べ遅くのこと、久しぶりに、思いっきり驚く出来事があった。
23時ちょい前に帰宅し、玄関から真っ直ぐにリビングに行った。
あたしが「ただいま」と言うと、夏目父は何やらピリピリした様子。
「遅ーい!」
「へ?」
「お客さんきてるのに帰りが遅い!」
「は?」
「お友達。最初は玄関で待ってて貰ったんだけど、いつ帰ってくるのかわかんないし申し訳ないから、部屋に入ってもらってるよ!」
「どの部屋に誰を」
「アナタの部屋に。お友達の名前は知りません」
「名前知らないのに家に入れるって何」
「だって俺、会ったことあるもん」
「それ、男?女?」
「まあ、部屋に行ってみりゃわかるよ」
「つうか布団敷きっぱなしなんですけど」
「うん」
「うん、じゃねえよ」
「いいから早くー。俺が帰ってきた時間からずっと待ってるんだから!」
「・・・・それ何時」
「7時半くらいかな」
聞き間違いかと思った。
何故なら、重ねて書くがあたしが帰宅したのは午後11時ちょい前だからである。
いくら顔見知りの友達だからって、フツー、家にあげたことのない他人を3時間半も、ひとりであたしの部屋に置いとくか?
夏目父がオカシイ人だということは嫌というほど知っているけれども、基本的に人と関わるのは好きだから、そんな常識外れな招き入れ方をするとは思ってもみなかった。
つうか。
いくらあたしが仕事だからってさ、電話するとかメールするとか、来客を報せる方法はあるだろーが。
それもせず、かといって客人の相手もせず、何でお前はリビングでのほほーんとテレビなど見てるんだ?
・・・などなど、我が親に小一時間説教したい衝動に駆られたが、それはいつでもできると思い直し、あたしは急いで自分の部屋へと向かった。
後ろから夏目父がついてきたが、それは大して気にしなかった。
その向こうにいるのが誰か判らない状態でドアを開けるのは、結構怖いものである。
だから、自分の部屋なのに恐る恐るドアを開けた。
で、ますますワケが判らなくなった。
なぜなら。
部屋には誰も居なかったからである。
「どういうこと?」と、真後ろに立っている夏目父に訊いた。
すると夏目父は、あたしが着ている上着を引っ張りながら、おすぎかピー子のような口調(どっちでも同じだ)で叫んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
真っ暗で誰もいない部屋を見て「ほら居るでしょ!お友達が!」と叫ぶ、 歳に不足がない我が親を想像してみて欲しい。
あたしはいろんな意味で怖くなり、今度は恐る恐る後ろを振り返った。
本格的にオツムが壊れてしまった可能性が高い夏目父は、それを裏付けるかのごとく、まるで何かに憑かれたような目で、部屋の中のある一点を凝視していた。
あたしは、もう一度部屋を見やり明かりをつけると、夏目父の視線が釘付けになっているであろう方向に目をやった。
すると、いた。
(注意:苦手という人が多いであろう系の画像が出ます)

(ブラインドの汚れっぷりを写したわけではありません)
(近づきます)

(体長3センチ程度の蛾です)

(ブラインドの汚れっぷりを写したわけではありません)
(近づきます)

(体長3センチ程度の蛾です)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
本人に確かめたわけではないが、確かめるまでもない。
夏目父がおすピーになるまでの経緯は多分こうである。
夏目父が帰宅して玄関のドアを開けたとき、外から蛾が入ってきてしまった。
異常なまでに虫嫌いの夏目父は大慌て。大暴れ。
で、意図的にかどうかは定かじゃないが、というかどっちでもいいが、勇気を出して娘の部屋のドアを開け、「しっ!しっ!」かなんかやったりやらなかったりしてみたら、運良く蛾は娘の部屋の中へ。
バタンとドアを閉めれば隔離終了。
ふぅ・・・・。
あとは娘の帰宅待ち。
うちの娘は虫なんて平気だし。
友達かよっ!っつうくらい平気だし。
・・・・みたいなカンジかと。
後から考えてみれば、確かに要領を得ない話ぶりだったし、玄関に並んだ靴を確認してさえいれば客人がいるのかどうかは一目瞭然だったハズで。
だから、「「友達」ってのを鵜呑みにしたあたしがド阿呆でした」ってことで話は終わるハズだった。
が、この後、思いもよらない夏目父の行動によって、あたしは思いっきり驚くことになる。
さて、夏目父があたしの部屋に招き入れたのが蛾だと判明したのだが、問題はその処遇である。
が、夏目父が相変わらずあたしの上着を力任せに引っ張っているから、部屋に入ろうにも入れない。
なので、「離してください」と言ってみた。
すると夏目父はおすピー度を増してしまい、「離したらどうする気っ!」と、まあ煩くて仕方ない。
「蛾を外に出すだけですが・・・・」
「どこから!」
「・・・・・・・・・・・窓から」
「どうしてティッシュで丸めてポイしないのっ!」
「丸めたティッシュ、どこに捨てりゃあいいわけ」
「・・・・あ」 ←虫の死骸入りティッシュが家の中にあるのもOUT
「だから殺さないで外に出すの」
「どうやって!」
「あ?」
「とまってる蛾をどうやって外に出すの!」
「どうやって?」
「そう!どうやって!」
「どうやってって、そりゃあ手で・・・・」
あたしがそう言ったときだった。
夏目父が、強く引っ張っていたあたしの上着から手を離した。
そして次の瞬間、後頭部に衝撃を感じた。
というか。
2 0 年 く ら い ぶ り に 、 親 に マ ジ で 叩 か れ ま し た 。
しかも。
ペシ、じゃなくバシッ!っと。
バシッ!っつうか、バコーン!と。
バコーン!っつうか、ズバコーン!と。
・・・・って、もういいですかそうですか。
言ってもきかない時にペシっとやる親ではあったけれど、まさかこの歳になって、悪くもないのに叩かれることになろうとは予想だにしなかった。
が、あたしが驚いたのは叩かれたことにではなく、蛾を素手で掴みかねない我が娘の後頭部を脊髄反射的に叩いてしまった己に驚いた夏目父の一言に、である。
「ひゃ・・・・」
「?」
「ひゃ・・・・!」
「??」
「 1 0 0 円 あ げ る か ら 今 の は 無 か っ た こ と に し て !」
(註:アラフォーの娘に言ってます)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
駄 賃 か 。
(註:アラフォーの娘に言ってます)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
駄 賃 か 。
4畳半のヤニ掃除を始めたはいいが、外から聞こえる猫の声に気を取られ、やる気が数分しか持続しないという日が続いた。
成猫の声ならまだ我慢もできるが、子猫の声が聞こえるともう堪らず、捕獲したい衝動に駆られ掃除どころじゃない。
とはいえ、声の主が野良とは限らない。
たとえ野良だったとしても、ヤニ掃除を始めた5月は毎日帰宅が翌日になっていた時期でもあり、子猫をかっさらってきたところで大した世話が出来るハズもなかった。
で、試しに、外の音を遮断するために窓を閉めきってみたのだが、ヤニ臭と洗剤臭が充満する超不健康そうな部屋が出来上がっただけで、しかも、暑い。
次に考えたのは耳栓だったが、掃除好きでもないあたしが、心逸る音もそうでない音も一切遮って挑んだところで、全然ちっとも楽しくないわけで。
そんな修行みたいな方法じゃなく、もっと楽しく、それでいてやる気を削がない術はないものかと考えた結果、わりとまともだと思ったのが、iPodで音楽を聴きながらの掃除である。
通勤時間が短いとか諸々の理由で、車の中でしかiPodで音楽を聴くことがないのだが、そういえば、カーオーディオに繋げているnano以外にも遊休iPodがあったハズ。
古い6GBのヤツだけど、使えるハズだよなあ、アレ。
が、好きな曲が詰め込まれたこれを聴きながら自分がノリノリで掃除する姿を想像してすぐ、iPod案は却下した。
何故なら、好きな曲を大音量で聴いていると、深夜だということも忘れ、窓を開け放った部屋でうっかり、大声で歌ってしまいそうだからである。
つまり。
近隣住民に迷惑をかけそうだからである。
・・・・で。
考えに考えて買ったのが、前回モザイク付きで載せたこれ。

モザイクを外すと、こんなモンが現れる。
やる気が出ない類のことをやらなくてはいけない時はPCかコンポでラジオを聴きながら、ということが多い。
一切の音をシャットアウトして集中するのは癪に障るし(鬼娘)、かといって好きな曲を聴けば、歌詞のワンフレーズにうっかり心を奪われてともすれば泣けてきたりするし(痛いヤツです)、だから自分に選曲する余地のないラジオが丁度いいのだ。
が、ポータブルラジオは持ってないし、もしそれを買ったとしても、4畳半での作業が終わったら用なしになるわけで。
「今後も使えるもの」で、利便性や費用対効果を考えた末に決めたのがコレだった。

「いくら気乗りしないからって、こんな仰々しいモン買わんでも」と言う人は大勢いるのだろうが、あたしの場合、誰のせいでもなく自分のせいで朽ちる寸前まで汚してしまった部屋を掃除するということは、こんなモンで気を紛らわせながらでないとやれないくらい気が滅入る作業だったから、結果的には、これでラジオや日テレNEWS24を聴きながらでないと続けられなかった気がしている。
何しろ4畳半は、カメラで写す以上に汚いのだ。
サッシ部分をひと撫ですれば、雑巾はこんなになるし、

窓ガラスに洗剤を吹き付ければ、カラメルカラーの液体が流れ落ちる。
しかも、サッシ周りの木製箇所だけでなく、アルミサッシにこびりついたヤニも、3、4回拭いたくらいじゃ完全に汚れは落ちてくれなくて、ハエ取り紙か?くらい汚れた部分をツルンと綺麗にするには随分時間がかかった。

(Before)

(After)
他、綺麗になりそうなのになかなかスッキリしなかったのが、窓に貼ってある「消防隊進入口」と書かれたステッカーで、あまりにメンドウなのでいっそのこと、ステッカーを剥がしてしまおうかと思ったくらいである。(建築基準法に抵触するので剥がしっぱなしにしてはいけません)
兎にも角にも。
ワイヤレスヘッドホンを買ってからというもの、どれだけ酷い汚れを見ても大きくはへこたれず(小さくはへこたれた)、戦闘時間もウルトラマンのカラータイマーを軽く越えられる(3分1秒以上なら越えた認定)ようになった。
そして。
その勢いでようやく、先延ばしにしていた物の撤去に取り掛かったのだった。

つうわけで。
腕 力 自 慢 話 に 続 く 。
近頃しばしば、「歳を重ねれば重ねるほど、苦手なことをせずに済むようになるのだなあ」と思わざるを得ない場面に出くわす。
「せずに済む」といってもいろいろある。
頑張って苦手を克服したり、長年嫌々やるうちに慣れて苦手意識がなくなったり、苦手だからと避けているうちに他の人がやってくれるようになったりするならいいのだろうけど、あたしのように、避けたところで誰もやってくれないけどまあいいかと思うようになるのは、全然良いことではない。
しかも、片付けや掃除というのは、「やらなくてもいいこと」では決してないわけで、そういうことに意欲が湧かないのは考えものだ。
さて、話は5月に遡る。
遡り過ぎというか書かなさ過ぎだけども、それは気にせず遡る。
4畳半のリフォームをする前に掃除をすることに決めてからは、雑巾とバケツを持って4畳半に籠もる毎日が始まった。
連日帰宅が遅かったこともあり、タバコを吸うために4畳半に行くついでに掃除をすることに。
つまり。
ヤニ吸うついでにヤニ掃除。
タバコはベランダに出て吸っているから室内のヤニが増えることはないのだけれど、なんだか物凄くアホなことをやっている気がしてならない。
それと。
目の前に拭きやすそうな汚いものがあるのに、それが拭かなくていいところだっていうのが何とも歯がゆい。

(壁紙は剥がすので拭くだけ無駄)
かといって、やがて剥がす壁紙を拭く気はサラサラないので、まずはヤニ被害の少ないドア側から、壁紙以外を拭くことにした。

(被害が少ないとはいえ、真っ白に見える箇所を撫でると)

(やっぱりヤニ)
ドア付近で最も汚かったのが、蝶番側。

(画像右側に注目)
隙間を通り抜けようとした土埃と埃とヤニが混じり、不気味ワールドを創造している。

が、ここみたいに、洗剤をつけた雑巾で拭いて真っ白になる箇所はまだいい。


(あらひどい)
どれだけゴシゴシ拭こうとも、どうしても真っ白にはならないのである。

(ぼんやりヤニカラー。ぼんやりカーテンレール痕)
長年燻しまくり長年放置していたんだもの、多少なりとも汚れが残るのは当たり前っちゃあ当たり前なのだが、ドア側を拭いてスッキリ感を味わってしまったせいで、この中途半端な汚れの落ち方が、どうにもこうにも面白くない。
つうか。
やる気が萎える。
(早い)
(早い)
加えて、暑くなりつつある季節、音の鳴るものが何もない部屋で常に窓を開けて、集中力なく掃除してるもんだから、

外から聞こえる音が気になって仕方ない。
具体的には、
どこからか聞こえてくる子猫の鳴き声が気になって仕方ない。
小さく聞こえる「みゃー」という声に耳を澄まして拭く手を止め、ベランダに出て暗闇に目を凝らし、声の主を見つけられずに部屋に戻って拭き掃除を再開するも、今度は親猫らしき「にゃー」という声に反応し、足音を忍ばせてベランダに出てじっと下を見る。
どれだけ目を凝らしたところで、マンションの4階から、真っ暗な地面のどこかにいるであろう猫の姿を見つけられるハズもないのに、だ。
あげく、拭き掃除をしている時間より、暗闇を見てアレコレ考えをめぐらす時間の方が長くなる。
あ。
このあいだ、マンションの駐車場で見かけたキジトラが親か?
それとも、我が家の自堕落番長が一目ぼれしそうなあの茶トラ?
いや、そういえばこのあいだ、向かいの家の庭を横切る、真っ白いのも見たな。
あれ、メスっぽかったよな。
あの真っ白いのなら、暗闇にいても見えそうじゃね?
子猫、何匹いるんだろ。
つうか野良?それとも、どこかの家の飼い猫?
・・・・という具合に。
つまり。
猫の一声であっさり切れる程、掃除に対する集中力がない。
窓を閉めてやることも考えたが、徐々に気温が高くなっている時期でもあった。
あたしには、閉め切った部屋で、夜中に汗だくでヤニ掃除するほどの情熱もなけりゃ、部屋に充満するヤニ臭+洗剤臭を我慢できるほどの根性もない。
なのに、面白くもなんともない掃除をとっとと終わらせて次の工程に取り掛かりたい気持ちだけは強いもんだから、自ずと、集中力のない自分に苛々してくる。
そんな、無駄にイラつく夜が、冗談ではなく本当に10日以上続いた。
が、いよいよ4畳半に入る用事のメインが「暗闇見物」になった頃、あたしは、面白くないこと(=掃除)に比較的集中できるあたしなりの方法を思いついた。
で、早速。
それを実践するのに必要な、でも、掃除には全く関係のないブツを購入。

(1万円ちょいの何か)
結論から言えば、このブツによって4畳半の掃除が格段に捗ることになったのである。
(まだまだ続きます)
(4畳半ヤニ掃除記事の途中ですが、割り込んで草の話です)
暑さに滅法弱い夏目父が南側のベランダで植物を育てるのに、この冷夏は都合が良かった。
朝晩せっせとベランダに出て、(ヤカンがないのでバケツで)水や肥料を遣ったり、アブラムシ対策にとオルトランを過剰に撒いたりしている。

これがもし猛暑だったら、暑さに勝とうとする意欲がない夏目父はいつも通り、野菜室並みに冷やした屋内に篭り、ベランダの鉢植えを片っ端から枯らしていただろう。
が、あたしにとっては枯れてしまったほうが面倒がない。
なぜなら、草花が順調に育った年の夏目父は、「見て!花芽が出た!」「見て見て!花が咲いた!」「肥料買ってきて」「植え替えしたいんだけど、鉢底に敷く網、どこにやったっけ?」「種か虫かわかんないから触れない!」「ぎゃー!アブラムシ!」と、とにかくやかましいからだ。
この夏の夏目父はいつも以上に騒々しい。
原因は、枯れたと思っていた植物が復活したせいである。
15年は前からあるのに一度も花が咲いたことがなかったから、あたしにとってそれはただの観葉植物だった。
夏目父が大事にするあまり室内に置いてしまうせいで花芽がつかない、という可哀想な境遇で育てられたせいか、葉の色も薄く厚みもなくてひ弱な観葉植物ではあったが、それでもなんとか生き続けていた。
が、今年の2月初旬、突然葉が枯れ始め、みるみるうちにそれは蔓だけになってしまったのだった。
ひょろひょろ伸びた蔓だけが残った鉢は寒々しく、「残念だったね」とか何とか言いながらその鉢をベランダに出したのが3月のこと。
そして、見紛う事なき枯れ木だったそれが芽吹き始めたのはGW直前だった。
それを喜んでいるだけなら問題はないのだが、夏目父は草花に限って、「見て!見て!」とウルサイ。
しかも。
「復活しそうなんだよ!」
「ほう」
「見てみてよ」
「いいよ」
「えー、見てみてよー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「見っ!てっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
という具合に、幼児よりシツコイ。
あたしが頑として「見ない」と言ったところで夏目父の「見て見て」が止むことはないため、言われるがままに見に行くはめになる。
「芽が出た!見てみて!」
「はいよ」 ←てめぇひとりで楽しめや、と思っている
「芽が伸びた!」
「ほう」 ←昨日見たのと同じ芽だろーが、と思っている
「別のとこからまた芽が出た!」
「どれどれ」 ←葉っぱの数だけ呼ぶつもりかよ、と思っている
「花芽かもしれない!」
「いよいよか」 ←花がひとつしか咲きませんよーに、と願っている
「花芽だ!」
「やっぱり」 ←昨日と全然変化ねーし、と思っている
「花芽だ!」
「おう」 ←今朝見たばっかだけどなっ、と思っている
「蕾!蕾!」
「へー」 ←咲いてから呼べや、ごるぁ!と思っている
こうしてこの4ヶ月、あたしが泥酔していない限り1日1回、ともすれば2回、下手すると3回は呼ばれて、1つの植物の成長を見せられた。(多い)
気温が低いだけじゃなく、どんより曇ることが多かった我が街では日照不足が深刻らしいが、遮るものが何もない南側のベランダでは、マメに手入れしたこともあって花がジャンジャン咲いていた。
そしてとうとう件の花が咲き始めたのは7月中旬、具体的には7月14日のことだった。


源平蔓(ゲンペイカズラ)というらしい。
綺麗だし、あんま見たことがない花ではあるけれど、4ヶ月もわーわー騒ぐほどのことか?というのが、あたしの正直な感想だ。
つうかそもそも。
「白と赤の花が咲く蔓(ツル)草だから「源平蔓」」
「へ?」
「え。もしかしてうちの娘は「源平合戦」も知らないとか・・・・?」
「昔話?」
「それは、猿カニ合戦」
「ああ・・・・」
「じゃあなんで、運動会で赤組と白組に分かれると思ってたのさ」
「め、めでたいから」
「・・・・おめでたいのはお前だよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さて、それでは問題です。源氏と平氏、どっちが赤でどっちが白でしょうか」
「へ?」
「正解する確率は50%です」
「じゃあ、源氏が赤」
「・・・・勘まで悪いな。気を取りなおして2問目!」
「もういいです」
(無視して)「源氏は白、平氏は赤が正解ですが、その白と赤は、何の色でしょうか」
「は?」
「大ヒントです。源氏は白の、平氏は赤の何かを持っていました。それは何!」
「判りません」
「考えて!」
「うーーーーーん」
「あと10秒!9、8、7・・・・」
「あっ・・・・」
「おお!さあ、答えをどぉぞっ!」
「 ふ ん ど し ? 」
(註:真剣です。が、正解は「旗」)
(註:真剣です。が、正解は「旗」)
つうくらい歴史音痴のアホ娘を相手に、名前の由来から語ったところで何が楽しいんだ。
あたしに名誉というものがあるのかは甚だ疑問だが、あるという前提で一言加えると。
あたしは歴史だけじゃなく社会科全般と国語全般にアホだが、でもそれは大昔からなので、いい加減、「そんなことも知らないなんてありえねー」的ことを親に言われるのは飽きた。
ついでに。
上司や同僚にもこの手の問題を出されることがあるが、どうせ9割9分ハズレるのだから、もうそろそろ、哀れんだ目で見るのはやめてほしい。
さて。
こんな具合に、冷夏&一鉢の花で夏目父は毎日テンションMAXなのだが、この夏の日照不足はあたしにとっては深刻な悩みだ。
というのも。
4畳半の部屋から繋がる小さいベランダで種から育てている日々草の生育状態がすこぶる悪いからだ。
まあ、別に日々草が咲かなかったところで大したダメージはないから、「深刻な悩み」というのは大げさだが、「こっちのベランダで俺が育ててるのはガンガン咲いてるけどお前のはどうよ?」と、上から目線で頻繁に訊いてくる夏目父が鬱陶しくて仕方ない。(鬼娘)
(註:我が家では、リビングを含む南向きの部屋は全て夏目父が使い、北側にある2つの部屋(4畳半&8畳)をあたしが使っている)
あたしが北側のベランダに出るのはタバコを吸うためなのだが、その直後にリビングに行くと当然あたしからはタバコの臭いがする。
すると夏目父は必ず訊くのだ。
「日々草、咲いた?」と。

(左:蒔いた種から発芽。右:ヅラ店長からの頂き物)
「咲いてるよ」
「ヅラ店長じゃないほうだよ」

(これだって源平カラー。なのに名前は「ヅラ店長」)
「咲いてない」
「お盆も過ぎたのにね」
「うん」
で、この会話の最後に必ず言うのだ。
「 南 軍 の 勝 ち だ な 」 と 。
(南側使用の夏目父=南軍、北側使用のあたし=北軍)
(南側使用の夏目父=南軍、北側使用のあたし=北軍)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
つーか競ってねーし。
・・・・と言いたいのは山々だが、それを言ったところで、「じゃあこれから競おう」と言い始めるに決まっているから、何度聞いたか判らないその言葉には一度も反応せずにいる。
で、数日前。
いつものように北側のベランダでタバコを吸いながら日々草を眺めていて気がついた。

(花芽キター!)
それからの数日は、ヅラ店長の日々草のようにわっさわっさと花が咲く様を思い描き、ワクワクしながら成長を見続けた。
が、先日。
ようやく開いた花を見て、なんとも複雑な心境になった。

(小さ)

(1個ぽっち)
もちろんその日も夏目父は訊いてきた。
「そろそろ咲いた?」
少し迷ったが、答えた。
「うん。1個だけポツっと」
「おお!じゃあ見てあげましょう見てあげましょう」
・・・・「見て」なんて頼んじゃいねえんだが。
夏目父はパタパタと4畳半へ行き、すぐリビングへ戻ってきた。
そして言った。
「ちっちゃいね」
「うん」
「でも咲いてよかったね」
「まあね」
「絶対咲いてよかったよ!!!!!」
それにしても夏目父は、話が草花のことになると、どうしてこうも暑苦しいのだろう。
が、ふと、いつもの暑苦しさとは質が違うような気がして、先を促した。
「随分力説するね」
「だって!」
「はあ」
「華がない人生なのに、育てた花まで咲かないなんて可哀想だもん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
その、「今俺すげー上手い事言った!」みたいな顔、やめれ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
その、「今俺すげー上手い事言った!」みたいな顔、やめれ。
会社勤めを始めてすぐの頃に、上司だったか先輩だったか新人研修の講師だったかに言われた、「次工程を意識して仕事をしろ」という言葉を未だに覚えている。
誰に言われたか覚えてないくらいだから、どんなシチュエーションだったかもさっぱり思い出せないのだが、誰かが言ったこの言葉はその後、あたしが配属された部署の仕事訓となった。
この言葉が意図するのは、たとえば書類の整理ひとつとっても、「自分は常に指サックをしているから少々バラついてても全然平気」という考えではなく、自分以外の誰かが見るであろうことを意識して、誰もがページを捲りやすいように、目的の書類を見つけやすいようにということを考えてファイリングする、みたいな、とても普通で簡単なことだった。

まあ最近は、雑にファイリングし、「捲りづらいなあ」と言う人には得意げに「指サックすればいいんスよ」と指南して「イイ事知ってる俺サイコー!」みたいな顔をする人が居そうだが、当時いた会社でそんな勘違いっぷりを披露したもんなら先輩に、「なんであたしがアンタのルールに従わないといけないわけ?」と凄まれた。
怖くて厳しくて優しい人だったよなあ、若月さん。(遠い遠い目)
懐かしいなあ、若月さん。
・・・・って、まあ、
ほ ん の 3 年 前 の こ と だ け ど 。
(註:激しく歳をサバよむ俺。アラフォー、独身、彼氏なし)
(註:激しく歳をサバよむ俺。アラフォー、独身、彼氏なし)
ちなみに当時、「「次工程を意識して」って言われても、ついこのあいだ入社したばかりの私達は次工程でどうなるか知らないので意識しようがありません」と言ってのけた同期の女子がいた。
一見正論のように聞こえないでもないが、少し考えれば判る。
次工程が何なのかを知らないのなら、訊いて教わればいいだけだと判る。
そして、こんな青臭いことを言われた若月さんは彼女を真っ直ぐ見据えて放った言葉が凄い。
「 え?そんな屁理屈が通用する世界ってあるの?どこに? 」
まだ社会に揉まれていなかったあたしには大層ショッキングな出来事で、しかも、キツネ顔の美人・若月さんが堂々と言う嫌味は迫力満点で、痛快だった。
それから2年半、あたしは若月さんの下で、日に30回は叱られ(多い)週に10回は怒鳴られながら(多い)仕事をした。
若月さんは、自分が培った技術や知識やノウハウの全てを出し惜しみせず、物覚えの悪いあたしに根気強く教えてくれた。
あのやたら濃い2年半がなければあたしは未だに十人並みの仕事すらできない社会人だったハズだ。
とはいえ若月さんは、決して完璧な人ではなかった。
気分屋で、時には感情的にもなるし、正義感と責任感が強すぎるが故に融通が利かない。
社内に周知した締めの時間を1分でも過ぎれば、たとえ営業部長が「頼むよ」と言いながら持ってきた書類だろうと突き返すから、彼女を煙たがっている人は多かった。
だから、若月さんが寿退社することになると、あたしがイビられ続けていたと思い込んでいた人たちは口々に「これからは伸び伸び仕事が出来るね」という意味のことを言った。
でもあたしは、「若月さんの凄いところを何にも知らないくせに!」と猛烈に腹が立った。
2年半の間、どれだけ叱られても蹴られても(実話)泣きたくなることなんてなかったのに、送別会では若月さんの顔を見るたびに涙がジワーっと出てきた。
そんなダメな後輩を若月さんはギュっとして、言った。
「仕事中に泣いてたらブン殴ってたよ」
そう言われてどうしてかあたしは大泣きした。
なぜこんな昔話(3年前だけど!)を書いているのかというと。
片付けを始めてから暫くのあいだ、自分の手際や段取りの悪さを嫌というほど思い知るたび必ずあたしは、若月さんのことを思い出していたからだ。
1年くらい前からその頻度はだいぶ低くなっていたのだが、4畳半の傷んだ壁を剥がし、新しい石膏ボードを張る段になってからまた、強烈に若月さんを思い出すこととなった。
さて、4畳半の壁に石膏ボードを張る段である。
当初の脳内施工計画では、(まずベッドを撤去して)ここに石膏ボードを張ってからヤニまみれの壁紙と絨毯を剥がし、新たな壁紙と床材を張ろうとしていた。
ただ、頭のどこかにずっと、得体の知れない違和感みたいなものがあって、4畳半のベランダに出てタバコを吸うたびに、それの正体が何なのかをぼんやり考える日が続いていた。
一週間ほど経ち、どうやらその違和感が古い記憶と関係しているように思えてきたのだが、いつまで経っても答えに辿り着けない自分は、普段より更にアホ度が増してるようでイラっとした。
つーか、家に帰ってきた途端、頭の動きが呆れるほど鈍くなるのはなんでだ。
ああそういえば。
若月さんはこういう愚図をすごく嫌ってたよなあ。
「よくわかんないけどなーんか違う気がするんです」なんて呟こうものなら、「自分の頭が足りないからって、人の頭を借りようとするんじゃない」って叱れたもの。
若月さん、今は40代半ばになってるだろうけど、きっとあのまま要領よく家事をこなしてるんだろうなあ。
若月さんち、いつ遊びに行っても片付いてたし。
あ、そうだ。
若月さんと一緒に、会社の人の引越しの手伝いをしに行ったことあったな。
で、あたしの掃除の仕方があまりに酷くて、プライベートで初めて若月さんに叱られたんだった。
そうそう、思い出した思い出した。
壁紙にこびり付いたタバコのヤニを拭いてたときだ。
洗剤で浮き上がったヤニが指にべっとりついてたのを気がつかないまま、若月さんが洗った白い食器を掴んじゃって。
「余計な仕事を増やすな」って叱られたんだった。
懐かしー。
懐かしいなぁ・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ん ? ち ょ っ と 待 て 。
壁を作って壁紙と床を張り替えて、それからヤニ掃除するのか?

(ヤニ+土埃)
ん ? ち ょ っ と 待 て 。
壁を作って壁紙と床を張り替えて、それからヤニ掃除するのか?

(ヤニ+土埃)
そう、暫く頭の中にあった得体の知れない違和感はコレだった。
雨漏り痕のある石膏ボードを貼り替えることばかりに気を取られていたが、4畳半は全体が長年のタバコで燻されていて、壁紙や絨毯は剥がすからいいとしても、たとえばアルミサッシを見てみると、タバコの影響を受けていないところはアルミ色なのに、

影響を受けるところはことごとくヤニカラーになっている。
そして、モロに煙が当たる箇所はすっかり、
サッシはまだいいが、それがハマっている木枠は厄介だ。

石膏ボードを張り、壁紙を貼る前にここを掃除すると、せっかく張ったボードが引っ越しの時の白い皿みたいな事態になりかねない。
かといって、壁紙まで貼ってからここを掃除して、真新しい壁紙にヤニがついてしまってはもったいない。
そして何より、「諸々に気をつけながら慎重に木枠だけを拭く」などという、掃除に対する集中力があたしにあるわけがない。
・・・・と、ようやくここまで考えが行き着き、脳内施工計画を変更することにした。
壁 よ り 床 よ り 、 ま ず は ヤ ニ 掃 除 。

(「週末はヤニ掃除でもするか・・・・」と書いてから2年?・・・・2年!?)
というわけで、ようやく4畳半の掃除を始めたのが約3ヶ月前。
ケータイで撮った膨大な掃除写真は、「試しに」と、ブラインドに洗剤をスプレーしてみた画像から始まっている。

(うわっうわっうわっ)
この日からあたしは夜な夜な、若月さんにド突かれそうなやり方で掃除を続けることになったのだった。
(続く)
思いつきやノリで買ったっきり使わないでいた物のほとんどを処分して以降、めっきり、服や雑貨を買わなくなったため、以前のように「気づいたら物が増えてる」ということがなくなった。
ただ、大量に捨てたそれらは、朝から晩まで嫌なことや辛いことをぐっと腹の底に押し込めて働いてようやく稼いだ金で買ったものだったからあたしは、使いこなせなかった大量の物を捨てるという行為で、自分のバカさ加減を思い知ることになった。
つまり、今あたしが安易に物を買わないのは、二度と再びバカな自分を目の当たりにしたくないから、に他ならない。
でも、だからって未だにヤカンも鍋もフライパンも買っていないのはどうかと思うし、いくら使い勝手のいい物だからって、まともに使えないくらいボロになってるものを使い続けるのもどうかと思う。
物を大切に!とか節約とかエコとか言ったところで、古くなるモンは古くなるのである。
が。
毎日せっせと使っている物に限って、ボロになっても気がつかないものだ。
さて。
前回同様、気持ちよく晴れたある朝のこと。

資源ごみの回収日だったため、新聞やダンボールや雑紙をまとめてマンション1階の集積所に持っていった。

(この程度の量なら、4階から1階まで、1回に運べると最近気づいた)
汗だくで4階まで戻り、「ちょっとそこまで」な用事のときにいつも履いている靴を脱ぎ、それがなんだかヨレヨレなのに気がついた。

(年齢的にもアウトじゃあるまいか)
娘の行く末を案じた親の制止を振り切り、休みになれば早朝から海に行っていた20代前半に買ったエスパドリーユは、改めて見てみるとすげー汚くて、当時は物凄く気に入って買った記憶があるのだけれど、今も気に入っているかというとそうでもない。
「ちょっとそこまで」の時にだけ履いていたけど、そんな靴ばっかあっても仕方ない。
夏の休日はもう、Sassari
こうしてひとつのボロに気づいてしまったせいか、その日は、普段何気なく使っていた物をしげしげ眺めるようになり、伝線はしてないけどもしもの時(×色っぽいシチュエーション、◎その他のシチュエーション)にどうなのよ?なストッキングや下着をじゃんじゃん捨て、卵を入れた納豆をとくのに丁度いい大きさだけど随分前から欠けてしまっている40年物の小どんぶりを捨てた。


(5個組の4個目。残りの1個よ、あと20年くらいがんばってくれ)
そんなちまちました片付けでも、エアコンのない部屋で動いていればうっすら汗はかくもので、休日のまだ午前中だったけれど風呂に入ることにした。
で、風呂場で、毎日毎日使っているボロを見つけた。

(雑巾ではありません)
風呂場じゃちゃんと写らないので、部屋に持ってきてみた。

(重ねて書きますが雑巾ではありません。ボディタオルです)
そういえば随分前から、身体を洗っている最中に爪がひっかかるわ爪がひっかかるわ爪がひっかかるわで、朝から軽くイラっとしていたんだった。(カルシウム摂れ)
このボディタオルはもちろん捨てた。
で、新しいのを買ってこなくちゃなあと考えていると急に、だいぶ前にどこかでボディタオルを見たような気がしてきた。
なんかね、ピンクのヤツ。
あぶねーあぶねー。
在庫を使い切らないうちに新しいのを買ってしまうところだった。
発掘したはいいが、仕舞ってしまったが最後、二度と再び陽の目を見ないなんてことにならなくて本当に良かった。
新品ばかりに囲まれて暮らしたいわけでは全然ない。
でも、それしか無いならともかく、他に使える新品があるというのにずっとボロを使っていては、いつまで経っても物が減らない。
日常的に使っているとうっかりボロさを見過ごしてしまうけど(あたしだけか)、貰いもののタオルなんてのは、じゃんじゃん使ってしまおう。
・・・・なんてことを思ったり、雀荘に行ったり雀荘に行ったり悔しがったりしているうちに休日が終了した。
ところで、今あたしのいる部署は空前の打ち上げブームである。
これまでどんだけ辛かったのか、いや全然辛くも大変でもなかったのだが、やたら手のかかる仕事をひとつ終えたというだけで連日、「打ち上げ」という名の呑み会が開催されている。
ひとつの仕事が終わって思いっきり伸びをしたらすぐまた次の仕事があるわけで、いつまでも解放感に浸ってはいられないハズなのだが、上司と南国と山口とあたしの4人だけで、なんだか毎日呑んでいる。
そしてそれは、何回目かの打ち上げの席だった。
居酒屋の座敷で呑んだくれていると、どこかでケータイが鳴った。
それはどうやらあたしのらしかったが全く出る気がなく、でも、ケータイを入れたバッグを山口の背後に置いていたため、いつまでも後ろでブルっているのが気になって仕方ない山口が、出ろとウルサイ。
「酔って電話に出てどんな用が足せるっつうの」
「つうか、よく誰からの電話なのか気にならないね」
「うん、全く」
が、そう話している間にいったん切れたケータイがまたジージー鳴り出した。
「出なよー」
「あ、じゃあ電源切るから、取って」
「あ?」
「バッグの上のほうにケータイ見えるでしょ。取って」
「ああ」
そうして山口があたしのバッグを覗いた。
で。
うひゃうひゃと笑い始めた。
「なに」
「ありえねー!うひゃひゃひゃ」
笑い転げる山口を見て、上司と南国が食いついた。
「なんだ?何を見つけた?山口」
「夏目のバッグになんか面白いモンでも入ってたか?」
上司のその言葉を聞いて改めて自分のバッグの中身を思い返してみたが、ケータイ以外は、財布と化粧ポーチくらいしか入っていないハズだ。
山口が笑い転げている間にまたケータイのジージーは止み、でも何度もバッグを覗いては笑っている山口が気になって言ってみた。
「だからなに」
「ねえねえ夏目さん、ちょっとバッグの中身、出していい?」
「おう」
すると山口は、「腹いてー」とか言いながらバッグに手を・・・・いや、指を突っ込み、親指と人差し指だけである物を摘み上げた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
な、な、何のことはない、キーホルダーである。
酔っていたからではなく、素で、山口がこれのどこに笑っているのか判らなくて、暫く黙った。
が、これを見た上司も南国も、ウルサイくらい笑っている。
「え。なに。キティだから笑ってんの?」
素で訊いた。
すると、てんでバラバラの方を見て笑い転げていた3人が一斉に真顔であたしを見た。
そして、見事に声を合わせて言った。
「 き っ た ね ぇ か ら 笑 っ て ん の っ 」
前出のエスパドリーユより汚い物が不得手な方は
静かにブラウザを閉じてください。

(before → after)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
野 良 猫 か 。
前出のエスパドリーユより汚い物が不得手な方は
静かにブラウザを閉じてください。

(before → after)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
野 良 猫 か 。